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60〈はじめてのマッハマーズ〉


「変身ミザ! 」「変身ピロ…… 」「変身! 」「だーい変身!! 」


 煮込み、ムック、ナナミ、バルトの四人が変身する。

 今回の作戦の肝はこの四人と俺に掛かっている。


「マンティスミザリー、ミザ! 」


 煮込みは、基本のフォルムをやはり『血鎌蟷螂』にしたらしい。

 カマキリドレスを着た貴婦人系怪人という姿になった煮込み。

 肘からカマキリの鎌が出ていたり、肩の膨らみがカマキリの顔だったり、おどろおどろしい貴婦人姿だ。


「シノビピロウ、見参、ピロ…… 」


 ムックは前と同じ、両肩に枕を装備した忍装束の魔人といった出で立ち。


「ブラシアラシ、ブラ! 」


 ヤマアラシの背中の棘が髪を梳くブラシになっているブラシアラシという怪人にナナミは変身した。

 これ、強いのか? 肝心の棘の先端が頭皮に優しい丸まり仕様になっているんだが……。

 恐ろしい爪のある手には、まんまデカいブラシを持っている。

 なんだろうな。強そうな部分が全部台無しというか、残念な形になっている。


「ペンドラゴン、俺が噛み砕いてやるペン! 」


 バルトは鎧を着たドラゴンという姿になった。手甲と脚甲は万年筆。ドラゴンの角はシャープペン。鉛筆が重なってできた胸当てという、ペンの鎧を着たドラゴンだ。

 結構、シャープな印象で強そうだ。ペンだけに……。


 大型、小型『ガイガイネン』たちが列を成して襲って来る。


「ペンドラゴン、【魔剣グラム】使ったら許さないミザ! 」


「ちっ! わぁーってるペン! 」


 俺たちとバルトで交わした約束。

 【魔剣グラム】は使わない。

 あんな隙の大きい技を使われたら、大量の『ガイガイネン』を前に、殺して下さいと言っているようなものだ。

 これを約束させた時、『火炎浄土』の戦闘員から「ありがとうございますっ! 俺たちじゃリーダーに言えなくって…… 」とこっそり感謝された。


 四人の怪人が戦う。

 さすがに変身した怪人たちは強い。

 特にナナミが変身した『ブラシアラシ』は、棘をミサイルのように飛ばす範囲攻撃を持っていて、予想外の強さだった。


 さて、俺たち戦闘員の出番だな。

 駐車場にある大型バスや乗用車。これを使ってバリケードを作るのが俺たちの仕事だ。

 乗り捨てられている車は割と簡単だ。

 今の時代、緊急時に車の鍵を中に入れたままにしておくのは常識だからな。

 『ガイガイネン』に猛スピードでぶつけつつ、所定の位置に配置してやる。

 それなりにダメージが出るのもあるが、どちらかと言うと重機みたいな使い方をしている。

 『ガイガイネン』を退かしてやるのだ。

 これで少しずつスペースを作っていく。


 俺の出番は、鍵のない車を動かす時だ。

 自分で言うのもなんだが、グレてた時は車の改造やら放置車の窃盗の仕方なんかを、ワルの先輩から教わったりしたもんだ。

 まあ、自分でやったことは無かったんだが、ゲーム世界でリアルスキルが使えると分かったからな。

 車のコントロールパネルの下を開くと整備用のパネルがあって、そこに電気を通して、ちょちょいとやれば……って窃盗の仕方を伝えてもしょうがない。


 電気? 『ショックバトン』は雷魔法が詰められたバトンらしい。


「【妄執の鎌(ストーキング・ラブ)】ミザ」


 鎌の幻影が執拗に『ガイガイネン』を追って切り刻む。


「【手裏剣投擲フウマ・ダガー】ピロ」


 手裏剣を大量に投擲することで擬似範囲攻撃をする。


「【弾頭棘飛来トゲ・トゲ・パニック】ブラ」


 例のトゲミサイルだ。『シノビピロウ』と連携することでかなりの成果を上げている。


「【竜炎の芯(ドラゴニック・HB)】だペン! 」


 口から吐き出すのは炎を纏ったシャーペンの芯だ。当たれば、そこを中心に爆発する。


 四人の奮闘に応えるべく、俺たちも車を集めていく。


「おらー! 邪魔だボケェ! 」


 車に乗った瞬間、coinの性格が豹変する。

 ストレス溜まってんのか? 今なら発散し放題だな。


「ゐーっ! 〈よし、こいつで最後だ! 〉」


