414〈side︰シシャモ〉
僕たちがポータルに触れると同時に、身体がどこかへ転送されるのが分かった。
光をくぐり抜けた先には宇宙船の格納庫を思わせるような、金属で覆われたのっぺりとした空間が広がっている。
「何者か。官、姓名を名乗れ!」
びっくりした。随分とお堅い感じのレギオンなんだな、と思った。
軍人が着るようなカーキ色の野戦服に帽子、手には自動小銃が握られている。
お堅いのは雰囲気だけではないようだ。
レギオンのポータルに歩哨を付けるなんて、ちょっと昔の自分が居たレギオンを思い出してしまう。
「聞かれて名乗るバカがいるか!」
仲間の一人が手にした『ショックバトン改』を振るう。
「ちっ!」
まるで流れるようにその奇襲を避けて、距離を取り、自動小銃を斉射してくる『マギクラウン』戦闘員。
『1点』ダメージが綺麗に一人の戦闘員に収束してそこそこのダメージを与える。
なんでそんな威力の低い武器を使っているのかは謎だが、おかげで助かった。
「気を抜くな、既に敵地だぞ!」
「敵襲! 敵……」
じいじさんの放った『ショックアロー改』が『マギクラウン』戦闘員の喉を貫いた。
元エンジョイ勢とは思えない、その弓捌きに驚くと共に、僕は気合いを入れ直す。
「予定通り散開して、敵中枢を探せ!
ロッカー、装備部、食堂部は見つけ次第壊せ!
シシャモ、頼んだぞ!」
「はい!」
僕は超大型鎧『リビングコフィン︰アサルト』を展開する。
連発式グレネードに魔力充填式ショックブレード銃剣を装着した『アサルトグレネード』を装備した、『リビコフ︰アサルト』はロマン武器を廃止して、軽快な操作性と重厚な防御力を追求した、リアルロボットの系譜に連なる『リビコフ』だ。
装備部の先輩方によると、これはこれで需要があるらしい。
何度も死にながら、中のスライムを交換して、かっこいいリロードの練習した日々が懐かしい。
「リビングコフィン︰アサルト、起動!」
鎧の関節に仕込まれた、無駄にかっこいい水蒸気の給排気音を聞いて、僕の闘志が高まる。
「先輩方、見ていて下さい!」
部屋の中が真っ赤なライトに照らされ、緊急用ブザーがけたたましく鳴る。
───リバース・リヴァースがマギクラウン基地への侵入を果たしました。マギクラウンからラグナロクイベントコールが発動されました───
───リバース・リヴァース対マギクラウンのラグナロクイベントが開始されました───
脳内アナウンスが聞こえた。
さあ、敵が現れるぞ。
僕は敵の注意を引きつけるべく、『アサルトグレネード』を乱射する。
ドカン! ドカン! と鳴り響く爆発音に周囲から敵が集まるのを理解する。
あちこちから自動小銃で撃たれる。
「コイツの機動力を甘くみるな!
アサルトダッシュ!」
僕は全力で走る。手近な扉が防火扉に覆われようとしているのを、タックルで突破する。
そこは食堂部のようだ。
今や科学文明側レギオンレベル一位に迫らんとしている『マギクラウン』のはずなのに、食堂部は随分と簡素な作りだ。
厨房と食堂のふたつで構成されている。
ここのレギオンは戦闘員に食事を選ぶ権利がないらしい。
なんだか酷いレギオンだな。
僕はかっこいいリロードを挟んで、また『アサルトグレネード』を乱射する。
敵の継戦能力を奪うのは重要だ。
食堂部、特に厨房部分は徹底的に潰させてもらう。
「うおっ! 俺たちのカレーが!」「あのデカブツを許すな!」「対物ライフル持って来い!」
入口が一ヶ所しかないのは、ありがたい。
机を適当に寄せて、防御壁代わりにしつつ、応戦する。
僕の限界が訪れる。
僕は『リビングコフィン︰アサルト』を脱ぎ捨て、『アサルトグレネード』の専用持ち手を握る。
巨人サイズの手で扱う部分とは別に、僕の手でも動かせる持ち手がついている。
残念ながら、ここからは泥臭いリロードになってしまうが、中のスライムが死んで、ただの鉄の棺桶となった『リビングコフィン︰アサルト』を盾にして、まだまだ僕は粘る。
あちらこちらで爆発音が聞こえる。
破壊工作が進んでいる音だ。
「巨大ロボットとは、どういう仕組みですか?
鹵獲しておけぱ、ファイブハート博士も喜ぶでしょうかねぇ」
幹部だろうか?
なんだか、粘っこくて嫌な喋り方の声が聞こえる。
「はんっ……ありゃ、そんなご大層な代物じゃねぇよ!
なあ、そうだろ、シシャモよぉ!」
もう一人の声がする。それは忌むべきもので、僕の中のトラウマを刺激する。
「おや、お知り合いですか?」
「ああ、俺のレギオンを潰した臆病者の裏切り者、だよなぁ、シシャモ!」
ああ、ざらざらした感覚が僕の心の奥を舐め取るように削っていく。
「ちょうどいい。ヒーローとして生まれ変わった俺の力を、その身に刻んでやるよ!
お前の立場がなんだったのか、思い出させてやる!
変身! メガロスパーク!」
「さ、さ、鮫島……なんで……」
「さんをつけろよ、この雑魚がっ!
はんっ! 教えてやるよ……俺は目覚めただけだ。
一番強えのは何かってことにな!」
あの鮫島だ。それが群青色の鎧に身を包んだヒーローになっていた。
牙の並ぶ口を思わせるバイザーの奥に、まさしく鮫を思わせる冷淡な瞳を宿した男がいる。
僕は訳が分からなくなって、我知らず叫びながら『アサルトグレネード』の銃剣を振り下ろしたのだった。




