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「【怪力】【肉体連動】いっけーですー! 」
サクヤがスキルを入れ替え、俺の作戦に最適化したアーツを使用。
そのまま、全力で俺を投擲した。
俺はミミックのスキル【擬態】を使って、オブジェクト化していた。
擬態したのは、驚異の弾力で且つ丸い物、いわゆる『スーパーボール』と呼ばれるゴムの塊だ。
投げられた俺は、地面を跳ねながら、ぐんぐんと『ヴィーナス・シップ』のトラックに近づく。
トラックの直上に差し掛かる。
【擬態】は解除した瞬間だけ超高速攻撃ができる。
何人かが口を開けて俺を見上げている。
何か飛んで来たと思ったら『スーパーボール』だ。そりゃ、なんだ? となるわな。
「ゐーっ! 〈解除! 【回し蹴り】〉」
空中から落ちながら、俺のスキルが炸裂する。
「「きゃあっ! 」」
『ヴィーナス・シップ』は女性中心のレギオン。当然、戦闘員も女性ばかりだ。
心の中で「顔面蹴り、すまん…… 」とつい謝罪してしまう。
たぶん、従妹に言ったら「ゲーム内でフェミニズム、きもっ! 中身おっさんでもいいの? きもっ! 」くらいは言われるだろう。
このゲームでは推奨されていないだけで、変えられない訳じゃないからな。
まあ、それでもあまり気持ちの良いものではない。
だが、仲間のためだ。心を鬼にする。
トラックの荷台に降り立つ。
三人が倒れている。
おや、これがビームチャクラムか。
見た目は円月輪で持ち手がついている。
落としてるじゃねえか。
俺はソレを拾う。
ボタンを押すと、エネルギーが充填されて、これを振るとビームチャクラムが飛ぶのか……と、円月輪は異様な音を鳴らして、それから、大爆発するのだった。
───死亡───
「すごいですー! さすがドMの鑑ですー! 」
「ゐーっ! 〈ドMじゃねーわ! 〉」
復活と同時に俺はサクヤにツッコミを入れる。
視線をトラックの方に向ければ、トラックごと爆発に巻き込まれ、大炎上していた。
「そん……な……みんな…… 」
「イーヤッター! 」「「「イーッ! 」」」
『りばりば』戦闘員から歓声が上がる。
俺はと言えば、絶賛反省中だった。
ムックが敵の武器拾って大爆発を起こしたのはつい先程のことだ。
結果的に、熱かったのが一瞬のことで、痛かったのも一瞬だったので、気付いた時には復活のカウントダウンを見ていたのだが、感覚設定『リアル』での死は怖い。
後から思い返すと、心臓が飛び跳ねるような思いをする。
だが、同時に自身の『生』を実感する。
ヤバいな……俺はドMかもしれん……。
「呆けている場合ではない、ピロ」
その言葉に俺は現実に意識を戻す。
なんだ、『ロータスフラワー』に向けた言葉か。
「誰が! みんなの無念、私が晴らす! 」
『ロータスフラワー』と『シノビピロウ』の激突、かに思われたが『シノビピロウ』は無理に戦わず『ロータスフラワー』の攻撃を避け、いなし、防御に専念している。
それは待っているからだ。
俺たち戦闘員が『ロータスフラワー』の動きを止められると信じているからだ。
それならば俺のやることは、ひとつ。
「ゐーっ! 〈突撃ー! 〉」
「邪魔よ! 」
俺は気がつけば死んでいた。たぶん、頭から左右に両断されたんだと思う。
早くねえか?
───死亡───
残り魔石、一個だ。
Lv26程度が突撃することの意味を悟った。
最低でも敵はLv80以上で、変身によって能力値が5倍から10倍程度まで伸びている。
雑魚だ。雑魚は雑魚らしく、せせこましくやるしかないのだ。
ならばやることは、ひとつ!
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
『ロータスフラワー』の周りに浮かぶ細身の曲刀が自動的に迎撃してくる。
だが、俺の放った黒い靄はそもそも当たり判定がないのだ。
何度も何度も、何度も何度も、何度も自動迎撃されるが、それは必然的に『ロータスフラワー』の【戦の地母神】を無効化しているのと同義だった。
思わぬ誤算。計算よりもヤケクソで放った嫌がらせだったが、ラッキーと言わざるを得ない。
「なんなのこれは! 」
嫌がった『ロータスフラワー』が逃れようとする。
そうして弱みを見せた相手に対する集団心理というのは怖い。
黒タイツが集る。
「ちょ……待っ…… 」
「「「イーッ! 」」」
標準装備『ショックバトン』の黄色いダメージ文字が花火のように咲いた。
「時来たれりピロ! 【夢食い】」
『シノビピロウ』が肩の枕を投げた。
一斉に戦闘員たちが引く。
枕手裏剣が『ロータスフラワー』に当たって『ロータスフラワー』は、ぐらりと倒れた。
頭を打つ寸前にそこに枕が滑り込む。
とさり。
『ロータスフラワー』の寝顔は十代少女のようで可愛いものだった。最初だけは。
次第にその寝顔は苦悶の表情に彩られる。
「……ああ、いや、やめて…… 」
ふむ、悪夢の中で酷いことをされているのだろう。
つい、男の戦闘員たちが集まって寝顔を覗き見る。
「いい…… 」
こらこら、それは戦闘員語じゃないやつだろ、と他の戦闘員から突っ込まれる戦闘員。
言ってしまった戦闘員は照れている。
「んん……だめぇ……私のどーなつ、食べちゃ……だ、め…… 」
「「「イイイッ!! 〈どんな夢だよ! 〉」」」
おかしい。【古代語】しかないはずなのに、何を言っているか分かった気がする。
『ロータスフラワー』は次第に衰弱していく。
『シノビピロウ』は呟いた。
「バクバク・ナイトメアは夢食いと同時にMPを吸い取るコア・マクラの固有アーツピロ。
絶望と共に死んでゆけ、ピロ」
『シノビピロウ』は『ロータスフラワー』に背を向けて、未だ霧の中に囚われ剣を振り回している『マギハルコン』へと向かった。
むむむ……題名を変えたい。
よろしければ皆さんのお知恵を貸して下さいm(_ _)m




