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446〈side︰レオナ ラグナロクから数ヶ月後〉おまけ

せっかくご指摘頂いたので、物足りないかもしれませんが、『リアじゅー』組のエンディングになります。


 あの日を境に全てが変わってしまったのだと思う。

 なにか大きなうねりのようなものの中に私たちは巻き込まれた。

 まるで全てが準備されていたかのように揃うタイミング。

 私たちは『マギクラウン』へのラグナロクイベントを決めた。


 あのイベントについては、多少の混乱はあったものの、勝つべくして勝ったという印象が強い。


 新たなる英雄、肩パッドの弟子、シシャモくんの台頭。

 グレン教団の拡大。

 巨狼アダムの死から始まった『ネオ』の分裂など、語るべきことはたくさんあるが、それらはつまるところ、あの人が起点で、あの人から、今が始まったのだ。


 でも、あの人はもういない。


 いくらリアルに感じても、所詮はゲームだ。

 ゲームを辞めてしまう理由など、探せば幾らでもある。

 前にもあの人は一ヶ月以上、ゲームをお休みしていたことがある。

 たしか、リアルの仕事が怒涛の忙しさで、連絡もできなかったとか言っていた。

 また、同じことかもしれない。


 少し長過ぎる充電期間かもしれないが、私は未だにフレンドを切れずにいる。


 いつものように、幹部としての仕事の合間、私は『りばりば』基地のグレン農場でゆっくりさせてもらう。


 ここは前と何も変わらない。

 あの人のフレンドたちが自由に休める憩いの場で、今もNPCドールとあの人のテイムモンスターによって発展を続けている。

 シシャモくんとじいじさんが管理を受け継いでいて、何かあれば二人に相談すればいい。


「あれ、レオナは今日、シティエリアのグレン農場で会議じゃなかったミザ?」


 シシャモくんを囲んで、煮込みさん、サクヤさん、ムックさんが話している。


「ええ、気疲れが確定しているので、その前に少しリフレッシュしたいと思いまして……」


 ムックさんが、そそくさと私の分の席を用意してくれる。

 礼を言って、そこに座らせてもらう。

 メイドNPCドールのホワマーナさんが、フレッシュなフルーツジュースを出してくれる。

 ホワマーナさんは各人の好みを把握していて、さらっとそういう事ができてしまう才媛だ。

 私も周りからは才媛と持て囃されているが、こういう域にはなかなか到達できそうにない。

 もっとも、あの人は雑草茶を美味いと叫ぶタイプなので、それなりに美味しいものなら、なんでも喜びそうではある。


「それで、今日はなんの悪巧みですか?」


 四人に話し掛ける。


「悪巧みはひどいミザ」


「そうですねー。グレン農場のブランドを模倣して科学文明側が経済戦争を仕掛けて来たので、どうやって懲らしめ……じゃなくて、企業努力を伸ばそうかと模索しているところですねー」


