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おおっと、手が滑ったー!
誤字報告・感想・ポイント、皆さんありがとうございます!
───リザルトに移行します───
───ボス戦ルールが解除されます───
気がつくと俺は『大部屋』に居た。
ちっ! 俺は死んだのか……。
悔しかった。大きく息を吐く。
そりゃあそうだ。敵は六十四体の『鬼一法眼』だもんな。タイマンじゃないのを失念していた俺の落ち度だ。
「あ、グレンさん! 」
先にこの部屋に来ていたレオナが俺を見つけた。
俺は自嘲気味に笑うしかない。だせぇ。
「ゐー…… 〈すまねぇ。仇、取れなかった…… 〉」
「え? あ、仇を取ろうとして下さったんですか!? ごめんなさい、私のせいで…… 」
「ゐーっ! 〈いや、俺が勝手に熱くなって、負けただけだ。すまねぇ! 〉」
「いえ、気になさらないで下さい。それより、無事に勝てたみたいですね! 」
レオナに言われて、ようやく俺は気づく。
そうか、ボス戦終了のアナウンスが流れていたな。
俺はリザルト画面を表示する。
「ゐーっ! 〈おお、貢献度2位に煮込みがいるぞ! 〉」
「あ、本当ですね! さすが煮込みさん! 」
今回、俺が貰ったボス戦報酬はしょぼかった。
魔石七個に復活石が一個、それから天狗の鼻というドロップアイテムが一個だけだった。
「ゐーっ? 〈ふむ、いちおうヤツの鼻っ柱は折れた……でいいのか? 〉」
「どういうことです? 」
「ゐーっ! 〈いや、ドロップアイテムが天狗の鼻だからさ〉」
「おぉ〜! レアドロップですね! おめでとうございます! 」
レオナが手を叩いて喜んでくれる。
俺は、つい気になって聞いてしまう。
「ゐー? 〈なあ、レオナ、その、お前、大丈夫か? 〉」
レオナは一瞬、キョトンとした顔で俺を見て、それから笑顔を見せた。
「ああ、はい。大丈夫です!
なかなかに怖い顔してましたよね、あの天狗。
しかも、サクヤさんのスキルで余計に怖くなってましたし……やられちゃった時は酷い有り様にびっくりしちゃいましたけど、怖さで言ったらもっと怖いのとか知ってますからっ! 」
「ゐーっ! 〈そうか。問題ないならいいんだが…… 〉」
それから、レオナは少し小首を傾げて考え込む。
「あ、でも、やっぱり怖かったんで、夢に出て来ちゃうかも…… 」
「ゐ? 〈ん? 急にどうした? 〉」
「あの……夢に出てくると怖いんで、グレンさんに添い寝とかお願いしたいな〜なんて…… 」
「ゐ? 〈は? 〉」
意図が読めずに、まぬけな声を出すと、レオナは顔を赤くして、手をパタパタと振った。
「あ、あははははっ! 嘘です、嘘です!
煮込みさん式ジョークですよ! 」
「ゐーっ! 〈おい、おっさん相手にそういうジョークは気をつけた方がいいぞ。俺だからいいが、レオナは美人だからな。下手なやつに言うと真に受けちまうぞ! 〉」
「ふんふん、グレンさんならいいんですね! 」
「ゐーっ! 〈いや、俺だっておっさんだが男だからな……いつ、変な気を起こすか分からんかもしれん……美人相手ならなおさらな〉」
「ちょっ、び……コホン。はーい! 気をつけますね! 」
レオナは自分の顔を扇ぎながら、笑顔で理解を示した。
まあ、分かってないかもしれないが、まだ若いからな。
もう少し年を取ったら、分かってくるだろうと、俺はそれ以上の追及を避けた。
「あ、いたミザ! 」「レオナさーん」「お待たせしましたピロ」
煮込みとサクヤとムック、生き残った三人が幕間の扉から戻って来る。
「ゐーっ! 〈おう、煮込み、2位おめでとさん! 〉」
「ありがとうミザ! 」
「お二人も無事で良かったです」
レオナがムックとサクヤを労う。
「ありがとうピロ」
「レオナさーん! ごめんなさい、ご迷惑をおかけしてー」
「ううん、サクヤさんが無事で良かった! あの場だとどう考えても、サクヤさんが残った方が貢献度稼げるでしょ。だから、気にしないで! 」
「うわーん! ありがとうございますー」
サクヤはレオナに感極まったのか、抱き着く。
「尊いピロ…… 」
ムックが頷いていた。
「いや、いい加減気づいて欲しいミザ! 」
「ゐ? 〈ん? 何にだ? 〉」
煮込みは一所懸命に自分を指差していた。
俺は意味が分からず、小首を傾げた。
「だー、もうミザ! 語尾ミザ! ごーびーミーザー! 」
一瞬、なんのことだ? と思うが、ようやく煮込みが拡がる砂漠問題に言及しているのではなく、語尾に『ミザ』とついていることに気づく。
あまりにも普通に受け入れてしまって、変化に気づくのが遅れた。
「ゐ? 〈え? どういうことだ? 〉」
「ボス戦報酬でコアを貰ったミザ! 」
煮込みはブイサイン。
「ゐーっ! 〈おお! やったな! 〉」
「おめでとうございます! 」
俺とレオナが煮込みを褒める。
「ありがとうミザ! 」
「ゐー? 〈んで、そのミザミザ言ってるのは何のコアなんだ? 〉」
「ふっふっふっ……コア・ミザリー、苦悩、悲嘆、苦痛といった状態を表すコアミザ」
煮込みが見せてくれたのは、黒や紫、灰色などがマーブル状に渦巻いているビー玉のような何かだ。
「感情型の『場違い』核ですか、珍しいですね! 」
煮込みは、レオナの興奮度合いに満足そうに頷く。
こーれーでー作戦行動でーきーるーミザー♪と煮込みは嬉しそうに踊っていた。
「あ、それとこれ、全部じゃないけど拾って来たピロ」
ムックが俺たちの前にアイテムを置く。
それはおそらく俺たちがデスペナで落としたアイテム群だ。
ムック、やるなあ!
