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410〈癒し?の日常〉


 引き分けだ。

 たぶん。

 『グースマイク』だけでも助けられれば……とは思ったが、あの時はやはり『グースマイク』の力が必要だった。


 狙いは悪くなかったはずだが、反省点もあるのは確かだ。

 そんなことをレポートに書いて、静乃に送る。

 現実の『グレイキャンパス』としての俺たちは、静乃の仕掛け待ちという状態だった。

 『りばりば』が『マギクラウン』に対して勝てると思えるだけの情報が必要だった。

 ラグナロクイベントを起こさせるのが目的なのだ。

 そうしなければ、敵首魁となってしまったファイブハート〈五杯〉博士を引きずり出せない。


 それまでは俺の日常が続く。

 そうして、翌日。

 俺はログインしてから、昨日の戦いの垢を落とすべく、『シティエリア』の『郊外区』で畑仕事に精を出すことにした。


 ヒーロー『ホワイトセレネー』こと、ましろの働きによって、『郊外区』は中立地帯として成立した。

 ここは、ヒーローと怪人、科学文明も魔法文明もネオ文明もない緩衝地帯なのだ。

 ネオ文明への説得は、もちろん、俺がやらせてもらった。


 おかげでこの『郊外区』は戦い疲れたプレイヤーたちの憩いの場としての側面が強く打ち出されるようになっている。

 そうして人が集まることで、NPCも増えて来るし、また黒い話も幾つか出てくるが、それはまた別の話になる。


 土を耕し、種をまき、水をやって、雑草を抜く。

 普段は専用のドローン任せなことを自分の手でやるのは、時間も労力も無駄に使うことになる。

 だが、その無駄に使った労力の分、俺の農民スキルはちゃんと見返りをくれる。

 そして、何よりもその無駄が大事なのだ。

 やらなくてもいいことを敢えてやる。

 これが疲れた心にじんわりと沁みる。


 数値的に言えば『体力』を消費するだけの話だ。

 『疲労』は溜まっていないはずだが、『体力』を消費しただけ『疲労』が解消されていく気がする。

 減った『体力』を、胡瓜を齧って回復させる。

 ぼ〜っと空を見上げて、手拭いで汗をぬぐう。


「まあまあ、いいからやってみなさいって!」


「いや、俺、そういうのは……」


「落ち込むくらいなら、身体を動かしてみればいいのよ!

 カプカプくんは考えすぎ! ねっ!」


「はぁ……」


 ふと声に目線をやると、ましろと男の子……。

 俺は一瞬、動揺する。


 昨日の『ミカヅキのシン』の中の人だろ、アレ。


 中学生くらいの男の子が、ましろ指導の元、鍬を振り上げる。


「もっと腰を落として、腕だけで振らない」


「こ、こうですか?」


「えーとね……あ、グレンさん!」


 ましろに気付かれた。


「すいません、グレンさん、ちょっといいですか?」


 俺は自分に、落ち着けと言い聞かせる。

 大丈夫だ。ましろは俺が肩パッドだと理解しているが、だからこそ肩パッドとは呼ばない。

 かぷかぷ、とか言うやつにはバレないだろう。


 俺は素知らぬ顔で視線を向ける。


「こちら、グレンさん。私の農業のお師匠さん!

 はい、カプカプくん、ご挨拶して!」


「え、あ、ども……カプカプカップカップカプといいます……」


 名前長ぇな。だから、かぷかぷくんか。


「それで、カプカプくんに農業のこと教えたいんですけど、グレンさんに手伝ってもらえたらなと思いまして!

 あの、カプカプくん、昨日、ちょっと辛いことがあってですね……」


 あー、うん。たぶん、知ってる。


「それで落ち込んじゃって。

 土いじりで私は助けられてきたから、カプカプくんもどうかなって、連れて来たんですけど、どうせならグレンさんの方が教えるの上手いですし、お願いしたいんです……」


 お、おう。まあ、そういう言い方が嬉しくない訳ではないが、相手が『ミカヅキのシン』だからな。なかなかに複雑ではある。

 落ち込む原因の一因は俺にもあるだろうしな。

 ……というか、ましろは昨日の詳しい状況は知らないのか?


 聞いてみたいが、言語スキルが大きな壁だ。

 おそらく知らないのだということにしておこう。

 知っていてこんなことを俺に言うほど図太い性格はしていないはずだ。


 俺は納屋から道具を取り出して、かぷかぷの前で実演を始める。


「……あの、もしかしてあの人、言葉が?」


「ええ。でも、何を言いたいかは分かるでしょ」


 ましろとかぷかぷがコソコソと話している。


 こうして、俺の土いじり講座が始まるのだった。



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