413〈終わりのはじまり〉
「全員、傾聴!」
それはレオナのひと言から始まった。
「リバース・リヴァース大首領様からのお言葉である!
心して聞くように!」
俺が、にこぱんちとの会話を終えて『りばりば』基地に戻り、少ししてから、今ログインしている全員が『大部屋』に集められた。
レオナのいつもの言葉で、場がピリリと締まると、大画面には黒いもやの塊、すなわち、大首領たんの姿が映し出される。
「新たなる戦闘員もいるだろう。改めて名乗ろう……我こそが大首領である!」
「いよっ!」「大首領たーん!」「かしこまらなくていいんやで!」
慣れてしまった者たちは、既に緩い空気が流れている。
しかし、ここにいるのは古参ばかりではないのだ。
新規で入って来た者や、他のレギオンからの編入組は、このノリにまだついてこられていない。
「こほん……我がリバース・リヴァースは今や悪の秘密組織として、質、量、共に第一位を得ることとなった。
そこで、提案がある。
諸君は正義のヒーローレギオンにある『マギクラウン』を知っているだろうが、彼らの横行闊歩な様を知るものはいるだろうか?」
「正義側でも嫌われてるってやつ?」「パトロールの割り振りに参加しないで好き勝手やってるって聞いたぞ」「どこでも喧嘩上等らしいね」
「聞け、我が戦闘員たちよ!
『マギクラウン』はこのゲームの秩序の破壊者である!」
「ええ、ゲームとか言っちゃうの?」「それが大首領たんクオリティ!」「メタいこと言うのがウチのボスだから……」
「よって、我が命により、『マギクラウン』へのラグナロクイベントの宣戦を布告する!」
「うお、マジか!」「やべぇって、俺が元いたガイア帝国もやられてるんだぞ」「俺たちの強さ、見せてやろうぜ、みんな!」
あちこちで様々な言葉が交わされる。
意気揚々と闘志を燃やす者もいれば、自分たちはエンジョイ勢なのに……と愚痴を零す者、ガイア帝国で辛酸をなめた連中は暗い顔をしている。
そんな中、大画面はレオナへと視点を移した。レオナが拳銃を空へと向ける。
「おい、黙れ、幹部会から何かあるぞ!」「ほら、注目、注目!」「しーっ!」
レオナが撃つ前に、全体が静かになる。
「幹部会より報告があります。
聞いてください。
ひとつ、今回のラグナロクイベントは決定事項です!
参加はいつも通り自由ですが、なるべく多くの者の参加を望みます。
そして、何故、幹部会が大首領様のご採択を推すのか、説明いたします。
今回のラグナロクイベントに於いて、ふたつのレギオンから直接的な支援が約束されています。
ひとつは野良レギオン『グレイキャンパス』の人員、八十名が傭兵として参加します。
そして、もうひとつ。ネオレギオン『ミブロ』から三百名の『ガイガイネン』が途中参加して共闘することになっています」
『大部屋』の中は騒然となった。
『グレイキャンパス』に『ミブロ』。ふたつのレギオンが俺たちと共に立つという話だから当然だ。
「さらに言えば、とある筋からの情報により、我々はシティエリアのマギクラウン所有ポータルの位置を三ヶ所押さえています。
一ヶ所は『ミブロ』レギオン参加のための枠として、我々には二ヶ所のポータルアドバンテージがあり、有利にイベントを進めることが約束されています。
攻めるなら、今です!」
レオナの言葉に大部分の戦闘員が雄叫びを上げるのだった。
ポータル位置を押さえておくのは重要だ。
これにより、俺たちは戦争イベントをすっ飛ばして、ラグナロクイベントを開始できることになる。
もちろん、相手側は一度使われてしまったポータルは封印するしかない。
誰でも基地に入り放題では、次にどこに喧嘩を売られるか分からないからだ。
それが三ヶ所、押さえてあるということは、三つのレギオンから同時にラグナロクイベントを仕掛けられるということだ。
おそらく、三ヶ所目は他のレギオンとの交渉材料だったりするのだろう。
基本的にラグナロクイベントは文明同士の戦いだ。
魔法文明、科学文明、ネオ文明、そこの枠が埋まっているとなると、ジョーカーは野良たちだろうか。
『グレイキャンパス』は傭兵として、今回は『りばりば』の一員として戦うことになる。
そうなるとそこに入るのは別の野良レギオンということになりそうだが、有力な野良レギオンは『グレイキャンパス』以外だと、ほぼ皆無と言っていい。
