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いきなり始まった緊急イベント『飛来せし文明の破壊者』。
理外の者『ガイガイネン』をヒーロー・怪人が共闘して殲滅するというイベントだ。
カオスな大首領たんの言葉によれば、ゲームエンドの危機を回避するイベントということになるらしいが、まあ、これは今は置いておこう。
幹部会で運営に問い合わせするらしいしな。
俺たちの担当は『シティエリア』の『遊興区』。
『遊興区』はいわゆる、遊園地やら屋内プール、屋内スキー場、ボーリング場にサッカー、野球、ラグビー、などのスポーツ施設、アイドルコンサート会場に演劇場などの遊興関係の施設が集まった場所ということになる。
区画としては、かなり広い場所らしい。
この『遊興区』の防衛に当たるのが俺たち『りばりば』と『火炎浄土』という怪人レギオン。
割り振りが決まっているのは中規模レギオンまでで、それ以外の小規模レギオンや野良戦闘員は自由ということになっている。
フレンドリーファイアありなので、特にヒーローレギオンとの共闘は注意が必要だ。
「お、やっぱりいましたねー。
グレンさん、こんばんはー」
「ゐーっ! 〈おう! サクヤ! 〉」
「煮込みんとムックさん、あっちに集まってますよ。一緒にどうですか? 」
「ゐーっ! 〈ああ、じゃあ、一緒させてもらおうかな〉」
「ええ、いきましょー、いきましょー! 」
すっかりいつものメンバーという感じになってきたな。
「あ、グレンミザ! 」
「見つけたので連れてきちゃいましたー」
「ゐーっ! 〈レベル的には足手まといだが、一緒に行ってもいいか? 〉」
「グレンなら歓迎ミザ! 」
「あ、こちらも友人が一緒ですが、大丈夫ですピロ? 」
見ればムックと一緒に、二人の戦闘員が立っている。
「ゐーっ! 〈ああ、俺は構わない。言葉通じなくて悪いな。グレンだ〉」
「大丈夫、言語スキルはガチャ運悪くてとれてないって言ってるミザ」
「ああ、そうなんですね。PK殲滅部隊のcoinです」
ガタイのいい男戦闘員だ。ちょっとマンジの『にこぱんち』に似ている。
「同じく、ムック隊長にお世話になっているナナミです。よろしくお願いします」
こちらは女性戦闘員だ。
女性戦闘員は顔出しが多い。ピンクの短髪を無造作に遊ばせている、見た目二十歳くらいか。少し吊り目気味で気が強そうにも見える。
俺たちは装備部でいつもの『ショックバトン』を借り受けて、ポータル転移するのだった。
『りばりば』のカモフラージュ転移場所のひとつ、寂れたビリヤード場に着いた。
俺たちは五〜十人くらいで一グループになって行動することになる。
煮込みは代表で本部とのチャットを繋いでいる。
「とりあえず、どこに行くミザ? 」
煮込みが聞いてくる。
「候補はありますかねー? 」
「コンサート会場、サッカー場に『ガイガイネン』発見情報があって、それぞれに五グループ向かっているから、他のところを探して欲しいって本部は言ってるミザ」
「ゐーっ! 〈特撮物なら遊園地だろ〉」
「グレンはベタなとこ選ぶミザ」
「遊園地、いいと思うピロ」
「近場ですし、いいと思います」
とcoinが賛同してくれる。
俺たちは遊園地に向かう。
デカい観覧車が、寂れたビリヤード場の駐車場からでも見てとれる。
「ああ、グリムランドとか久しぶりですねー」
遊園地はグリム童話を題材にした『グリムランド』と言うらしい。
それはいいんだが、辺りではパトカーや救急車のサイレンがひっきりなしに鳴っている。
「ゐーっ! 〈なあ、もしかしてこのイベントってNPCが消えてないのか? 〉」
「あらー、だとするとマズイですねー」
寂れたビリヤード場の近くは人がいないので問題ないが、普段の『シティエリア』に戦闘員姿で出るのはかなりマズイ。
ここにいる一般人〈NPC〉からしたら、俺たちは悪の組織だからだ。
俺たちはその場で人間アバターに着替えた。
道を進む。途中、『ガイガイネン』の姿は見えないが、パトカーが野球場が避難場所になっているからそちらに向かうようにとスピーカーで流しながら走っているのを、道の陰でやり過ごす。
『グリムランド』エントランスは無人になっている。
施設は勝手に動いているので、一種異様な光景だ。
「私、年パス〈年間パスポート〉持ってるんですけどね…… 」
ナナミがなんとも複雑な表情をして、入場門を乗り越えた。
さすがにアイテム消失の可能性があるイベントに年間パスポートは持って来られないからな。
「それならナナミに案内を頼むピロ」
「いいですよ。メルヒェン系と絶叫系、どっちから行きます? オススメは絶叫系のファストパスを取ってから…… 」
「ナナミちゃん、広場はどっちミザ?
