428〈side:シシャモ〉
昨日から数えて、ぶつかったのは、これで何度目になるだろう。
一度目は、相手が『雷神』のガチャ魂持ちだと知らず、一撃で死んだ。
二度目は装備部の諸先輩方がノリと興味本位で作ってくれていた絶縁体『リビコフ』で勝利を納めた。
そこからは、会う度に負けている。
僕の主戦力である超巨大鎧『リビング・コフィン』シリーズは既に在庫切れで、アタッチメントとして作られた超重量武器は残っているが、それしかない。
防御力が圧倒的に足りないまま、僕は殺されて戻って来た。
大首領様の宝物庫前でリスポーンして、大急ぎで城下町の装備部の経営する武器屋に寄る。
「すいません、またやられました!」
「おう、とりあえずどれでもいいから持って行け!」「すまんな。鎧が用意できなくて……」「大丈夫か、三デス目が一番、キツいって聞くぞ……」
魔の三デス目。
ラグナロクイベントは誰もが嫌がる、設定:リアルがデフォルトになる。
もちろん、脳への致命的ショックを避けるための安全性は確保されているが、それでも実際に死んだように感じる痛みは、恐怖を呼び起こす。
そして、最近になって言われるようになったのが、魔の三デス目。
三回、デスすると常人は耐えられない恐怖に襲われる、らしい。
僕は前のレギオンを辞める時、何度もリアル設定のデスを経験し過ぎて、その辺りはちょっとマヒしてしまっているので、良く理解できないが、大抵の人は三デス目になると、一度避難所に篭もる。
避難所でどうにかやる気を取り戻せた人が復帰してくるが、恐怖を乗り越えるためには、それなりに時間が必要らしい。
僕はなるべく重そうな武器をインベントリに入れると、城下町の正門に急いだ。
「こけーっ!」「まんどら〜!」「がうるるる……」
グレンさんから預けられた、テイムモンスターたちが僕を呼び止める。
連れて行け、ということだろう。
前にグレンさんがやっていたテイムモンスターたちの救急隊をやってもらおうとしたけれど、彼らは言うことを聞いてくれない。
僕を見つけると、勝手に付いてこようとするので、勘弁して欲しいのだが、彼らはバラけて正門前を張っていて、必ず見つかってしまう。
「君たちに死んでもらう訳に行かないんだから、付いてこないでよ !」
グレンさんからは、好きに使ってくれと言われているけど、だからといって、はい、そうですか、とはいかない。
僕はグレンさんのテイムモンスターから逃げるように『大部屋』まで移動。
回廊を通って、『マギクラウン』基地へと攻め込んだ。
「なすびー!」「マンダラー!」「オニオーン!」
「わあ、じいちゃん、速いね!」
「そうだろう。グレン様の御使いたちだからな」
「ちょ、ちょっ……じいじさん!
勝手に連れて来ないで下さい!」
置いて来たはずのグレンさんのテイムモンスターたちが、じいじさんとロミオくんの手によって、回廊を渡ってしまっていた。
「問題ない。私もグレン様からこの子らのことを頼まれているからな」
「え、じいじさんも……」
たしか、リアルでの知り合いとか聞いた気がする。
少しだけ、胸の奥がモヤモヤした。
まあ、僕だけに頼むのも変な話だしな。
なんとかモヤモヤを飲み込んで、僕は先に進むことにした。
『マギクラウン』の『大部屋』は、完全にリスポーンキルの狩場になっている。
この先にも、そういう場所がどんどん増えていた。
何故か、じいじさんとテイムモンスターたちは僕について来る。
同じ青部隊だから不思議はないはずだけれど、テイムモンスターも含めて、皆が僕をサポートするような動きをしている気がする。
でも、ある意味、これはチャンスだ。
一気に進んで、あの『天雷』という『雷神』のガチャ魂を使うヒーローを倒したい。
たぶん、それがこのラグナロクイベントの鍵だ。
そう考えて、僕は足早に奥へと進むのだった。




