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───死亡───
ビーム連弩は集束させて撃つと、痛みが何度も襲って来て、普通より痛いことを知った。
貨物輸送用ドローンが次々に上がって来る。
「うでーっ!」
誰かの奇声に合わせて、ビーム連弩が一斉発射されて場がリセットされたかのように『りばりば』戦闘員が消えた。
「げいぜいぎゃくでんだ……」
『ミカヅキのシン』が立ち上がる。
まさに形勢逆転の瞬間だった。
「なぜマイク……」
「すぐ隣りが配達会社の社屋なのを調べなかったのが貴様らの落ち度だ!」
空に上がった『ムーンチャイルド』戦闘員が叫ぶ。
『グースマイク』のダミ声スキルはしょせん確率だ。
中には掛からなかった奴がいてもおかしくはない。
地の利は『ムーンチャイルド』側にもあったということだろう。
「ミガヅギノヅルギ!」
三日月形の剣を取り出した『ミカヅキのシン』がそれを構える。
俺たち『りばりば』戦闘員が復活と同時に『ミカヅキのシン』へと躍りかかる。
だが、空中に浮かぶ『ムーンチャイルド』戦闘員たちがそれを邪魔する。
マズイな。ヒーロー側の勝ちパターンにハマりつつある。
「【三日月斬り】!」
『ミカヅキのシン』が三日月の剣を振るうと、三日月形の光が飛び回る。
その動きは曲線でランダムに見える。
ある程度のダメージを出すまで止まることなく三日月光は動き、次々と『りばりば』戦闘員を切り裂いた。
「イーッ!」「イーッ!」「ぐはっマイク!」
どうやら一撃30点の固定ダメージらしく、戦闘員も怪人もダメージ量は変わらない。
一発、二発で倒れることはないが、切れ味がよほど良いらしく、部位破損に陥る場合もある。
「くっ……ショックアローで空を牽制するマイク!
【ダミ声】解除! 【声銃】!」
『グースマイク』がそれまで維持していた通話妨害を解除して、戦闘用のスキルを使い始める。
目に見えない音の弾丸だ。
『ミカヅキのシン』の肩口に当たって、それなりのダメージを出した。
「くそ、見えないのは厄介だな!
あ、しゃべれる! ぐはっ!」
「子供だからって容赦しないマイク!」
いかに『ミカヅキのシン』が速さ重視でも、見えない攻撃は避けられない。
『グースマイク』の【声銃】は体力消費系のスキルのようで、少しずつ疲れが見えてくるが、『ミカヅキのシン』を確実に捉えていた。
「くっ……それなら……【森の住処】!」
『ミカヅキのシン』が使ったのは周囲を森にするフィールド変更系スキルのようだ。
『グースマイク』の音の弾丸は木々に当たって届かなくなる。
「小癪な小僧マイク……」
そして、どうやら『ミカヅキのシン』はフィールドによって能力補正がかかるようだ。
森の木々を蹴って、縦横無尽に動き出す。
だが、森の木々は『ムーンチャイルド』戦闘員の侵入も拒んだ。
「ゐーっ!〈まだ詰めが甘いな! 直線で動くならやりようはある! 【正拳頭突き】〉」
木を蹴れば、その先の動きが見える。
俺は位置を合わせて飛んだ。
『ミカヅキのシン』の横合いから突っ込んで、当たると同時に抱え込むようにタックルを決める。
元々、通信塔の屋上は限定された空間だ。
俺たちの地の利が失われた以上、ここに固執する必要もない。
そして、俺と『ミカヅキのシン』は屋上から飛び出す。
通信塔は高い。その高さは実に八百メートルを超える。
さすがにヒーローと言えども、ひとたまりもない。
「くそ、はなせ!」
「ゐー……〈ああ、何も変わらないけどな……〉」
俺は言われるままに手を離し、それから【炎の翼】を開く。
「なっ……ずるいぞぉぉぉぉぉぉ……」
『ミカヅキのシン』は落ちていく。
俺の横を何台かのドローンが攻撃する間も惜しいと『ミカヅキのシン』を追っていく。
間に合うものか!
そう思いつつ、俺は屋上へと踵を返したのだった。
遅くなりましたm(_ _)m




