54〈接待BBQ〉
皆と分かれ、最後にレベルアップ後のポイント割り振りをして、俺はログアウトした。
名前:グレン〈Lv51→61〉
〇力:6→11
〇器用:15
〇素早さ:18
〇知力:30
〇精神:15
〇特殊:59→69
〇生命:10→15
〇運:8
〇魂:『フェンリル』『グレイプニル』『ダークピクシー』
〇スキル〈残り1〉:【回避】20→30【夜の帳】20【全状態異常耐性】30【回し蹴り】20【農民】11→21【装備設計】1【封印する縛鎖】20【血涙弾】10→20【言語〈古代〉】15【擬態】13
〇派生アーツ
【緊急回避】【野生の勘】【孤高の群れ】【闇芸】【闇妖精の踊り】【賢明さ故の勝利】【希望】【神喰らい】【正拳頭突き】【餅つき】【誘う首紐】【叫びの岩】【栄養満点】【豊作】【逃げ足】【地面擬態】【古代の読み書き】【トラップ看破】
△副能力値
△装備重量:12→22
△ダメージ:+16→26
△武器命中:+25→30
△回避:+33
△装備設計:+38
△状態異常:+89→99
△異常耐性:+74→84
△体力:28→33
△疲労:24
△HP:39→44
△MP:105→115
装備重量や体力、HPを上げるため、力と生命を上げた。後はひたすら強みである特殊に能力値を割り振るのは基本だろう。
これでもう少し高い防具を装備できれば、今よりはフィールド内で死に難くなるはずだ。
派生アーツも確認しておこう。
【孤高の群れ】
代価︰???
敵モンスターのテイムが可能になる。
・孤高と孤高が出会った時、それが群れの始まりである。まとまりなどなくとも、我らには繋がりがあった。
【闇妖精の踊り】
攻撃︰状態異常値 射程︰20m 対価︰MP30
闇芸によって繋がった相手を影によって操る。状態異常『マリオネット』の間は動かせる。
・私たちの踊りは炎の影みたいにやるの。
ほら、ゆらゆら、ごうごう、ポンと消えて!
【豊作】
自身の畑は手を入れれば入れるほど豊作になる。
・あたりめえだろ。はたらきゃ増える。やらなきゃ減る。それ以外に何があるっつうんだ?
【地面擬態】
代価︰疲労3
その場で地面に擬態することで脅威をやり過ごす。地面の擬態色になるだけの効果。
・ぺた。なんとかやり過ごせ。じっと動かずに。
☆1だな。☆2のロンリーウルフのテイムは面白いか?
ダークピクシーは代価が重い。パッと見だと強そうに思えるが、☆1だからな。
軽く確認だけして、ログアウトする。
今日で六日目だったか。
濃いゲーム生活だな。
従妹にいつものレポートを送る。
───くあー羨ましい! 早く私もゲームしたーい! ───
───そのゲーム欲を抑えるためのリポートじゃねえのかよ! ───
───違うね! そのゲーム欲を養うためのリポートだね───
従妹にかかると、そういうことになるらしい。
───まだ医者の許可は出ないんだろ? ───
───うん。ゲーム繋いでる時間あるなら、再生ポッド入れって。自然治癒の方が身体が強くなるって話聞いたから、ポッド拒否してるけど、最近、ちょっと負けそう───
───再生ポッドか……俺もあんまり好きじゃねえから、何とも言えねえな───
最近、話題の再生ポッドは劇的に入院期間を短縮してくれるとかいう触れ込みだ。
ただ、情報を集めてみると、どうやら超豪華な料理機による再生医療ということらしい。
確かに人工合成食料は、俺も普段からお世話になっている魔法の粉で、作ろうと思えば食品の原材料すら作れる。
骨と肉と皮、それに付随する筋やら何やらと魔法の粉ひとつから作れるなら、人間だって作れることになるのは分かるが、どうも心理的ブレーキがかかるんだよな。
考え方が古いのかね?
