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 俺は屋上へと戻る。

 未だ森が残っている。今の内に『グースマイク』を逃がさなくては。


 そこで本来なら気付くべきだったのだ。

 スキルで作られたはずの森が残っていることの意味を。


「ゐーっ!〈グースマイクを今の内に逃がすぞ!〉」


「や、やったマイク?」


 俺は翼を仕舞うと大きく頷く。


「さすが伝説の肩パッドマイク……」


 慢心。俺は鼻を高くしていた。どうやら、この場には俺の言葉を理解できるやつはいないようだが、ジェスチャーで内階段を示して逃げるように指示をする。


「次はもっと上手くやってやるマイク!」


 ガチョウの翼でできたマントを翻して、『グースマイク』が内階段に向かおうとした、その時。


「ヒーローに勝てるといつから勘違いしていた!」


 ドローンに乗った『ミカヅキのシン』が腕を組んで上がって来る。


「ゐーっ!〈バカな、お前は落としたはずっ!〉」


「仲間たちとのきずながあれば、俺は何度でもよみがえる!」


「上手く剣が引っかかっただけだけどね」「こら、カプくんそういうの気にするから言わないの」「まあ、ラッキーもヒーローの資質だろ……」


 ちっ! 距離がある分、空気抵抗で泳げたということか……。


 それにしても、ヒーローが戦闘員に助けられたことを公言して憚らない辺り、今までにいないヒーロー像ということなのかもしれない。


「いくぞ!

 【三日月斬り(スエン)】【30(シン)】!」


 【三日月斬り(スエン)】は三日月形の光の斬撃を飛ばしてランダムに敵を切りつけ、『30』点の固定ダメージを与えるスキルだが、【30(シン)】はその光の斬撃を三十倍にするスキルだった。

 三十の飛ぶ斬撃が複雑な曲線を描きながら通信塔の屋上を覆う。


 避けづらく、防御力を無視して、さらに部位破損を起こしやすい斬撃は非常に厄介だ。

 特に俺のようにHPが低いプレイヤーには、これはキツい。

 動きの予測ができず、避けタンクとして培った技を駆使したのに、二度も死んだ。


 さらにフィールド変更系スキル【森の住処(ヴィーディー)】が解除されると、『りばりば』戦闘員は俺を含めて五人しか残っておらず、『グースマイク』もボロボロだった。


「くっ……もう一度、落ちるといいマイク!

 【声銃(ヴォイスブラスター)】!」


 『グースマイク』の見えない音の弾丸が『ミカヅキのシン』の乗る大型ドローンを貫く。


「そう来ると思ったよ!」


 ジャンプ一発、屋上に降り立った『ミカヅキのシン』が決めポーズを『グースマイク』に向ける。


 俺は今しかないと判断して、もう一度飛び込んだ。

 先程は俺の慢心のせいで『ミカヅキのシン』を倒しきれなかった。

 やはり、命を賭けてやらなければいけなかった。

 ひよって途中で自分だけ助かろうなど、慢心以外の何ものでもない。


「ゐーっ!〈【正拳頭突き(ラビロケット)】!〉」


「同じ手をくらうかっ!

 【沈黙(ヴィーザル)】!」


 俺の飛び出しに合わせて放たれたスキルは、スキルキャンセルのスキルだった。

 慣性の法則に従って、身体は前に出るが、スキルアシストが消えて、よろよろとしたタックルになってしまう。


「戦闘員のくせにっ!」


 俺は『ミカヅキのシン』に届くことなく、蹴りを食らって死んだ。


───死亡───


「肩パッドさんの死を無駄にしないマイク!」


 『グースマイク』が果敢に前に出た。

 それを見て他の『りばりば』戦闘員も弾かれたように突進していく。


「撃てっ!」


 『ムーンチャイルド』戦闘員のビーム連弩〈集束〉が『グースマイク』に迫る。


「イーッ!」


 『グースマイク』の盾になるべく『りばりば』戦闘員が一人、また一人と身体中を穴だらけにして死んでいく。


「ぬおおおおおおマイクっ!」


 技もスキルもない突進。だが、『グースマイク』のあまりの気迫に、『ミカヅキのシン』の反応が一瞬、遅れる。

 中身が見た目通りなら、『ミカヅキのシン』はまだ中学生くらいだろう。

 大人の雄叫びに、一瞬、気圧されるのも仕方がないことだと思う。

 『グースマイク』の突進は『ミカヅキのシン』の身体を屋上の端まで持っていく。


「く、く……くっ……そ……」


 相撲で言うなら土俵際というところで、『ミカヅキのシン』は耐えていた。

 『ムーンチャイルド』戦闘員はドローンを受け止められる位置に下げ始める。


 復活した俺は走った。

 『グースマイク』は最後の一押しができずにいた。

 『ミカヅキのシン』は落ちるギリギリで粘っている。

 俺は『ミカヅキのシン』の首にぶら下がるように屋上の外へ飛び出す勢いで腕を絡めた。


「あっ……」


 俺と『ミカヅキのシン』と『グースマイク』の三人が団子状態で落ちていく。


 『ムーンチャイルド』戦闘員が使う貨物輸送用ドローンは人間を載せても問題ないくらいの耐荷重があるが、一度に三人、それも勢いをつけた状態で落ちる三人を支えるほどではなかった。


 ドローンを転覆させる勢いでぶつかり、そこからさらに加速していく。


「きゃあああああああっ……」


 『グースマイク』は死ぬ気だった。

 俺も、もう二度と同じ過ちはするつもりはなかった。

 だから、二人とも『ミカヅキのシン』を離さなかった。

 『ミカヅキのシン』が、自身の身動きが取れず、ドローンも役に立たないことを知って、甲高い叫びを上げる。


 落ちて……。


 落ちて……。


 落ちて。


 三人は団子状態のまま、全身が粉々になって死んだ。


 結果、勝者のいない『作戦行動』が終わったのだった。



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