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「シノビピロウさん。私の合図で一匹ずつ『ガイガイネン』をバリケードの中に通しちゃって下さいねー! これ以上、邪魔が入ると最悪詰むので、『ガイガイネン』に足止めしてもらいますのでー」
「分かったピロ…… 」
『シノビピロウ』は俺が塞げなかったバリケードの穴の前に立ち、ゆっくりと忍刀を抜いた。
「おら、てめぇはこっち来いペン! 俺が相手してやるペン! 」
『マッハマーズ』の頭を抑えて、『ペンドラゴン』が戦闘員たちから引き離す。
「気安く私に触るな! 」
『マッハマーズ』のパンチが当たる直前、『ペンドラゴン』は『マッハマーズ』の頭を振って離す。
喧嘩慣れしているな。
俺は残っている車両の影に隠れるように、走りながら『マッハマーズ』に近づく。
まずはコイツだ。
「ゐーっ! 〈【賢明さ故の勝利】〉」
HP1200。
『ペンドラゴン』の必殺技【魔剣グラム】は固定の800ダメージだ。
『ペンドラゴン』の性格的に頭に血が昇ったら、使う。約束なんか関係ない。
つまり、それ以外の技で最低でも400ダメージ与えなければならない。
『ペンドラゴン』がな。
俺のダメージなんぞ、たかが知れてる。
だから、いつもの嫌がらせだ。
「ほう……HP1200かペン」
「何? 」
「こりゃユニークスキルペン」
「何をごちゃごちゃと! 」
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
『マッハマーズ』の攻撃を『ペンドラゴン』は、タイミングを外すことでスカしたり、近くの『ガイガイネン』を利用して擦り付けたりして巧みに躱していく。
『ペンドラゴン』は再生怪人だ。
おそらく『マッハマーズ』の通常攻撃を数発食らったら死ぬ。
「【竜炎の芯】ペン! 」
「【超速回避】【超速攻撃】」
『ペンドラゴン』の竜炎を一瞬で躱して、次の瞬間にはパンチが入っている。
「ぐぶぁっふペン! 」
『マッハマーズ』はスピード重視のスキル構成らしい。
俺の【夜の帳】はまたもや置いてきぼりだ。
まず捕まえる。
「ゐーっ! 〈【誘う首紐】【緊急回避】〉」
俺の右腕から鎖が伸びて、『マッハマーズ』の首に。
「ちぃ! この程度! 」
『マッハマーズ』が戦闘員と侮ってくれたからこそ、俺のスキルの連続使用が決まる。
「【万年筆の爪】ペン! 」
【誘う首紐】に自動付随する【叫びの岩】の『鈍重』に『マッハマーズ』は掛かった。
それを見越していたかのような『ペンドラゴン』の【万年筆の爪】が決まり、「80」ダメージ。
ここしかないと、俺は『マッハマーズ』と目を合わせる。
「くっ……この…… 」
「ゐーっ! 〈【血涙弾】〉」
「もう一発ペン! 」
「ぐあ、があああっ! 」
俺の【血涙弾】を目に食らった『マッハマーズ』は『盲目』と『弱毒』になる。
【血涙弾】の『盲目』は俺が見つけた副次効果で、ヒーローのヘルメットを血で汚すことになる。
メガネが汚れて見えない状態のようなものなので、拭えば落ちるが拭わなければ『盲目』は剥がれない。
とてもいやらしい攻撃だったりする。
俺は慌ててHPポーションを被る。
消費が激しい技だからな。
『マッハマーズ』の受難はそれで終わらない。
『ペンドラゴン』の【万年筆の爪】は俺の【神喰らい】と同じく、一度発動させれば暫くの間使える武器という扱いのようだが、『ペンドラゴン』はこの万年筆で『マッハマーズ』の背中にバツの字を書いた。
そのバツの字は、どうやら特殊効果があるらしく状態異常『劇毒』を与えるらしい。
万年筆攻撃で「82」ダメージのあと、定期的に「10」ダメージが入る。
『マッハマーズ』は首の鎖を引きちぎろうと必死に力を込めるが、外れない。
「おら! 【竜炎の芯】ペン! 」
炎を纏ったシャーペンの芯が『マッハマーズ』の背中に突き立ち爆発する。
「120」ダメージ。
「くっ……先史文明を舐めるな! 【蛸足の恐怖】」
『マッハマーズ』のショルダーガードが浮いて、赤い蛸足が伸びる。
俺の身体には赤いラインがまとわりつく。
【野生の勘】のものだ。
「ゐーっ! 〈嫌な予感かよ! 【封印する縛鎖】【逃げ足】……いぃってえぇっ! 〉」
俺は【誘う首紐】の鎖を【封印する縛鎖】の代価で腕をちぎって脱出、そのまま距離を離す。
があああっ! いってえぇぇぇっ!
一瞬、乱れそうになる思考を必死に繋ぎ止めながら、HPポーションを被る。
『マッハマーズ』は新たな鎖に巻き付かれ、大量の状態異常に見舞われる。
だが、【蛸足の恐怖】は止まっていなかった。
『ロータスフラワー』の使った自動攻撃スキルのようなものか?
