表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
433/447

433〈side:アダム〉


 轟音が響く。

 巨大な何かが暴れ回り、のたうち回る音だ。

 この目の前で、次第に惨めな本性を露わにしていく大鮫男よりも巨大な、力の発現を感じる。


 そうか、こちらの道ではなかったらしい。


 俺は大鮫男に引導を渡すことにした。


「【一揆呵成(アンタレス)】!」


 貫通する毒熱線にMPを注いで、維持しながら斜めに引いてやる。

 これはグレンの持つスキルの裏技的知識からの応用だ。

 いかに無駄なく、速さと貫通できるだけの熱量を与えられるかで、この攻撃の威力と消費は変わる。

 貫通熱線を出しながら動かせば、それはビームソードと変わらない。

 もちろん、それなりにMPは使うが、神格を得た俺にとっては厳しいという程でもない。


 両断された大鮫男が粒子化していくのを眺めてから、この場を他の『ネオ』に任せて踵を返した。


 力の発現を感じながら、そちらへと向かう。


 幾つかの場所で『りばりば』と『ネオ』が共闘している。

 最初の五人をはじめ、新しい道を模索する『ネオ』を受け入れてくれた白部隊は、俺たちに臆することなく話しかけてくれるおかげで、連携を容易なものにしている。

 これならば、この先の道も安心というものだ。

 コミュニケーションさえ確立してしまえば、異種族同士でも、なんとかやっていけるだろう。

 足掛かりはできたのだ。

 後は最初の五人が『ネオ』を導いてくれる。


 俺は仲間たちに触れながら、時には声を掛けながら、力の発現の元へと向かう。


 さあ、グレン。

 仕上げは俺たちの仕事だ。


 終わりにしよう。そこからが新たなる始まりになるのだから。




 巨大な蛇が、部屋いっぱいに蠢いている。

 だが、鱗はそこかしこが、ボロボロに割れていて、焼け焦げて、血みどろで、痛々しい姿になっている。

 しかし、それに対する『雷神』も似たようなものだ。

 ふと視線を上げる。

 天井付近の椅子に座って、仮想ワークステーションに向かっている男が見える。

 下で起きている大きな力の発現に、我、関せずを決め込んでいる。


 巨大な蛇の牙が『雷神』に引っ掛かり、本来、金色のはずの鎧が禍々しい紫金に染まって、『雷神』は最後の力を振り絞るように巨大な蛇の口腔へと『天雷の不出来槌(トール・ハンマー)』を投げ込んだ。


 ゆっくりと粒子が立ち昇る。

 蛇も『雷神』も、過去の神話を模したかのように相討ったようだ。

 粒子の中に、削れてしまった魂の残滓が見える。

 二人とも、本来の肉体は百年前にあるはずだが、あれでは良くて廃人。

 下手をすれば消滅している可能性もある。


 俺は天井から吊られた椅子に腰掛ける男に話しかける。


「おい、何故こちらを見ない?」


 男は仮想ウィンドウに視線を向けたまま答える。


「見えているからだね。

 僕には全てが見えている。ああ、あと十秒待ってくれれば、こちらは一段落するから、もう少し待ってもらえるかね……」


「【エレキトリカル・ラビット】!」


 俺は問答無用で雷撃を男の椅子に放つ。


 椅子が壊れて、無様に男は下に落ちた。


「いたたたた……」


 男は身体を丸めて痛がる。男からボールのようなものが零れて、コロコロと転がる。


「十秒くれれば、この三十六時間で纏めた資料が無駄にならずに済んだのに……ひどい人だな、君は……」


 顔を上げた男は片目だった。さっきのボールは義眼か。


「おや、君は……」


「アダムだ」


「なるほど、最後の模倣神格。

 僕は百年前からアクセスしているだけだけど、最初の模倣神格。ファイブハートと呼んでくれ給え。

 なんだか運命めいたものを感じるねぇ……」


「ネ、ネオ……」


 男は俺の動揺をよそに立ち上がり答える。


「ああ、本体との接続が切れたんだったか……。

 僕は接続が切れている訳じゃなくてね、接続を閉じているだけなんだ。

 百年も昔じゃ、まだ本体はそこまでの知識を得られていないのさ。

 だから、こっちの呼び方で言うと外概念だね」


 接続が閉じている?


「ああ、五杯は至高を目指しているからね。

 僕と混ざる時に、自分が呑み込まれるのを恐れて、接続を閉じたんだ。

 おかげでこうして、誰も知らない最初の模倣神格として、僕が立っているわけさ」


「なるほど、叡智の神らしく知識を本体に送らず、独占することにした訳か……」


「ああ、そうだよ。僕の接続が開いていれば、五杯を呑み込んで、本体が叡智の神としての道を辿ったかもね。

 残念ながら、五杯はちゃんと自我を残す道を選んだけれどね」


 百年前の記憶が、ある時を境に俺たちに生えたが、その時の端末のひとつということか。


「ああ、ちょうどいい。

 僕の接続は百年前から閉じているから、今のネオの知識は持っていなくてね。

 たぶん、触れればいいと思うんだ。

 僕に新しい知識をくれるかな」


 それが、俺たちの戦いが始まる合図だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