まあ、決めるのは静乃と家族だ。
俺から言えることはない。
───あ、そんなことより、『無常なる高野の山脈』のボスA.I.が生々しいレベルでバージョンアップしてるって話なんだけどさ───
おう。もうゲームの話に戻るのか。
───グレちゃんの感想は? ───
───やべぇ。こっちの健闘を笑ったり、ゲーム的な挙動を超えた動きをしてきて、やべぇ───
───語彙力に期待はしてないけど、ここまでとは……侮れないね。ゴクリ…… ───
───いや、顔に溶解液が掛かった時の痛みを堪える表情とか、俺を真っ二つにする時、喜びにうち震える顔とか見ると、ヤバさが分かる───
───ブフォw 何やってんの…… ───
───いや、最近よくつるんでるサクヤってやつが、これまたやべぇ女でな。フレンドリーファイアがねえからって、俺の背中越しに敵を狙うとかやるんだよ───
何故かゲーム内フレンドについて、あれこれと聞かれるので、従妹の慰みになるならと、俺は聞かれるままに答えて夜は更けていった。
入院生活も暇だろうからな。
たまには付き合ってやるか。
朝、寝坊して、それを取り返すべく残業を入れて、ようやくの終業だ。
かなり簡単に現実の食事を済ませて、俺は『リアじゅー』にログインするのだった。
「ゐーっ! 〈ふう、間に合ったか…… 〉」
バーベキュー会場は『シティエリア』内『郊外』、俺の畑の近くの空き地ということになっている。
俺はさっそく人間アバターを着込んで、畑の様子を確認。
バーベキューセットはレオナが用意すると言っていたので、そっちは任せるとして、とりあえず会場に行こう。
『シティエリア』の『経済区』から電車に揺られて『郊外』へ。
『経済区』では初めてのお買い物をしてみた。
いや、喋らなくても意外といける。
たまに咳払いをして、声が出せないフリをしたが、特に疑われることなく、幾つかの必需品を買えた。
俺の畑が見えてくると、その隣の空き地で既に仮設テントが張られ、準備万端という感じだった。
「お、グレンが来たミザ! 」
「ゐーっ! 〈皆、早いな〉」
「レオナさんは、お客様を迎えに行っているそうで、まだ少しかかると言ってましたよ」
迎え? ああ、何人か連れて来たいやつがいるとか言ってたな。
「ゐーっ! 〈何か手伝えることあるか? 〉」
「グレンはまず収穫ミザ! 」
それもそうか。俺は自分の畑に入る。
まとめてドローンで収穫してもいいんだが、派生アーツ【豊作】によって、自分の手を入れた方がいいらしいからな。
少しくらいはやってみるか。
眺めていると、なんとなくどうすればいいのかが分かってくる。
【農民】スキルのおかげか。
「手伝うピロ」
やることがなくなったのか、ムックが手伝いを申し出てくれる。
「ゐーっ! 〈おう、すまんな。じゃあ、そっちの胡瓜とか茄子を頼む〉」
俺の畑は五十区画で一区画に十個の種が植えられる。
半分は薬草畑になっているので、そちらはドローンに任せる。
ちなみに、精霊樹も薬草畑に植わっている。
まだ若木だが、すでに葉も実もついていて、すぐにも立派な木になるだろう。
実が虹色の林檎みたいなんだが、これって食えるのかね?
ドローンによる収穫はされてないようなんだが……まあ、物は試しだ。
ひとつもいで、匂いを嗅ぐ。
甘酸っぱい香りはやっぱり林檎のようだ。
手に持った感じは少し柔らかくて洋梨が近いか?
食えそう、だよな。俺の【農民】スキルはOKを出している気がする。
少しだけ齧る。
食感は洋梨だな。しかも果汁たっぷりのやつだ。
甘い……少しだけ酸味もあって、爽やかな香りがする。
味は表現が難しい。強いて言うならラムネ?
いや、とても美味い。果肉は乳白色で皮は虹色。爽やかな甘酸っぱい香りで果汁たっぷりのラムネ……うん、もうラムネとしか表現できなくなっている。
ソーダ水に交ぜたら、瓶ラムネを飲んでいる気分になるんじゃないか?