『マッハマーズ』の肩から伸びる蛸足が『ペンドラゴン』を捕らえる。
「ちっ! なんだこれは気持ち悪いペン! 」
『ペンドラゴン』は蛸足を引きちぎるが、引きちぎられた蛸足は再生、再度『ペンドラゴン』を捕らえに掛かる。
そして、蛸足に捕らえられている間は「20」点程度の継続ダメージが入る。
それに気付いた『ペンドラゴン』は焦って蛸足を引きちぎることに集中するが、二本の腕と八本の足では、どうあっても追いつかない。
俺が与えた状態異常は、さすがに能力値十倍のヒーローに届く訳もなく、鎖が一本、また一本と外れていく。
早く『ペンドラゴン』を解放してやらないと不味い!
俺は残った左腕を変じさせる。
「ゐーっ! 〈魔石が使えないのがキツイな……【神喰らい《オオカミ》】〉」
左腕が狼頭になる。
これでHPポーションを振り掛けるのも不可能になった。背水の陣というやつだ。
早く喰わないと、HPの減少が止まらねえ!
「ゐーっ! 〈急げよ、バルト! もういくらも保たねーぞ! 〉」
『ペンドラゴン』に近づいて、蛸足を喰らう。
───神・クトゥルフを喰らいました───
頭の中にアナウンスが響く。
ぬおっ……力が湧いて来る。
それと、蛸足のコリコリ感が凄い。
醤油とわさびが欲しくなった。
───ヒーロー『マッハマーズ』の能力値が一分間、加算されます───
なんだ? ヒーローを喰らうと相手の能力値が一分間、加算?
「くはっ……ハァハァ……すまねぇ……助かったペン…… 」
『ペンドラゴン』が礼を言ってくるが、俺はそれどころではない。
現在、絶賛混乱中だ。
「ぬおおああぁっ! 【超速攻撃】! 」
ヤバい! 『マッハマーズ』復活と同時に俺は【超速攻撃】で殴られた。
顔が変形するんじゃないかという衝撃と共に、俺はぶっ飛んだ。
離れた場所にいた『ガイガイネン』にぶつかって、『ガイガイネン』がゴロゴロと転がる。
くっそ! いてぇなあっ!
俺は立ち上がる。立ち上がってから気付く。
「ゐーっ…… 〈死んで、ない…… 〉」
一瞬だけステータスを確認すると、俺のHPに1200が加算されていた。
今の一撃で「30」ダメージくらいか。
ヒーローって硬いんだな。そんな感想が頭を過ぎる。
なるほど、つまり今の俺はヒーローと同等、いや、俺の元の能力値分だけ上ということか!
───残り︰30───
あと三十秒しかない。走れ!
「やろう……もう許さねぇ! 砕けろ! 【魔剣グラム】! 」
「ゐーっ! 〈バカか!? まだ400点、削ってねーよ! 〉」
爆発。
炎と煙が晴れていく。
動きを止めた『ペンドラゴン』と手刀を構える『マッハマーズ』。
「惜しかったな……だが、耐えきったのは私だ! 【狂気の神】…… 」
『マッハマーズ』の手刀が黒く煮え滾る。
宇宙が手刀に宿っていた。
ばくんっ!
俺の伸ばした左腕が、黒く煮え滾る手刀を喰らった。
「ぎ、ぎいぃやあぁぁぁっ! 」
『マッハマーズ』が叫ぶ。
いや、今までの動きを見る限り、感覚設定︰デフォルト だろう?
痛いというより、驚いたのか。
「な、なんで腕が! はっ! お、お前かああああああっ! 【古代核戦争】!! 」
飛び上がった『マッハマーズ』が赤い一矢となって飛んで来る。
俺は避けきれず、胸で受け止める形になる。
「ゐーっ! 〈この、クソがあああっ! 〉」
俺の【神喰らい】が膨大なエネルギーを今にも爆発させようという『マッハマーズ』の足を噛みちぎる。
同時。爆発と足を噛みちぎるのが同時だった。
俺はバリケードの方へ飛ばされ、『マッハマーズ』も爆発の余波で飛ぶ。本来ならば、そのまま着地するのだろうが、片腕、片足を無くした『マッハマーズ』は崩れ落ちた。
俺がバリケードにしたバスと乗用車にバウンドして落ちた先は、サクヤのところだった。
サクヤがキョトンとして俺を見ていた。
「ゐー…… 〈すまん、半殺しで許してくれ…… 〉」
俺に言われて、始めてサクヤは『マッハマーズ』へと目を向けたのだろう。
俺の頭を軽く撫でて言った。
「んー、冷静に考えたら、半殺しの方が都合がいいのでー……許しましょー! 」
腹が減ったと思えば、体力は0。
加算されていたHPはなくなって、元のHPがどんどん減っていく。
身体を動かすのも億劫で、俺の身体は粒子になって消えた。




