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 Bグループの研究所の正門は土塁が積み上げられ、兵士たちによって厳重に守られていた。

 壁の上部は鉄線らしきものが張り巡らされていて、電流が流れていそうだ。


 山田、どぶマウス、他数名が作りかけの他の研究所の壁を盾に銃撃戦を展開しているが、膠着状態に陥っている。


 腐っても軍人、組織立った動きをさせると連携力に違いが出る。

 さらにいえば、相手方にも少なからず超能力者がいるのが厳しい。


 俺が空を飛んで、研究所内部を撹乱しようかとも思ったが、一度、浮かび上がっただけで、集中砲火にさらされ、断念するしかなかった。

 また、厄介なのは『遺伝子組み換え人間デザイナーズチャイルド』の存在だ。

 命懸けで吶喊とっかんされると、こちらは全力で防がなくてはならない。


 そうなれば、動きが崩され、一人、また一人と倒されてしまう。


 研究所の外はSIZUの『死の軍団(ヘル)』のおかげで、有利に運べているが、中に入るための決め手がなかった。


「ヤバいでっす!

 弾薬切れになりそうでっす!」


「MPもかなり、きついです……」


 山田は強力な超能力者ゆえに、MPの消費が激しい。

 このままではジリ貧だ。


 そんな時、俺たちの仲間である一人が近づいて来た。

 前に助けた超能力者の一人だ。


「なあ、これ使えないか?」


 見せてくれたのは、おじいちゃん先生の孫が完成させた『情動操作回復薬』の注射用アンプルと、ハンドガンに良く似た無痛針注射器だ。

 一度でもBグループに捕まったことがある人たちに持たされている装備らしい。


 あれ、俺は渡されてないぞ?

 まあ、自前で何とかできるからいらないが、おじいちゃん先生からは「持っていくか?」のひと言すらなかった。

 ……まあ、いい。


 ちなみに、この『情動操作回復薬』を使うと、瞬間的に記憶が回復して、塗り替えられた情動が一瞬で元に戻るらしい。ただし、効果は長く続く訳ではなく、ようやく開かれた何枚もの扉が、一枚ずつ閉まっていくのがものすごい嫌悪感を抱かせるらしい。

 これを続けて投薬することで、扉を一枚ずつ開けていくように、根源的な情動を回復させるのが『情動操作回復薬』の効果だ。


 つまり、情動操作されている相手に射てれば、動きを止めるか、瞬間的な味方にすることができる。

 使うなら『遺伝子組み換え人間デザイナーズチャイルド』だろう。


 そういえば、未だ『DC』と出会えていない。

 もう一度くらい、呼んでみるか。


「アオォォォーーーンッ!」


 俺は【遠吠え(フォース・ハウリング)】を使う。


 遠く、地響きのような反応が返って来る。


「今だ、薬を!」「押し倒せ!」「【眠りの棘スリーピング・カクタス】……」


 吶喊してきた『遺伝子組み換え人間デザイナーズチャイルド』に【遠吠え(フォース・ハウリング)】が決まったらしい。

 一瞬、動きを止めた柴犬系のワードッグに『情動操作回復薬』を射とうと皆が動く。


「わおーん!」「わおーん!」「うぅぅぅ……わおーん!」


 ワードッグたちは怒りの表情を浮かべて振り返ると同時に駆け出した。


「くそ、何が起こった!」「分かりません。撃ちますか?」「ええい、撃て!」


 兵士たちの銃撃が、味方のはずのワードッグへと向かう。


「今でっす!」


 どぶマウスの号令でワードッグを盾に、俺たちが攻める番だ。


 だが、勝負は意外なところで決する。

 研究所の固く閉ざされた扉が、内から外へと爆散した。


「なんだ!?」「ぐはっ!」「挟まれました!」


 Bグループの兵士たちが動揺する。

 吹き飛んだ扉のところには、ひと回り身体が大きくなった『虎人間(ワータイガー)』が小さく唸りを上げて立っていた。


「DC! そこにいたか!」


「ぐがあぁぁぁっ!」


 『DC』が答えた。

 『DC』は半分吹き飛んで、半分がかろうじて残る金属製の分厚い扉に指をめり込ませて掴むと、それを軽々と振り回す。


「撃て! 撃て!」


 Bグループの兵士が混乱しながらも『DC』を撃った。

 銃弾が当たる。当たってからその筋肉に盛り返されるように、ぱらぱらと弾丸が落ちる。

 何事もなかったかのように、『DC』が扉を振り回した。

 兵士と土塁がまとめて吹き飛んだ。


「隊長、秘密兵器の制御がっ!」「何故だ! 何故こうなった! 誰か博士に連絡を!」


 隊長と思しき人物が叫んだ時には、すでに周囲に人は残っていない。


「博士は中か?」


 俺はアサルトライフルを突きつけて聞く。


「あ、そ、そうだ……頼む、命だけは……」


「お前らが消耗品で使った、ワードッグに聞けよ……」


 俺は『DC』に誰も入れるなと頼んでから、研究所の中へと足を踏み入れたのだった。



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