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「これを! 」


 無念に打ちひしがれていたサクヤだったが、インベントリから幾つかのアイテムを取り出すとその中のひとつをムックへと投げた。


「イー、ピロッ? 」


 枕? ムックが受け取ったのは枕だった。

 そして、受け取った瞬間にムックの語尾に「ピロ」がついた。

 つまり、「コア・ピロウ」か!? 


 サクヤが結構な数の復活石をばら蒔いた。


「「「イーッ! 」」」「「「イーッ! 」」」


 一体、どこにこれだけの戦闘員がいたのか。

 普通に『レイド戦』時の倍くらいの戦闘員が現れる。


「ゐーっ? 〈どうやって集めたんだ? 〉」


「ちっ! 少し多いな…… 」


 『マギハルコン』がさっそく戦闘員たちに囲まれる。

 それは、状態異常を解いてしまった『ロータスフラワー』も同様だ。


「あんたがモタモタしてるから、こんなに来ちゃったじゃない! 」


「臆したか? 」


「そんな訳ないでしょ! 」


「まずはダメージディーラーを潰す! 」


 『マギハルコン』が戦闘員を掻き分けるようにムックへと直進を始める。

 ムックは渡された枕を見詰めて俯いてしまっている。


「イ、イ、イ、イィ、イィ、イイイイイイイイイィィィィィィッ!! 」


「ゐーっ! 〈危ねぇっ! 〉」


 『マギハルコン』がムックの正面に来た時、俺はムックを庇う形で立ちはだかった。

 三度目の【血涙弾ブラッドバーン】。


 咄嗟に『マギハルコン』は目を庇い、『盲目』から逃れる。


「さっきから、調子に乗るな! 」


 『マギハルコン』のキックが迫る。

 だが、直後に【緊急回避ウルフ・ステップ】を発動させていた俺はそれを避ける。

 普通に見てから避けられるスピードじゃないので、連続使用しているのが功を奏した。

 【夜の帳(ダークネス)】も連続使用だ。

 視線でターゲッティング。腕を伸ばそうとしたら、そこに『マギハルコン』の肩が入り込んでタックルを食らった。


 息が詰まる。だが、闇の靄は発動した。


「またか! ウザい構成しやがって! 」


「イーケルー! 」


 一瞬の隙を突いて、他の戦闘員の『ショックバトン』が『マギハルコン』に入った。


「ちっ! 」


 黄色い文字の「1」が並ぶ。


「そんな真っ正直に正面から突っ込むな、バカ! 」


 横合いから戦闘員を蹴散らすのは『ロータスフラワー』だ。


「ええい、もう……【戦の地母神(カーリー)】! 」


 両手の細身の曲刀とは別に、もう二本の細身の曲刀が『ロータスフラワー』の背後に浮かぶ。

 空中を泳ぐ二本の細身の曲刀は、縦横無尽に空中から戦闘員たちを斬り裂いていく。


 そこまで見たところで、俺のHPはゼロになった。


───死亡───


 階段出口の死角で復活と同時に、俺はふたつの光を見た。

 ひとつは降り注ぐ流星の光。

 これは大型スーパーの駐車場入口に横付けされたトラックの荷台が開いて、そこに並ぶミニスカート戦闘員たちが投げたビームチャクラムという武器の光だ。

 近未来的なリクルートスーツのような姿をして、思い思いにビームチャクラムを投げた後の決めポーズを作る彼女たちは『ヴィーナス・シップ』の戦闘員なのだろう。

 アイドルグループ研修生みたいな雰囲気がある。


 そして、もうひとつの光は、ムックの変身の光だった。


 両肩にはショルダーガードのような枕がついている忍び装束の魔人といった格好だ。


「シノビピロウ、見参、ピロ…… 」


「「「イーッ!〈ゐーっ!〉 」」」


 細身の逆三角形シルエット。鉢金、手甲、足甲はいぶし銀の光沢。枕の存在感がともすれば浮いているようにも感じるが、何故か格好良い。

 思わず片手を掲げて、『シノビピロウ』を迎え入れる他の『りばりば』戦闘員たちと気持ちはひとつだ。


「ぬおあぁぁっ! すぐに終わらせてやる! 

 Kーフォトンブレイド! 」


 『感電』の状態異常から抜け出した『マギハルコン』が光の剣を抜いた。


「一撃滅殺! 【草薙剣クサナギ・ジ・エンド】! 」


 三日月状のエネルギー粒子が「シノビピロウ」を襲う。


「【夢幻変わり身ダーク・イン・シャドウ】」


 『シノビピロウ』との間にいた戦闘員を真っ二つにしながらエネルギー粒子が『シノビピロウ』を襲うが、そこには真っ二つにされた枕が残されていた。


「イーッ! 」


「邪魔だ! 」


 大技のスキル攻撃後の隙を狙った戦闘員を、『マギハルコン』は無造作に光の剣の柄で殴りつける。

 俺の赤いエフェクトを散々拭った後のバイザーでは碧に光る瞳をあちらこちらと『シノビピロウ』を探しているように見える。


 だが、『シノビピロウ』は既に居たのだ。

 戦闘員の影の中から身体を出して、『マギハルコン』の腕を押さえる。


「ここだピロ……【夢幻抜刀・霞切り(カシンコジ)】」


 『マギハルコン』の周囲を霧が覆う。


「ふん……β時代を生き抜いたマギハルコンにシノビスキルとは、舐められたものだ。

 そこ! 」


 『マギハルコン』の瞳は紅い輝きを宿して、光の剣を振り回している。


「シノビスキルピロ……いいや、違うピロ。

 これはユニークスキル。【七宝行者】幻術師系最強スキルピロ…… 」


 ムックはそう言い捨てて、次の獲物へと向かった。


「カッコイイ! 」


 戦闘員の一人が思わずといった風に呟いた。


 格好良いんだろうか? 語尾の「ピロ」がなければな……。


「はあ……だらしない…… 」


 『ロータスフラワー』と『シノビピロウ』が対峙する。

 辺りには流星群の到来かのようにビームチャクラムが降り注いでいて、戦闘員たちは『ロータスフラワー』に近づくことすらできない。


 駐車場入口に陣取るトラックは、見晴らしが良過ぎてそちらに向かうこともできない。


 俺は考える。

 距離が遠くて普通のスキルは届かない。

 超遠距離で使えるスキルといえば【封印する縛鎖(グレイプニル)】があるが、代償が腕一本となると二発撃ったら終わりだ。

 どうする? どうすればいい? 


「くっ……ヴィーナス・シップの戦闘員が邪魔ですねー! 」


 サクヤも同じことを考えているようだ。

 渡された五個の魔石は使い切ったが、俺たちは経験値を捨てて敵戦闘員殲滅部隊として特別な配慮をされている。


 煮込みが落とされ、ムックが怪人化した以上、俺とサクヤで何とかしたい。


 俺は自分ができることを考えて、はたと気付いた。


「ゐーっ! 〈サクヤ、頼みがある! 〉」


 俺はサクヤに耳打ちするのだった。


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