面白い味なのは確かだ。しかも、ちょっと癖になる味だ。
後で皆に出してみよう。
それから、俺は土いじりを開始する。
玉ねぎ、人参、じゃがいも、小松菜……。
その内に、煮込みとサクヤも参加して、四人で収穫作業を始めてしまった。
「何してるんです? 」
レオナと四人の男たちが俺たちを見ていた。
「ゐーっ! 〈いや、ちょっとだけ手で収穫しようと思ったら、これが意外と面白くなっちゃったもんでな…… 〉」
「おっさんたちもやるミザ? 」
「採れたて胡瓜とか、絶品ですよー」
「シャクシャクシャク……ピロ」
レオナが額に手を当てて困った顔をしていた。美人は悩み顔もいいもんだ。
「おお、では手伝わせていただこう! 」
四人の男の中で一番、歳かさの男が畑に入ってくる。五十は越えていそうだ。
俺もおっさんだが、俺より年上でもやっているやつがいるんだな。
「レオナ殿、もしや我々は試されているのだろうか? 」
ごつい大学ラグビー部みたいなやつが言う。
「まあ、やれと言われればやりますよ。親睦を深めるにはいいでしょうからね」
銀縁メガネの秀才キャラ君が言う。
「いいじゃな〜い! こういうイベント、楽しいわぁ〜! 」
おう、オカマキャラかよ。ヒョロ長くて、そのくせ筋肉はしっかりある感じだな。
「はあ……そうですね。では、ここでどの程度やる気があるのか、見せていただきます。
まあ、レクリエーションということで」
レオナはそう言って、腕組みして見守ることにしたようだ。
「ゐーっ! 〈どうした? 何か不味かったか? 〉」
俺はレオナに近づいて聞く。
「はあ……いえ、実は今日連れて来たのって、各大手レギオンの代表幹部なんですよね……今回の戦争イベントでの協力関係の取り付けをしようかと思いまして……ちょっと接待くらいの気持ちでいたんですけど、ダメですね……グレンさんの好意を利用しようとした罰が当たりました…… 」
「ゐーっ! 〈なんだ、接待だったのか。先に言ってくれればもう少し融通利かせられたんだが、すまんな〉」
「いえ、このゲーム内で天然食材が食べられるなんて、夢みたいな話だなぁと思いまして、それなら私たちの気取らない輪の中に入ってもらえれば打ち解け易くなるかと思ったんですけどね…… 」
「ゐーっ! 〈それなら狙い通りじゃないか。後はレオナがその気取った態度を軟化させたらいいだけだぞ〉」
「えっ? 」
「ゐーっ! 〈接待ってのは、持ち上げてわっしょいすることじゃないぞ。まあ、そういう風にして欲しがるやつもいるが、それじゃあ円滑なコミュニケーションが取れなくなる。まずは最低限の礼儀だけ持って、友達になるくらいの気持ちでいいんだよ。お互いを知る、そしてより興味を持てるようにする。それが営業やってる俺の持論だ〉」
「……グレンさんて、大人なんですね」
「ゐーっ! 〈違うな。おっさんなんだよ〉」
「おっさんですか…… 」
「ゐーっ! 〈馬鹿にするなよ。おっさんの知恵ってのは経験から来てるもんだからな〉」
「ええ、ちょっと尊敬してるくらいですね」
「ゐーっ! 〈だろ! 〉」
「じゃあ、私ももう少し彼らを知ることにしますね! 」
そう言ってレオナは畑の中に踏み込んで行った。
ふむ……そういうことなら、少し手伝ってやるか。
俺は辺りを見回す。
五十代のオジサンはサクヤと収穫か。
オジサンは勝手に楽しんでるみたいだな。
レオナは秀才キャラ君に話しかけているみたいだ。
ぎくしゃくしている。
ムックはオカマキャラと収穫しているが、オカマキャラに押し負けて渋々といった感じだな。
煮込みはラグビー部とか。ここは上手くいっている。
さて、誰に話しかけてやろうか。




