440〈理の正体〉
俺の怒りと計算を叩きつけた五杯博士を喰らった。
───神・叡智の神を喰らいました───
何故か、能力値の上乗せはなかった。
現実だからだろうか。
何か違う気がする。
逆に聞くけど、君は僕の理を破る手立てはあるのかい?
五杯博士の言葉が脳裏に甦る。
俺は『叡智の神』の理を破れたのだろうか?
五杯博士は、俺の理を破る術を持っていると言っていた。
だが、今まで五杯博士は俺を殺すつもりはなく、その言動から察するに、改めて俺を実験体として捕まえるつもりだったように感じる。
つまり、俺の理を破るつもりが、そもそもなかったということだろう。
五杯博士を喰らいはしたが、俺がどうにも腑に落ちない感覚があるのは、俺が『金山羊』の魂の理によって、死ねない身体であるように、五杯博士にも何かあるような気がしてならない。
ゴロゴロと腹の中で音がする。
五杯博士の理は『叡智』でいいのだろうか?
『叡智』……すぐれた知恵とか、そういう意味だった気がする。
確かに五杯博士には、すぐれた知恵があるのだろう。
だが、五杯博士が重視しているのは、そこではない気がする。
今までの言動を推測すると、知恵の前に知識こそが重視されていた気がする。
俺に北欧神話を知っているかと五杯博士は訊ねていたが、俺にだってゲーム、アニメ、マンガで語られる程度の知識はある。
そこから考えても、オーディンは知ることに重点を置いている。
片眼を潰し、首を吊ったのも、知識を得るためだ。
フギンとムニンという鴉は、簡単に言えばニュースを運んでくる鳥で、俺たちの最終目標『フリズスキャールヴ』は、座るだけで全てが見通せるようになる椅子と呼ばれている。
これらを考えていくと、『オーディン』という神は、『叡智』を司っているようには思えない。
『叡智の神』と呼ばれるのは、結果に過ぎないのではないだろうか?
俺の腹から、槍が突き出た。
『叡智の槍』のウェイトタイムが明けたか、リソースの確保が完了したのだ。
喰らいはしたが、消化はできていないということか、道理で能力値の上乗せがないはずだ。
「ウオォォォーンッ!」
俺は声にならない叫びを上げた。
五杯博士の理を理解しない限り、これを打ち破ることはできそうにない。
俺は、足りない頭を必死に絞る。
『知識の神』か?
いや、何か違う気がする。
それならば、【ミーミルの首】など求めないはずだ。
それに『ガイガイネン』の存在だ。
融合した『ガイガイネン』は、言わば『無知の極み』というべきもので、『知らないから無敵』という概念とも言える。
アダムによれば、俺たちに見えている『ガイガイネン』は本体の触角のような存在だと言う。
つまり、知るための器官なのだ。
唐突に俺の中で繋がった。
『五杯博士』が司るのは、知恵の素である知識ではなく、知識の源泉である欲求、つまり、『知識欲の神』なのではないだろうか。
五杯博士の飽くなき『知識欲』に惹かれて、ガチャ魂が現れた。
それが『知識欲の神』の正体だ。
俺の腹が、また、ゴロゴロと鳴った。
突き出た槍が引っ込んでいく。
痛みが引いていく。
───神・知識欲の神を喰らいました───
身体に力が漲っていく。
俺は天に向かって、雄叫びを上げるのだった。




