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 俺の叫びは虚しく「ゐーっ! 」とこだました。

 戦闘員たちはゆっくりと竹林に呑み込まれていく。


「カァアアアッ! 」


 止められない。煮込みやレオナが必死に叫んだが、流れは急に変わらない。

 案の定、『鬼一法眼』は竹林の中で凶悪度が増した。

 当たりにくい遠距離はさらに当たらなくなり、近距離は『鬼一法眼』の【八艘飛び】で翻弄される。


「ぎゃーっ! 」「避けろー! 」「無闇に動くなっ! 」


 竹林の中、砕け散る戦闘員のエフェクトでキラキラと輝く。


 俺の【夜の帳(ダークネス)】は、『鬼一法眼』を追いかけるだけの飾りみたいなものだった。【八艘飛び】のスピードについていけないのだ。


「ウチの援軍が来ます! もう少し耐えて! 」


 レオナが叫ぶ。


「ゐーっ! 〈耐えるって言っても、ここじゃ援軍だってまともに動けないぞ! 〉」


「すー、はー……よし、行ってくる! 」


 煮込みが覚悟を決めた目をしていた。

 だが、手が震えている。

 その手で自分の頬を一発、挟み込むよう叩いて、気合いを入れると、腰を落とした。


「ゐーっ! 〈お、おい、煮込み! 〉」


 俺の制止を振り切るように、煮込みは竹林の中へ。


「蹴りは貰わない! パンチなら一発は耐えられる! 一撃入れたらすぐに引く…… 近距離で撃つしかない…… 」


 煮込みは呪文のように注意事項を呟きながら、竹林の中を駆ける。


「蹴りは貰わない! パンチなら一発は耐えられる! 一撃入れたらすぐに引く…… 近距離で撃つしかない…… 」


 『鬼一法眼』はヘイト相手に一発入れると【八艘飛び】で八回、別のやつをランダムで狙う。

 狙われるのはジャンプして着地した場所に一番近いやつだ。


 跳んで、「ひぃぃ! 」、跳んで、「こ、こっち、ちちち…… 」、跳んで、「やろ! ぐばぁっ! 」、跳んで───


「ここっ! 」


 煮込みは冷静に見て、自分の近くに跳んで来る時に一気に距離を詰めた。


「【両断刃ペルセウス】!! 」


 一本の光の刃が『鬼一法眼』の鉤爪蹴りを押し返す。さらにもう一本の光の刃が『鬼一法眼』の胸を深く斬り裂いた。

 だが、煮込みはその結果をしっかり見届ける暇もなしに、背中を向けて走り出す。


「ほら、こっちおいで! 」


「かあああぁぁぁあああっ!! 」


 ヘイトが完全に煮込みに移った。

 【八艘飛び】がキャンセルされたことで、『鬼一法眼』は煮込みに一発入れようと追い始める。


 速い! 