「過去の科学肥料を再現したらしくて、大きさや形が一定の物を作ることに成功しているみたいなんです。

 味というより、流通のしやすさと値段が抑えやすいので、人気が出ているみたいで……」


 シシャモくんが悔しそうにしている。

 私は申し訳ないと思いながらも、鼻で笑ってしまう。


「ふっ……気にする必要はないですよ。

 あの人が目指したのは、農民スキルを活かして、自分が美味しいと思える野菜を作りたいというものなんですから、それを売って儲けるのは二の次だったじゃないですか」


「たしかにそうだったピロ。

 無理に流通を考えるより、自分たちが美味しいと思える野菜を作るのがいいと思うピロ」


「いえいえ、手に入りやすいブランディングもあれば、手に入りにくいブランディングもありますからねー。

 戦い方は相手に併せる必要性を感じないですねー」


 サクヤさんはあくまで経済戦争で嫌がらせをしたいらしい。

 らしい、と言えばらしい。


「まあ、彼も納得な方法論にしますんで、お任せして欲しいですねー」


 サクヤさんが私にウィンクしてくる。

 いや、別に私はあの人の恋……マネージャーではないので、私の了解を取りつける必要はない。


 強いて言うなら、シシャモくんとじいじさんが管理を任されているのだから、そちらに了解を取りつけて欲しい……。


「ああ、こんな面白い恋の鞘当てみたいな状況でアイツが戻って来たら、絶対、面白いのに、なんでアイツは戻って来ないミザ!」


「「いや、別に恋の鞘当てではないです〈ねー〉」」


 私とサクヤさんの言葉が被った。


「あれ? 煮込みさんもそうだったんじゃないんですか?」


 シシャモくんがポロリと言う。


「はいミザ? わ、私は別に……前から魅力が通じないのは分かってることだしミザ……」


 ん? 魅力が通じれば何かあったのだろうか?

 私が不思議そうに見ていると、煮込みさんが首をちぎれそうな勢いで横に振っていた。

 相変わらず面白い。


「おや、皆さんお揃いで、どうしたんですか?」


 青海さんが声を掛けてきた。

 青海さんは『マギスター』から『グレイキャンパス』に、更にそこから『りばりば』に移籍した異例の経歴を持つ人だ。

 あの『マギクラウン』とのラグナロクイベント時、傭兵として『りばりば』に来て、あの人のフレンドなら入れるこのグレン農場の魅力に取り憑かれて、移籍して来ていた。

 自称、あの人のライバルを公言していて、たしかにあの人に近いスキル構成をしていて、いつか、あの人が戻って来たら、二人きりで決闘するんです、とマウントを取ってくる、おバカ可愛い女の子だ。


 もちろん、彼女とあの人の決闘ということになったら、大々的に宣伝して、大観衆の前で一大イベントとして『りばりば』を上げての興行にするつもりだ。

 その辺りはサクヤさんと既に打ち合わせ済みなので、必死にマウントを取る姿はおバカ可愛い。

 あの人との歴史で言えば、私たちの方が長いのだということは知らしめておきたい。


 まあ、それは後のこととして、青海さんも私たちの話に混ぜる。

 金山羊のミルク入りフルーツジュースが彼女のお気に入りのようだ。


 そうして、あの人の影を感じながらリラックスタイムを過ごして、私は他の幹部たちと『シティエリア』に向かう。




「最近、草の根的に生えているグレン教団とかいう輩について、多少なりともマシな提案が聞けると聞いていたんだが……これは、どういうことかな?」


 科学文明レギオンの中でも大規模レギオンとして台頭してきた『血盟ネビュラ』の幹部が、私たちの用意した資料を放り投げるように机に落とした。


「書いてある通り、発祥は私たちリヴァース・リバースからのものですが、その原点はシティエリアで人気を博しているグレン農場の野菜ファンたちの集まりであって、その根底には魔法文明側の意図も策略もないということだけですが」


「そもそも、グレン教団がりばりばさんのスパイ組織だとするなら、教団関係者をレギオンから排除すればいいだけの話でしょう?

 それをせずに、りばりばさんに難癖をつけて来るのは、逆に何かあるのかと疑いたくなりますね」


 『マンジクロイツェル』のにこぱんちさんが挑発的に発言する。


 今、この場には主だった科学文明側、魔法文明側のレギオン幹部が全員集まっている。

 議題になっているのは、グレン教団という組織が各レギオンにまで草の根的に広がったことによって、ウチのレギオンのスパイ組織なのではないかという疑惑があり、それに対する弁明があるならしてみろ、という目的で開かれた会議である。


 正直、グレン教団のことというよりも、大手レギオンの大部分と敵味方の別なく誼を通じることができる場を作りたかったのと、潜在的な敵の炙り出しのために用意したような場である、


