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なるべくゆっくり動いて、まずはどういうことをしているのか、かぷかぷに見せてやる。
「ああやることで、土を攪拌しているのよ」
ましろが説明を付け加える。
俺は態度でしかそれを教えられない。
ましろの畑に入って、かぷかぷのすぐ横で鍬を振る。
それから、目でやってみろと合図する。
かぷかぷは、俺の視線に気付いて、ようやく動き出す。
そのかぷかぷに合わせるように、俺も鍬を振るう。
能力値はあからさまに、かぷかぷが上だが、身体の使い方で鍬の入り具合は俺の方が上だ。
「おっかしいなぁ」
かぷかぷが見様見真似で、動きを真似始める。
何度も繰り返すと、少しずつコツが掴めてきたのか、かぷかぷの鍬が深く土に刺さるようになる。
耕すべき部分が終わると、畝を作り、穴を開け、種をまく。
これらを三人でやる。
次第に口数が少なくなり、一心不乱に鍬を振るう。
休憩を入れる。
若さは吸収力だな。少しやるだけでどんどん良くなる。
ましろの作った胡瓜に、かぷかぷが感動している。
「うまっ! これが本物の胡瓜の味……」
「ふふっ、グレンさんは農業スキル高いから、もっと凄いわよ。
いいですか?」
ましろが聞いてくるのに、俺は頷き返す。
ましろは俺の畑から適当に野菜をもいで、それらを食べてみるように、かぷかぷに薦めた。
この辺りのルーズさもまた、農業スキル持ちでフレンド同士の良いところだ。
かぷかぷは、何度も感嘆し、驚嘆の声を上げた。
「あ、トマト美味しくなってますね……」
ましろは気付いたようだ。
前に、ましろに貰った宇宙トマトが衝撃だったからな。
更なる品種改良を重ねて、研鑽した成果だ。
「あ、これ最近育て始めた宇宙産のエネマスカットなんですけど……」
糖度、果汁の豊富さ、皮ごと食べても皮が口に残らない、さらに種まで食える。いいアクセントだ。
なにより、ひと粒が大きい。
俺は満足して頷く。
これを出されてしまったら、俺も魔法文明産の食材を出さないとな。
俺は自分の畑から調理器具を取り出して、キノコニア炒めを作る。
バターソテーして、塩こしょうしただけのものだ。
ましろとかぷかぷ、二人して大騒ぎだ。
体力を減らしてからだと、塩分が活力を与えてくれる。
そうしてまた、土いじりをする。
少しずつ、かぷかぷが語り始める。
「俺、ホントはこんなことしてる場合じゃないんですけどね……」
「こんなこと?」
「ああ、バカにしている訳じゃなくて……その……難しいな……尊敬しているある人が言うんです……レベル上げて、スキルを使い込めって……このゲームはそれが全てだから、無意識にスキルが発動できるくらいになって、ようやく一人前だぞって……俺、不器用だから、なかなかそこまで行けなくて……。
でも、それだけじゃないこともあるんだなって……。
もちろん、そのある人の言うことも痛いくらい正しいことは理解してるんですけど、そうじゃないやり方もあるって、いや、このゲーム始めたばかりの頃は、もっと見る物、聞く物、全部楽しかったはずなのに、いつからか戦うことだけが正義みたいになっちゃって。
なんだか、久しぶりに始めたばかりの頃のわくわく感とか、そういうのが味わえてる気がするんです……」
「うん、確かに戦うことが楽しくて仕方がない時期もあったなぁ……。
でも、他の人やNPCとの交流とか、こうやって普段はやれないことをするとか、そういう楽しみもあっていいよね!」
「はい。そう思います!
まあ、あの人には口が裂けても言えませんけど……」
かぷかぷは少し悲しげな顔をする。
「ふふ、じゃあここでのことは三人だけの内緒ですね!」
「え? あ、は、はい……」
ましろの悪戯っぽい笑顔に、かぷかぷが顔を真っ赤にしていた。
そうして、三人で畑仕事をやっていく。
ましろが俺の畑の話を始めて、俺の畑が『シティエリア』で密かに流行っているグレン農場なのだと知って、かぷかぷが感動していたり、『郊外区』の中立地帯の立役者がましろだと知って驚いたり、楽しんでもらえたようだ。
終わり際、かぷかぷから「また良ければ畑のこと教えてください」と頭を下げられ、俺はそれを了承して、この日は終わるのだった。