 俺は最後のバスを動かす。


「とうっ! 【古代核戦争アトミックキック】! 」


 俺のバスの目の前を通過した赤い矢が、『ブラシアラシ』の腹部に突き刺さる。

 それは、あまりに突然の出来事で、一瞬、何が起きたのか、俺たちの誰も気付けなかった。


「貴様ら何を企んでいる! 例え何を企んでいようと、この先史文明の戦士、『マッハマーズ』が古代からの教訓を叩き込んでやる! 」


「く、だ、大首領様、万歳ブラー! 」


 ナナミが爆発して散った。


 俺の運転するバスは爆発を尻目に予定位置で止まった。


 何故だ? そう思った。

 何を企むもなにも、見たら分かるだろう。そうも思った。


 NPCは怪人世界から見て無くてはならない存在だ。

 感情エネルギーの元だからだ。

 そのため、傷つければペナルティもある。

 俺もログアウトすればただの人間に過ぎない。

 その人間としての感情がゲーム世界の人間を助けることを選んだ。


 確かに、出会ってしまえば、ヒーローと怪人はそれぞれの世界を守ろうとしている敵同士。

 それがこのゲームの主旨なのだから、当然、戦う。


 だが今回のイベントはプレイヤー全員が、ヒーロー、怪人の垣根を越えて新たなる脅威に立ち向かうという主旨のものだ。

 そうだというのに、コイツはナナミが怪人だという理由だけで殺した。


 衝突を避けようとした俺たちの努力は水泡に帰した。


 水泡に帰しただけじゃない。


 俺たちは『マーズエンジェル』の手助けをしていたのだ。


 コイツがここまで出張って来られたのは、俺たちが防衛線を張って、コイツの手助けをしたからだ。


 それなのに、この仕打ちか。


 俺はバスのギアをバックに入れて、アクセルを全開にした。

 バスの自動安全装置は『ガイガイネン』にぶつけるために切ってある。


 そちらがそういうつもりなら、コイツを倒して、俺たちが入口を守ってやってもいいだろう。


 バスが急加速して『マッハマーズ』に迫る。

 『マッハマーズ』が俺の操るバスを受け止めた。


「ぬおっ! この程度で…… 」


 アクセルは既に全開だ。

 バスの装甲が軋みを上げる。タイヤの空転する音が響く。


「ゐーっ! 〈くそったれがあぁぁっ! 〉」


 俺は無理を悟って、バスを捨てた。


「はんっ! そのような猿知恵で先史文明を超えることなどできぬ! 」


「おいいいっ! お前、なんで急に襲ってきやがったペン! 」


「先史文明の英智が私に囁いたのだ! 悪の動きには必ず企みがある! だから私は先手を取らせてもらったということだ! はーっはっはっはっ! 」


「ふざけんなペン! お前らが壊滅しそうだって言うから助けに来てやったって言うのに、それをお前えぇぇぇえええっペン! 」


 『ペンドラゴン』の指が『マッハマーズ』に突きつけられる。

 『マッハマーズ』は何処吹く風と肩を竦める。


「その程度、先史文明の英智が騙される訳なかろう……お見通しなんだよ、悪の手先め! 」


 今度は逆に『マッハマーズ』が『ペンドラゴン』へと指を突きつけた。


「ペンドラゴン、そいつは無視して、こっちを手伝うミザ! 」


「くっ……まだ数が減らないピロ」


「そんな訳に行くかペン! こいつを無視したら、俺たち全員殺されて、サッカー場のNPC共が大変なことになるペン! 」


「ゐーっ! 〈サクヤ、皆を纏めて、煮込みとムックのフォローを頼む! 俺はペンドラゴンと一緒に、コイツを倒す! 〉」


「ははーん、さてはグレンさん、怒ってますねー? 」


「ゐーっ! 〈ああ、このスカした先史文明ヤローにムカついてたまらねえ……そっち任せていいか? 〉」


 俺は舌なめずりしながら、『マッハマーズ』に近づく。


「じゃあ、私の分とナナミちゃんの分をお願いしますねー。

 そういうことなら、承りますよー」


 サクヤもやっぱりムカついていたか。

 いや、この場にいる全員の気持ちは似たようなもんだろう。


「ゐーっ! 〈ああ、全員分、まとめて引き受けた! 〉」


 そう言って俺は駆け出した。



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