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本日、五話目、今日はここまでになります。
目を向けた瞬間に怪人シザマンティスが負けるとは、この女、持ってるな……と俺はある意味関心する。
レオナが引き攣った笑顔を見せる。
「……いえ、でもマギミスリル相手に30分以上ですよ。快挙です、快挙…… 」
その言葉は戦闘員が集まるこの部屋に響いた。
戦闘員たちは「「おおっ…… 」」と、それぞれが感慨に耽るような声を上げた。
と、その時、転移ポータルこと巨大な復活石が一瞬、輝く。
「いや〜、負けたシザー! 」
「煮込みさん、お疲れ様でーす! 」
「お、その語尾ってことは……煮込みん、コア残ったの? 」
「ふふふ〜、残ったシザー! 」
そんな会話を周りの戦闘員と交わしながら、巨大な復活石から出てきた戦闘員がピースサイン、そのまま指をハサミのように、チョキチョキして見せる。
あれがもしかして、怪人シザマンティスの中身ということだろうか?
レオナが手を挙げて、呼ぶ。
「煮込みさん、こっち! 」
「おお、レオナっち、おつかれシザ! 」
『煮込み』と呼ばれた人物は俺と同じような全身黒タイツ姿の女性戦闘員だった。
顔が目出し帽で、何故、女性だと分かるかと言えば、まあ、見たら分かるよなとしか言えない。
レオナは知的な美人というタイプだが、煮込みは小さくてグラマー、トランジスタグラマーというタイプだな。
レオナが俺を、煮込みに紹介する。
「こちら、今日からスタートのグレンさん。
それと、今日のMVPですね! 」
「ああ、アレやってくれた人シザっ!
損な役回りをさせて、ごめんシザ……でも、本当にありがとうシザ! 」
「イー〈いや、あんたの攻撃を邪魔しちまったからな〉」
にこにことしている煮込みは、俺に握手を求めてきていたが、俺は手を挙げて答える。
しばらく、煮込みは握手を求めるべく手を出していたが。
「なんて言ったシザ? 」
通じてなかった。マジか。
「煮込みさんの攻撃を邪魔してしまった贖罪のつもりだったようですよ。
グレンさん、まだ【言語】スキル取ってないみたいで……」
レオナが通訳をしてくれる。
煮込みは「ああ…… 」と納得したように頷く。
「フレンドリーファイアもグレンさんだったシザ……それは、ごめんシザ…… 」
「イーッ! 〈なあ、この言葉って、全員に通じる訳じゃないのか? 〉」
「ええ。私は必要があって【言語】スキルを伸ばしてますから、戦闘員語のヒアリングもできますけど、普通の戦闘職の人だと、難しいかもしれませんね」
レオナは苦笑する。
「ええと、よろしければグレンさん、簡単な新人講習やりますから、お時間大丈夫ですか? 」
いきなり始めたのはいいが、分からないことだらけだ。
俺は「イーッ! 」とその提案を了承した。
レオナに案内されて、俺は大部屋から連れられていく。
何故か、煮込みもついてくるが、いいんだろうか。
レギオンハウス、素直に秘密基地と呼称した方が分かりやすいが、『りばりば』の秘密基地は大所帯だけあって、かなり広い。
最初に案内されたのはロッカールームだ。
巨大なロッカールームは天井が高く、壁は灰色の無機質な空間で、ロッカールームの端には試着室のようなものが据えられている。
レオナはひとつのロッカーを指さす。
「ここがグレンさんのロッカーになりますね」
『999』と番号が振られたロッカー。
学校なんかにある掃除用具入れのロッカーより一回りくらい大きいそれは、見た目は灰色で、普通に掃除用具入れみたいなもんだ。
「基本的に倉庫だと思ってくれればいいです。
個人インベントリの大きい版ですね。
個人インベントリは個数制限がありますけど、こちらは基本的にありません。」
ロッカーを開けてみる。
普通にロッカーだ。スチール製で少し大きめというだけのロッカー。
「模様替えとかできるシザ! 最近の流行りはアメリカンスクール風とか、アーミースタイルとか流行ってるシザ! 」
俺のロッカーの中には何も入ってない。
ロッカー扉の内側に小さな鏡、何となく手を伸ばすと、専用画面が立ち上がる。
なるほど。模様替え機能だったり、アイテムのオブジェクト化だったり、ゲーム内通貨を預けたりなんてことができるらしい。
「ちょっとこっち来るシザ! 」
煮込みが俺の腕を取って、引っ張るのでついて行く。
『253』と番号が振られたロッカー。
「ここが私のロッカーシザ! 」
がちゃり、と煮込みが扉を開く。
ぼろぼろぼろ……と溢れ出るのは、ぬいぐるみの山だった。
「イッ! 〈うおっ! 〉」
ぎゅうぎゅうに詰められたぬいぐるみが起こす雪崩に、思わず声が出る。
「にひひシザ〜」
イタズラ成功という感じに笑う煮込みは、結構、若い子なんだろうか?
