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436〈近距離戦〉


 五杯博士は、それなりにでっぷりとした体型の割になかなか俊敏に動く。

 おそらく、俺と同じ、十全にリアルスキルが使えるタイプなのだろう。

 つまり『リアじゅー』内の能力値の影響を身体能力レベルで再現できるということだ。


 『叡智の槍(グングニール)』が突き込まれる。

 必中ゆえに避けることは不可能だが、重要な器官をずらす程度は可能だ。

 俺は【自在尻尾】で蠍の尾を出すと、『叡智の槍(グングニール)』を叩いて、身体の中心線からずらす。


 ぐっ……。


 脇腹を抉られる。後ろに身体を捻りながら逃げたため、大きなダメージではない。


「ゐーっ!〈【誘う首紐(ゲルギャ)】〉」


 咄嗟に距離を離されるのを嫌った俺は、鎖で俺の左手首と五杯博士の首を結んだ。

 瞬間、状態異常が発動して五杯博士がよろめくも、まるで普通の戦闘員がヒーローに状態異常をかけたのかと言うくらい一瞬で『行動不能』と『鈍重』が簡単に解除される。


「何を驚くことがあるのかな?

 僕の身体には外概念の組織が埋め込んである。

 彼らの枠組みには『状態異常』という概念が無い。今はね。

 百年後、この世界の仕組みを知った後の外概念ならば、また別だろうけど、今の外概念は『無知の極み』と言ってもいい存在だ。

 知らないモノは反応しようがない。

 なにしろ、この世界の(ことわり)とは別の世界に生きているのだから」


 五杯博士が『叡智の槍(グングニール)』を突き込んでくる。


 俺は動揺しながら、なんとか致命傷を避けるので精一杯だ。


 『ガイガイネン』の組織を埋め込む?

 知らないモノは反応しようがない?


 思い当たる節はある。

 初めて『ガイガイネン』イベントが起きた時、大画面に出ていた文字列だ。

 アレは、他のプレイヤーには単なる文字化けのように映ったらしいが、【言語〈古代〉】を持つ俺だけが理解できた。

 つまり、運営が教えていたのだ。

 『ガイガイネン』という未知の存在に、この世界の仕組みを意図的に教えることで、プレイヤーと同等の位置まで存在を下げさせる。

 それによってプレイヤーでも対抗できる存在への変化をもたらした。

 そういえば、最初に戦った小型『ガイガイネン』は異様に『状態異常』の効きが悪かったが、それも無知ゆえのことだったのかもしれない。

 なにしろ、『巨大ナナフシ』戦では『状態異常』が刺さった。

 たくさんのプレイヤーが『状態異常』を与えようと試みることで、それがどういう反応をもたらすものか、教えた結果だとも言える。


 そうか。今の時代の『ガイガイネン』は運営である『超A.I.』たちがこの世界の仕組みを教える前の状態の『ガイガイネン』だ。

 その組織を五杯博士が埋め込んでいると言うことは、俺の『状態異常』に反応しようがないということだ。

 それどころか、ダメージという概念すら理解していない可能性もある。


 知らないから無敵。文字通りに敵対すらしていないのだ。


 だが、待てよ……。


 ならば何故、一瞬とはいえ、『状態異常』に掛かるのか。

 それは五杯博士の肉体はこの世界の仕組みに捕らわれているからだ。


 『無知ゆえに無敵』で『叡智の神ゆえに敵対できる』という矛盾を抱えた存在が今の五杯博士ということだ。


「皮肉が過ぎる……」


「ウィットに富んでいると言って欲しいね!」


 五杯博士の槍が突き込まれる度に、傷が増える。


 そもそも、自分の身体に外概念の組織を埋め込もうと考えることが、狂気の沙汰だ。


「なんのためにそんなことを!」


 俺は【神喰らい(おおかみ)】を右手に備えて、『叡智の槍(グングニール)』を受け止めた。

 さすがに槍は噛み砕けないが、止めるくらいはなんとかなった。


「経験だよ。興味があったんだ。千回切りつけて、ようやく切れるようになった外概念とは何なのか?

 リアじゅーを知っていれば、また違っただろうけどね。

 その頃はまだ○一号(まるひとごう)の妄想だと思っていたからね」


 ○一号(まるひとごう)……『マギシルバー』か。

 今頃、SIZUに攻略されているかもな。


「お前、知識欲の化け物かよ。狂ってるな」


 掴んだ槍をなんとか押し返そうと力を込める。

 全身に空けられた穴から血が、ドクドクと流れ出す。


「人の身には理解できない。それが神というものだろうね」


「子供が人質に取られて、嫌々やってた研究じゃないのかよ……」


「まあ、最初はね。でも、分かったんだ。

 天才と呼ばれる先輩を越えられるチャンスは、今しかない。

 あの人は憧れで、目の前に立ちはだかる壁なんだ!」


 あの人……おじいちゃん先生か。


「ふん……つまり、おじいちゃん先生の理論でリアルスキルを磨いた俺が、お前に勝てば、あの熱血孫馬鹿先生の勝ちってことだな……」


「はははっ! 先輩の実験体を越えられたら、僕の勝ちってことだよ!」


 負けられない理由が増えた。


 俺は第三の腕である蠍尻尾で、五杯博士をおもいっきり、ぶん殴るのだった。



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