そうなると、別の使い方として、一回限りの臨時の道という使い方もある。
一度でも使ってしまえば封印されてしまうだろうが、こちらのレギオンレベルを下げることなく奇襲ができるのは大きい。
改めて、レギオンルールを確認してみる。
・『ラグナロクイベント概要』
ラグナロクイベントは魔法文明と科学文明、ネオ文明、それぞれの世界のレギオン生命を掛けたレギオン間最終イベントです。
このイベントはラグナロク参加レギオンのレギオンボスが倒されるまで平日夜八時~十時、土日祝昼二時~四時、夜八時~十時の間行われます。
イベント詳細はラグナロク中、いつでも自身のイベント詳細欄から確認できます。
この時間はポータル使用が制限されます。
また、開戦初日以外、時間になると自動的にレギオン員は基地へと転送されます。
・ラグナロクイベントルール
該当レギオンは異次元回廊というものをレギオンレベルの消費に伴い繋げることができます。これは該当レギオン同士を繋げる特殊なバトルフィールドとして扱います。基本ルールは『遺跡発掘調査』『宙域発掘調査』『異次元特殊探査』に準拠します。
プレイヤーのアイテムドロップはありません。
死亡時はデスペナ五分、復活は各レギオン防衛設定位置からとなります。
また、敵基地内での戦闘は『シティエリア』ルールに準拠します。『発掘調査』専用武器は使用できません。
アイテムドロップは高確率となります。
死亡時はデスペナ五分、復活は各レギオン防衛設定位置からとなります。
味方基地内ではアイテムドロップはありません。
全NPCドールが戦闘に参加します。死亡したNPCドールに復活はありません。
戦争勝利レギオンは各回廊に防衛用オブジェクトを設置できます。
回廊を完全制圧した場合、次のラグナロクイベント開始時に十五分の猶予が与えられます。
微妙にネオ文明が増えた分、文言に変化はあるが、それ以外は同じようだ。
問題はポータル使用の制限だが、これまでの数多のラグナロクイベントから、裏ルール的なものが発見されているので、別の野良レギオンが参戦したり、臨時の道として使うのは問題ないことが分かっている。
「それでは、栄えある最初の第一陣に開戦の狼煙を上げてもらいましょう!」
レオナが言うと、大画面が切り替わる。
場所は『シティエリア』の『鉱山』らしい。
まさか、あんな場所に『マギクラウン』のポータルがあるとは、誰も思わない。
『大部屋』でもあちこちから、なんで? とか、まさか……といった感嘆が聞こえる。
画面にはシシャモをはじめ、青部隊の面々が見える。おじいちゃん先生、じいじの姿も見えた。
コソコソと坑道へと入っていく。
何度か曲がりくねった道の先に、青く光る巨大クリスタル、ポータルが見えた。
シシャモたちが一斉にポータルに触れ、消えていく。
同時に脳内アナウンスが響いた。
───リバース・リヴァースがマギクラウン基地への侵入を果たしました。マギクラウンからラグナロクイベントコールが発動されました───
───リバース・リヴァース対マギクラウンのラグナロクイベントが開始されました───
始まった。そして、始まると同時に封印されていた記憶が怒涛の如く押し寄せてきた。
そうだった。コレがあったか。
レオナたちが参加者の振り分けを始める。
あちこちで新規組の悲鳴が上がるのを、古参たちが宥めている。
感覚設定︰リアル。
また、ここから戦わないといけない訳だ。
「お久しぶりです、グレンさん」
俺の目の前に見覚えのある女戦闘員が立った。一瞬、誰だか迷ったのは、『りばりば』の黒タイツ姿だからだろう。
「グレイキャンパスから派遣されてきた青海です」
元・マギサファイアこと青海だ。
「今回は仲間ですね。でも、グレンさんより活躍する予定なので、よろしくお願いします!」
「ゐーっ!〈ああ、よろしく頼むよ!〉」
俺は青海と握手を交わす。
相変わらず、ライバル認定されている。
『グレイキャンパス』は既に参加していたか。
今日の戦況はしっかり見極めなければならない。
それ次第で明日の俺たちの動きも変わるからな。
そう思って、俺は白部隊の列に並ぶのだった。
母の退院予定が決まりました!
また、忙しくなりそうですm(_ _)m