ちなみに、飛び出たぬいぐるみは暫くすると消えてしまう。
「こういう壁紙シザ! 」
オブジェクトではなく、壁紙の機能がこうなっているらしい。
煮込みがロッカーの内側に手を伸ばす。
こちらからは見えないが、専用画面を立ち上げているのだろう。
それから、俺に自分のロッカーを指さして見せる。
「このロッカーのぬいぐるみをどけてみるシザ! 」
良く分からないが言われた通りにしてみる。
ぬいぐるみがパンパンに詰まったロッカーから、ぬいぐるみをひとつ引き抜く。
ぼろぼろ、とぬいぐるみが零れ落ちる。
もっと、もっと、と煮込みが言うので、俺は掻き分けるようにぬいぐるみを落としていく。
どうせしばらくすれば、消えてしまうのだ。
丁寧に扱う意味もないだろう。
がしゃん。
ぬいぐるみに混じって、俺の脇に落ちたのは一丁のライフル銃だ。
はぁっ? なんだこりゃ? とライフル銃を拾い上げる。
アサルトライフル、突撃銃と呼ばれる種類のものだ。
「それ、あげるシザ! フレンドリーファイアのお詫びと、MVPのお礼シザ! 」
「イーッ! 〈いいのか? 〉」
「私には軽すぎて扱えないし、どうせ死蔵してるだけのものシザ!
あ、でも、レイド戦では使えないから注意するシザ」
「煮込みさん、いいの? 」
レオナが結構、驚いた顔をしている。
何かいわく付きの品か?
良く見れば、バレル下部にはグレネードの発射器、照準器の部分には倍率調整できるスコープ、ストック部分もカスタムっぽいな。
銃には細かい傷がついているが、しっかりと手入れされていたのだろうと思える補修跡も見える。
「いいシザ、いいシザ! レイド戦で経験値捨てた補填だと思ってもらえると助かるシザ! 」
「まあ、煮込みさんがそう言うなら…… 」
「イー! イー…… 〈なあ、何かいわく付きなのか…… 〉」
「さ、次に行くシザ! 」
煮込みがレオナを促す。
レオナも仕方ないなぁという雰囲気で、歩を進める。
「グレンさん、それ大事にして下さいね。
とりあえず、しまっておいて下さい…… 」
レオナからそう言われたので、俺はアサルトライフルを個人携帯のインベントリにしまう。
歩いている最中、レオナがそっと近づいて耳打ちしてきたところによると、このアサルトライフルはβテスト時のイベントで優秀者に贈られた、ゲーム内で10丁しか存在しないレア武器らしい。
そんな貴重な物、貰っていいのかと思ったが、煮込みにしてみればレベルが上がった今となっては、記念品としての意味しかなくなっている武器ではあるらしい。
☆☆☆ベータスター〈アサルトライフル〉
命中:セミオート/+3:三点バースト/+5:フルオート/+7
攻撃:+10+〈Lv×2〉
範囲:単体
射程:近距離~遠距離
重量:1
対価:MP1〈18発〉
説明:スコープ、ストック使用時、命中にそれぞれ+8と+2。
βテスト専用イベント『レギオン対抗演習戦』にて、優秀な成績を収めた者に与えられる遺跡発掘調査用武器。デスペナルティ対象外。
☆アサルトライフル用グレネード
命中:+1
攻撃:+30
範囲:至近距離~中距離
射程:遠距離
重量:なし
対価:MP1
説明:スコープ、ストック使用時、命中にそれぞれ+8と+2。
敵集団殲滅を目的としたグレネード発射器。アサルトライフルに装着して使う。
遺跡発掘調査用武器。
アサルトライフル用グレネードは使い所を選ぶようだが、ベータスターは相当優秀なのではないだろうか?
初期装備のナイフと比べてみる。
☆ナイフ
命中:±0
攻撃:+1
範囲:単体
射程:至近距離
重量:なし
対価:体力1
うん。一目瞭然だな。
大切に使わせてもらおう。
説明文にある遺跡発掘調査用武器というのは、なんだろうか?
まあ、レオナから説明がなかったら、後で聞いてみよう。
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