 『血盟ネビュラ』は言い掛かりの元で、魔法文明側最大手のウチに噛みつける位に勢いがあると示したいという狙いは見えているので、ある意味どうでもよかったりする。


「わざわざグレン農場で会議を開いておいて、グレンさんが来ないのはなんでなんでしょうか?」


 『ムーンチャイルド』のましろさんが発言する。


「ここが用意できる一番広い会場で、本人が来ないのは、本人がログインしていないからですね……」


 ましろさんに答えると、ましろさんはガックリと肩を落とした。


「もう、来ないんですかね……」


「そのうち、ひょっこりログインしそうですけどね……」


 ましろさんを慰めるように、にこぱんちが言う。

 二人とも、寂しそうだ。その気持ちはよく分かる。


「ログインしていない? りばりばさん、そんな嘘が通用するとでも?」


 『血盟ネビュラ』の幹部がいちいち突っかかって来る。

 でも、私より先にましろさんが物凄い眼差しで彼を睨んだ。


「してませんよ!

 嘘吐く意味なんてないでしょう!」


「なんでムーンチャイルドさんが……」


「フレンドです!」


「なっ……じゃあ、あなたも教団の……」


「入りましょうか!?

 そっちの畑を見て下さい。私の畑です!

 グレンさんは私の畑の師匠です。

 グレン教団がグレンさんの野菜ファンの集まりだと言うなら、入るまでもなく私もグレン教団です!」


「そういう事なら、魔法文明側でこの畑の物を食べたことがある面々は、全員グレン教団員になってしまいますねぇ」


 にこぱんちさんの言葉に魔法文明側レギオンの幹部たちが頷きを返す。


「なんなんだ、アンタらは……」


「まあ、食べてみたらお分かりになるんじゃないでしょうか?」


 するりと『血盟ネビュラ』幹部の前に皿が差し出される。

 皿を差し出したのはゴシックドレスに身を包んだ、日傘の女性だ。


「ミルクさん……」


 私は彼女の名を呼ぶ。

 ミルクさんはムックさん率いるPKK部隊の一人で、ここに何故居るのか分からない。


「ごきげんよう。なにやら私たちグレン教団のことでレオナさんにご迷惑を掛けていると聞きまして、参上いたしましたの。

 ……グレン教団最上級司祭ミルクと申します」


 日傘を外すことなく、凛として立つミルクさんは軽蔑の眼差しで『血盟ネビュラ』幹部を見下げていた。


「なにっ……」


「グレン教団は、グレン様の生き様、その厨二精神、そして、マナに溢れる農場の全てに感謝を捧げるために生まれた教えのひとつに過ぎません。

 もちろん、グレン農場の野菜ファンの方も入信は拒みませんわ。

 ですが、それだけでもないのです。

 レギオンとは違う、新しいコミュニティの形ですわ。

 教義には、自分のレギオンを家族のように愛すというのもあります」


「お前が……」


「悪の元凶だとでも?

 最初はわたくし一人が勝手に崇めていただけ……同好の士が集まった結果に過ぎませんわ。

 弾圧さえされないのならば、わたくしどもも悪さは致しませんわ。

 ですが、このようなくだらない集まりが続くようでしたら、わたくしの抑えも箍が外れてしまうやもしれませんね……。

 そうなれば、泥沼の宗教戦争ですわ……」


 その時はひとつよしなに、と日傘を畳んでテーブルに立て掛け、完璧なカーテシーを見せてから、音も立てずに去っていく。

 それは完全に暗殺者のソレで、木の影に入ったと思うと、その姿はもう消えていた。


 宗教戦争……教科書を紐解けば、これほど恐ろしいものはないと記されている。

 神の名のもとに行われるソレは凄惨を極めるモノになるらしい。

 あの人がいれば、そんなものは起きないだろう。


 「ゐーっ!〈くだらねえこと、してんな!〉」とでも言ってもらえば済む。

 ミルクさんなら、きっとそのひと言であの武器代わりの日傘を開く。

 でも、あの人がいない今、私たちは絶対にミルクさんと争う訳にはいかない。

 自由な気風のレギオンというのも、時には困り事を抱えることになるらしい。


「早く帰って来なさいよ……」


 私はひとりごちるのだった。



残念ながら新作は現在、鋭意制作中です。

もうしばらくお待ち下さい。

おまけその2と共に出す予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] もういない人を待つのを見るのがこんな辛いとは… グレンくん…
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