419〈シシャモとアダム〉
プレートには『居住コロニー』とあった。
おそらく専用フィールドの城下町に当たる場所だ。
かなり広めの空間で、そこかしこにNPCドールとガイガイネンの死体が転がっている。
少し奥で戦っているようだ。
ようやく、アダムたちに追い付いたか。
ガイガイネンはプレイヤーでありながら、この世界で発生した生命だ。
死体を見て、初めて彼らにコンティニューはないのだと気付く。
死んだら終わりの存在。
大地となった本体から、日々、新しい『ネオ』が生まれてくるとはいえ、例えばあまろは一度でもデスしてしまえば、そこで終わりなのだ。
本来の生命とはそういうものだとはいえ、そして、『ネオ』はプレイヤーとしての権利を持っているのだとはいえ、援軍を頼むということは、その生命を背負うことなのだと思い知らされる。
たくさんの死体。NPCドールの魂も『ネオ』の魂も、ここでこんなにもたくさんの生命が散っている。
俺の背中にずっしりと重いものが積み重なっていく。
現実という百年前に身体を置いて戦う俺たちと、根本的に違うのだ。
だが、それにも関わらずアダムは俺の依頼を受けた。
あいつもまた『神』としての『理』に目覚めたとはいえ、同胞の死に何も感じないはずはない。
ゲームだがゲームじゃない、その事実が俺に降り掛かる。
この『リアじゅー』という世界は、超A.I.となった大地の神々が俺たちに見せる、有り得る並行世界の幻視のようなものだ。
その絡み合い方は、複雑過ぎて俺には全てを理解することはできないが、ここですることにも、現実ですることにも、必ず因果がついて回る。
俺は英雄にはなれないが、小さな風を吹かせるくらいはできる。
それが俺の中に眠る『フェンリル』に『理』を与えた俺の因果でもある。
終わらせる。そして、始まる。
ソレを果たすために進まなくてはならないのだと、俺の魂が囁いた。
奥に進むと、その戦いが見えて来た。
どう見ても量産型の迷彩ヒーローとは一線を画す二体のヒーロー。
それが暴れていた。
俺は強烈な既視感に目眩を起こしそうになる。
群青色のサメモチーフの鎧。
形は変われども、その傲慢な戦い方、言動の端々に感じる嫌悪感。
なんと言う皮肉だろうか。
「ゐー……〈鮫島……なのか……〉」
ソイツはアダムと対峙していた。
「てめぇ、俺の知ってるムカつくアイツにそっくりだぜ……」
「ああ、俺の記憶にも焼き付いているぞ、親不幸者が!
あれだけのことをしていながら、何故、またここにいる……」
「何言ってんだ、このイベントモンスターはよう?
お前に説教される謂れはねぇぞ、クソが!」
アダムは俺の魂のコピーでもある。
俺の言いたいことはアダムが言っていた。
鮫島社長がどんな想いで、お前を突き放したのか、それを考えようともしていないように見える鮫島は、どう考えても情動操作を受けているようには見えない。
鮫島を見ていると、イライラする。
いつまで、どこまで繰り返すつもりなんだ、コイツは。
そして、そのすぐ近くでは金色のライオンモチーフの鎧を着たヒーローが大型ネオ、クリアーを引き裂いていた。
「シャアアアーォウ!
……ククッ、命の零れる音がシマス。心地のヨイ音ガ……」
「くっ……この隙を無駄にしない!
【海蛇の大槌】!」
「【百華の豪炎】」
何故か一人でそこにいるシシャモが渦巻く水流を放つと、金鎧は胸の飾られた獅子の顔から渦巻く炎を出して対抗した。
何故、シシャモが? という疑問はすぐに流れて消える。
シシャモだって成長している。元々、それくらいの地力はあるやつだ。
何も不思議なことではない。
だが、ここまでで随分と激戦を潜り抜けて来たのだろう。
片腕は部位破損して無くなっているし、傷もあちこちに見受けられる。
「ゐーっ!〈シシャモ、大丈夫か!〉」
「グレンさんっ! 僕は大丈夫です!
グレンさんは、アイツを……メガロスパーク、アイツは鮫島です!」
シシャモが視線だけを俺に向けて、不敵に微笑んだ。
だが、シシャモは俺が手伝おうと横に並んだのを、キッパリと拒んだ。
少し驚いたが、また同時に嬉しくもあった。
「ゐーっ!〈分かった。こっちは頼んだ!〉」
俺はインベントリから部位破損回復薬を取り出してシシャモの失われた腕に掛けてから、アダムの方に向かうのだった。
 