 先程までだって、ヘイト管理の三人が一撃食らっては後退・回復を繰り返しながら、ようやく引っ張って来たのだ。

 『鬼一法眼』は素の動きが速い。

 いくら煮込みが頑張って走ろうとも、竹林を抜け出すのは不可能だった。


 後ろに迫った『鬼一法眼』の手が、煮込みに掛かる。


「あうっ! 」


 引っ張られ、『鬼一法眼』の反対の手、羽扇を握ったままの拳が煮込みの背中に突き刺さる。


「かっは! 」


 吹っ飛んでゴロゴロと転がり、竹にバウンドする。

 しかし、煮込みはそれで終わりではなかった。


「【蟷螂マンティス抱擁エンブレイス】」


 中距離の近接攻撃。

 両手を広げると、巨大な幻の蟷螂の鎌が伸びていく。自身を抱き締めるように腕を閉じれば、大量の竹を切り倒しながら、『鬼一法眼』をその中に囲み込んだ。


「かあああああああっ! 」


 数秒間の継続ダメージ。『鬼一法眼』のカラス顔が苦しそうに歪む。


「私を捕まえてぇ〜ん! 」


 煮込みは身体をくねらせ、最高のウインクをした。

 そうやって挑発行為をすることで、自分を鼓舞したのだろう。

 『鬼一法眼』の瞳が煮込みに向けられた時には、またもや全力ダッシュで逃げ出していた。


 だが、煮込みは回復している余裕がなかった。

 次の一撃を耐えられない。

 死ぬ気で距離を稼ぐ腹積もりだろう。


 竹林を抜けるまで、あと30m。

 『鬼一法眼』がぐんぐん迫る。


「ゐーっ! 〈もう少しだ! 〉」


 煮込みの息が上がって来る。体力の限界が近い。あと20m。

 『鬼一法眼』が一瞬、身体をたわめた。


「くっ! これで膝を抜ければ! 」


 強風吹き荒ぶ中、レオナがハンドガンを乱射する。当たり所が良ければ、『鬼一法眼』の体勢を崩せるかもしれないが、竹林の中、5mの強風によるズレ、幸運があっても厳しいだろう。


 『鬼一法眼』が跳んだ。


 残り10m。

 煮込みの目の前に『鬼一法眼』が降り立った。


「ひっ…… 」


 『鬼一法眼』の鉤爪の足が引かれる。まるで渾身の力を込めてますと言わんばかりに、力が入っているのが分かる。


「ゐーっ! 〈やらせるかあ! 〉」


 既に俺は走り出していた。

 俺ができるのはこれしかないから、仕方がない。


「ゐーっ! 〈【封印する縛鎖(グレイプニル)】! 〉」


 俺の突き出した右腕が、齧り取られる様に破裂した。

 『鬼一法眼』の周囲、地面から鎖が伸びる。

 顔に巻き付き、身体に巻き付き、その全てを封印していく。

 地中から鎖の巻き付いた岩が四方から迫り上がる。


「クッカッ…… 」


 『鬼一法眼』の頭上に状態異常が表示されていく。

 『麻痺』『盲目』『暗闇』『猿轡』『回復無効』『行動阻害』の六つだ。


 スキルのレベルを上げたからか、エフェクトが派手になっていた。


「煮込みさん! 」「ゐーっ! 〈煮込みー! 〉」「煮込みん! 」「早く来るピロ! 」


 俺たちが口々に叫んで、煮込みはもう一度、走り出す。


「止まった……? 」「おい、今じゃないか? 」「急げ! 」


 様子を見ていた他のレギオンの戦闘員たちが動き出す。


「ヘイトを取り直すぞ! 」「なんでもいいからダメージ入れろ! 」「態勢を立て直せ! 」「竹林から出るんだ! 早く! 」


「ひー、イタタタ……おしっこちびるかと思った…… 」


「ゐーっ! 〈こらこら、二十代女子。見た目が中学生だからってアホなこと言うなよ〉」


「グレンはよく平気だね……私はもう無理……30%アップで80%は本気でおしっこ出ちゃうレベルだよ…… 」


「えっ? 煮込みさん、50%でやってるんですか? 」


「あ、その、レオナっちの手作りサンドウィッチは、なるべくちゃんと食べたかったから…… 」


「もう……別に今じゃなくても良かったじゃないですか。言ってくれればいつでも作りますよ」


 ほう……飯のために感覚設定を上げたか。

 そりゃ、仕方ない。

 ちなみに俺は破裂と同時に、急いでHPポーションを取り出して振りかけている最中だ。

 HPポーションは痛み止めの効果がある。

 それから『部位破損回復薬』はフィールドに出る時は常に一本常備なので、それも振りかける。

 うわ、肉が、もこもこして気持ち悪い。


 戦闘は竹林を抜けて道の中央に出て継続している。

 ヒーロー相手よりは状態異常が保ったが、やはりそこまで長持ちはしない。


 俺たちも態勢を立て直すべく、慌てて準備を進める。


 わっ! と歓声が上がった。


「援軍が来たぞー! 」「よし、盛り返そう! 」「ここからだ、気合い入れろ! 」


 どうやら援軍が来たところのようだ。


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