「ゐーっ! 〈助かる! ありがとうな! 〉」
「ムックさん、ありがとうございます…… 」
ムックはいつものモジモジをして照れた。
男なんだ。───それは分かっているんだが、何故か可愛らしく見えてしまう……。
ぶるぶると頭を振って、俺はナニカを振り払う。
レベルが上がっていた。
早いな! 昨日の今日だぞ!
「ゐー…… 〈ふっ……やはり俺はジャイアントキリングしてしまうのか…… 〉」
「してないミザ! グレンは途中で死んでるミザ! 」
自分に酔う、ほんのちょっとの時間もなく煮込みに否定された。
「あと、サクヤに聞いたけど、グレンがめちゃくちゃヤバい感じになってたって本当ミザ? 」
「ゐー? 〈ヤバい? 〉」
「やばかったですよー。腕が千切れて、顎からナイフ生やして、反対の腕が狼頭に鎖がジャラジャラで、鬼気迫る感じになってて、びっくりしちゃいましたー」
「ゐーっ! 〈なんだ、その怪人みたいなやつは! 〉」
レオナ以外の三人から指を差された。
俺が避けると、指が追ってくる。
こらこら、人を指差すもんじゃねーぞ!
「ゐーっ! 〈代価を払うとそうなるらしいな〉」
「リアルでやってて大丈夫ミザ? 」
「ゐーっ! 〈今のところは。アドレナリンがバンバン出てる時なんかは痛みとかあんまりねえからな…… 〉」
大抵の場合、痛みを感じるのは後からになる。
転んで膝小僧を擦りむいて、立ち上がって歩くけれど、怪我した膝小僧を見た瞬間に痛みで座り込むみたいなもんだ。
まあ、俺の場合は気づく頃合には大抵死んでるから、あまり深刻な目には会っていないのが救いか。
「正直、私は今回80%でやって、凄い怖かったミザ…… 」
「ゐーっ! 〈まあ、プレイスタイルは人それぞれだからな。なんとも言えないが……少なくとも、俺は納得してやってるぞ〉」
「ほら、グレンさんは趣味が特殊な方だからー」
くっそ! 最近、ちょっと大きく否定できない自分がいて、微妙な顔になるな。
苦笑するしかない感じだ。
「んー、なんて言ったらいいか分からないけど、グレンにはその……気をつけて欲しいミザ…… 」
こちらを心配しているが、どうにもできないもどかしさに悶えてしまっている煮込みの頭に手を置いて、ありがとうな、と伝えながら撫でてやった。
はっ! そうだ! 種蒔をしなければ!
感覚設定リアルを変えたくない理由のひとつで重要なことを思い出した。
俺は畑の画面を呼び出して種蒔を始める。
画面一発、後はほぼ全自動なのがいい。
可視モードでやっているせいで、全員が俺の画面を注視している。
「ゐーっ! 〈明日だ! 明日、全員でバーベキューをやるぞ! 〉」
明日には今植えた野菜類が収穫できる。
猪豚の肉や川魚もインベントリ内なら腐ったりしない。
今日は我慢だ。
俺の宣言に全員が喜んで、ハイタッチした。
「あの、よろしければ何人か人を呼びたいんですが、大丈夫でしょうか? 」
「人数多い方が楽しいミザ! 」
「ゐーっ! 〈ああ、そうだな。サクヤとムックは大丈夫か? 〉」
「ええ、大丈夫ですよー」
「問題ないピロ」
よし、後はレベルアップ作業をして、今日は終わりにするかと、俺は画面を弄り始めるのだった。