情報によると『ガイガイネン』は小さくて乗用車、大きいのはトラックくらいの大きさがあるらしいミザ。
ある程度、広いところにいると思うミザ」
煮込みが暴走しかけるナナミの意識を現実に引き戻す。
ナイスだ。
「広場……では、ブレーメンの音楽隊広場に行きましょうか」
俺たちはナナミの『グリムランド』攻略法を聞きながら、ブレーメンの音楽隊広場へと向かう。
「やめろー! こっちくんなー! 」「お兄ちゃん、怖いよー! 」
子供の兄妹。逃げ遅れたのか。
その子供の兄妹を追うのは乗用車サイズの虫型『ガイガイネン』だった。
「ヤバいピロ……なんとかアイツの注意をこっちに向けないとダメピロ! 」
「お任せくださいなー。ひひーん! 」
サクヤが叫んで、俺たちを見回す。
ナナミがポンと手を打った。
「わおーん! わん、わん! 」
「に、にゃーミザ! にゃーミザ! 」
煮込みの視線が俺に向けられる。
お、俺か? ムックとcoinの視線も俺に向かっている。いや、お前ら……ええい、ままよ、と俺は叫んだ。
「ゐーゐゐっゐーっ! 」
『ガイガイネン』が触角のようなものを動かして、こちらを向いた。
俺たちは物陰から姿を表す。
ぬるり、とムックが隠れて兄妹の元へ向かった。
「もう大丈夫ピロ。偉い! 良く頑張ったピロ」
兄妹はされるがままにムックに背負われ、担がれる。
みょいん、と空間が振動したような奇妙な音がして、俺たちが隠れていた物陰、ニワトリ、ネコ、イヌ、ウマのポップな彫像が爆煙に包まれた。
俺たちは、人間アバターを脱いで戦闘員になる。
「ゐーっ! 〈おっしゃ! ムックと反対方向に引き付けるぞ! 〉」
インベントリから『ショックバトン』を取り出しながら走る。
小型『ガイガイネン』にまずは一撃。
「ゐーっ! 〈見た目がグロいんだよ! 〉」
ボタンを押して、『ガイガイネン』にショックが走る。「73」点ダメージ。
だが、状態異常が入らない。
「ゐーっ! 〈なんだ? 『麻痺』しないぞ! 危ねぇ【逃げ足】〉」
慌ててダッシュで逃げる。
みょいん、また空間振動音。
「あ…… 」
ナナミの足が爆散して、ナナミは『驚く盗賊たちの小屋』の屋根まで飛んだ。
「射線、見えなかったミザ! 」
確かに。ビームでもレーザーでもなく、魔法の痕跡もない。空間振動音と表したが、音波とも違う気がする。
みょいん。俺は何か嫌な予感がして【緊急回避】を使った。
赤い点が俺の腰があった辺りについている。
あれは【野生の勘】の光?
「ゐーっ! 〈たぶん、座標指定型の攻撃だ! 〉」
赤い点を中心に空間が割れ、爆発した。
「じゃあ、恒例の属性チェックいきますよー」
サクヤの属性弾が次々と着弾、10点程度の白抜き文字がいくつも上がる。
「あらー、属性、関係なさそうですねー」
状態異常も属性も関係ないとなると、力押ししかなくなる。
俺に不利な状況か。
「ゐーっ! 〈【賢明さ故の勝利】〉」
俺に疲労が溜まる。
小型『ガイガイネン』のHPは全部で500前後。MPも似たようなもんか。体力はほぼ1000くらいで疲労が100。
弱点カーソルはあちらこちらと『ガイガイネン』の身体の中を移動している。
「うおっ! ステータスが見える…… 」
「グレンのスキルミザ」
驚くcoinに煮込みが説明する。
みょいん。みょいん。みょいん。
俺は走り回る。どうやらヘイトは俺にあるようだ。
先のレベルアップで俺の体力を増やしたとは言え、俺の体力は28。
こんなことしてたら、簡単に枯渇する。
「ゐーっ! 〈おい、俺の体力が保たないぞ! 〉」
「おお、マズイミザ! 【甲虫の鎧】【オーク材の壁】それから【両断刃】ミザ! 」
二本の光の刃が小型『ガイガイネン』に当たると、『ガイガイネン』は爆散した。
「おっと、ヘイトだけでなく、命まで取ってしまったミザ…… 」
「それは、ヘイト取れてないのでは? 」
coinは融通が効かない男のようだ。
金属音かと思えば、それは空気を切裂く音だった。
空を見上げる。
新しい『ガイガイネン』が降って来ていた。




