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 装備部を越えた先にはドーム状の空間に様々な工業機械が並んだ空間だ。

 入口には『アイテムプラント』とあった。

 魔法文明では、鍋釜を使ったり、一部機械化されていたりもするが、基本は手製工業の物が、科学文明では、全てオートメーションらしい。

 こちらが本命か。


「撃て!」


 俺たちが入った瞬間、エネルギー弾が波のように襲って来る。

 すでに変身して俺たちを待っている迷彩ヒーローたちが放つ攻撃はさらに強力だ。

 能力値が高ければ、それだけダメージの上乗せが増える。


 ぎりぎりで【緊急回避(ウルフ・ステップ)】が間に合って、機械の陰に入る。


 一撃で吹き飛んだ奴らは、ある意味幸せだ。

 死にきれず、部位破損で済んでしまった奴らは、呻き、叫び、悶えている。

 だからといって、どうしてやることもできない。

 今、出ていけば、俺も波に飲まれるだけだ。


「うぅ、くそ……痛えだろが……【毒噴射(ポイズンスプラッシュ)】」


 もう助からないと悟った『りばりば』戦闘員たちが最後の雄叫びのようにスキルを放って散っていく。

 敵基地で死ぬことは持っているアイテムのほとんどを落としてしまう可能性を秘めている。

 結果的にラグナロクイベントを勝ち切るためには、戦闘員の地力が試される。


 『マギクラウン』側は自分の基地で死んでも、ほぼアイテムロストがない以上、変身し放題なのだ。

 戦闘員のままヒーローくらい倒せなければ、ラグナロクイベントは終わらない。


 どうにか穴を開けたい。

 こう間断なく攻撃されっぱなしだと、場が硬直するばかりで、時間が無くなってしまう。

 ラグナロクイベントは時間限定イベントだ。

 明日、仕切り直しになると、こちらが押しているとはいえ、不利になる可能性も出てくる。

 元々が電撃作戦として始まっているのだ。

 今日、進めるだけ進めて、相手のリソースを極限まで削るのが理想だ。


 でなければ、現実で予定している作戦を引き伸ばすことになる。


 特攻覚悟でやってやろうかと腹を決める寸前、他の戦闘員から話しかけられた。


「グレンさん、わたしとえくさがやるよ」


 それは少年と少女の二人組で、その堂々と顔を晒した黒タイツ姿はたしかに『りばりば』戦闘員のものだ。


「ゐー……〈あまろ……それにえくさもか……なんでだ、お前たちには関係ないだろうに……〉」


「甘いな、グレンさん!

 ラグナロクイベントが始まった時に、俺たちも大部屋に集められたんだぜ!

 なにしろ……」


「わたしたちも、りばりばの戦闘員だから」


 その二人は、俺たちの中では『始まりの五人』と呼ばれる者の二人だ。

 アダムとの秘密協定によって『りばりば』で受け入れた、『ネオ』の五人。

 人の世界を知り、人の世界で生きることを決めた五人。

 その本性は『ガイガイネン』だ。

 大型ネオ、ガンシップの『江草柄る』と小型ネオ、ジャマーの『甘炉す』。


「いやぁ、あまろが協力したいって言うけど、コイツ弱っちいからさ。

 俺が協力することにしたんだ」


「わたしは二人の監視役……ふわぁぁぁ……」


 二人の後ろ、黒の目出し帽の女が眠そうに言う。


「ゐーっ!〈べねむもか……〉」


 シュリンプマンネオ、『別眠絵る』だった。


 ありがたい。ありがたいが、どうなんだ?

 彼、彼女らの好きに生きればいいとは思うが、俺たちの争いに関わらせるのは……。

 ただ、人間アバターを与えるため、所属は『りばりば』なのは間違いない。


「わたしたちなら大丈夫!

 ネオはプレイヤーより強いから!」


 時間もない。たしかにネオが今、この場にいるのは、歩兵の中の戦車のようなものだ。


「ゐーっ!〈無理はするなよ、一度、崩してさえくれれば、後は俺たちがやる!〉」


「うん!」


「おう、やったるぜ!」


「二人は私が死なせないから……Zzz……」


 言いながら寝ないで欲しい。


「行こう、えくさ!」


「おう、アバター解除!」


 あまろとえくさ、ガイガイネン、ジャマーとガンシップがその場に現れる。

 ジャマーの放つ座標爆破がエネルギー弾の波を壁のように阻むかと思えば、その上をガンシップが放つミニガイガイネン、えくさに言わせると人間の使うドローンのようなものらしいが、ソレが敵の中に放たれる。

 大型犬ほどの大きさのミニガイガイネンが、迷彩ヒーローたちの一角を崩す。


「ゐーっ!〈行くぞ!〉」


 俺は他の戦闘員に声を掛けて、駆け出す。


 ミニガイガイネンが迷彩ヒーローの動きを牽制している中、あまろとえくさが作ってくれた隙間を通って、裏側に抜ける。


 残った戦闘員たちと、リズム打ちをして、迷彩ヒーローたちを一人ずつ始末していく。


「【悪魔封印の秘密サファイア・タブレット】!」


 びくり、と俺は振り向く。

 そのスキルは俺に悪夢を思い出させる。

 振り向いた先には迷彩ヒーローの一人が俺を攻撃しようとした姿のまま、サファイアに包まれていくところだった。

 アレを食らうと五感の全てが無くなって、一瞬で虚無に落ちたようになる。

 正直、トラウマレベルのスキルだ。


「気をつけて下さい、グレンさん。

 狙われてましたよ!」


 『グレイキャンパス』からの傭兵、青海だ。

 そうか、助けてくれたのか……。


「ゐーっ!〈助かった。ありがとう!〉」


 俺が礼を言うと、青海は急に照れたようにもじもじしだす。


「え、あ、いや、そういうことでしたら、お礼代わりにまた決闘とか受けてくれると……嬉しいといいますか……」


「ゐー……〈ああ、また、今度な……〉」


 ううむ。そういえば青海は俺を壁だと感じているんだった。

 次があるなら、俺はまた青海と決闘しても構わない。次があるならだ。


 まずはこのラグナロクを終わらせないとな。

 そんなことを思いながら、俺たちは先へ進むのだった。



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