407〈声変わり? 風邪ひいた? ちょっと何言ってるかわかんないです大作戦!〉
怪人『グースマイク』が魔石をばら撒く。
その魔石からは黒い目出し帽に全身黒タイツ、ベルトのバックルに『RE』の文字が光る『りばりば』戦闘員たちが現れる。
手に手に棍棒や槍、弓といった装備部謹製の最新武器が握られている。
俺が持つのはダメージがプラス20されて、合計120ダメージがプラスされるようになった『ショックバトン改』。
状態異常も少しあがって、普通の戦闘員が使って0.1秒程度の『ショック状態』を与えていたものが0.15秒程度まで時間が伸びた。
今までの俺で、ヒーローに与える『ショック状態』が数秒程度だったのが、上手くいくと十秒超える可能性が出てきたのは大きい。
まあ、そうは言っても『ムーンチャイルド』のヒーロー『ミカヅキのシン』にどうにか当てて1点ダメージ、うまく『りばりば』名物リズム打ちが決まれば、怪人の大技までの時間稼ぎができる程度の話だ。
ただ、救いは場所だ。
通信塔はこの近辺で一番高い建物の屋上になる。
つまり、ヒーロー側戦闘員が狙撃に使える場所がないので、ヒーローのフォローをしたければ近接距離まで近付かなければならないのだ。
しかも、通信塔屋上に繋がる通路は二ヶ所しかない。
内階段と外梯子の二ヶ所だ。
「誰も中に入れさせるなマイク!」
『グースマイク』の指示で数人の戦闘員が内階段と外梯子をチェックする。
残りで一斉にヒーローを攻撃する。
「ごぢら、ミガヅギノジン、応援もどむ!」
『グースマイク』のスキル効果で声はガラガラ。
上手く逃げ回っているが、『ミカヅキのシン』の負けは確定的だ。
「やっちまうマイク!」
「「「イーッ!」」」
俺たちは勝ちを確信したのだった。
所詮、ヒーローと言えど、味方の援護がなければ数の暴力には弱い。
天の時、地の利、人の和、地と人を得ている俺たちに女神は微笑む。
「ゐーっ!〈そこだ、見切った!〉」
俺は『ショックバトン改』を振り回す。
「ぢぐじょう、まげるがっ!」
『ミカヅキのシン』は回避のためにジャンプをするが、俺の『ショックバトン改』はホームラン軌道の大振り。斜め上に出ている。
ちっ! と『ショックバトン改』が掠る。
ダメージは低下しても、どうせ1点だが、『ショック状態』は入る。
『ミカヅキのシン』は無様に転倒した。
こういう時に一撃入れるコツは、死を覚悟して飛び込むことだ。
死の恐怖を乗り越えてしまった俺に、怖いものはない。
それに一撃死は痛みも感じる暇がない分、救いがある。
だから、俺の攻撃は当たるのではなく、当てるのだ。
他の戦闘員が群がる。
「ぐお、やめ……」
「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」
黄色い『ショック状態』を表す『1』の文字が次々に上がる。
一発殴ったら交代、MPの残りを見て、回復か後ろに並ぶかを決める。
「ふっ……このリズムこそ、俺の情熱マイク!」
『グースマイク』は長く戦闘員経験を積んで来たらしい。
自分が目立つことなどそっちのけで、戦闘員の列に並ぶ。
怪人がリズム打ちはかなり異例だ。
普通は戦闘員に守られながら、スキルのウエイトタイム明けを待つのが基本だが、幸いにも、敵の戦闘員がいないので余裕がある。
「【感電コード】マイク!」
『121』の黄色文字がヒーローから飛び出す。
しかも、リズム打ちに乱れはない。
それは洗練された戦闘員の所作だった。
階段と梯子では先程から攻防が始まっている。
さて、どちらが早いだろうか?
高低差がある以上、上を取っている俺たちが完全に有利だぞ。
そろそろ俺の番だ。
リズムを聞きながら、俺は『ショックバトン改』を振り上げた。
瞬間、エネルギーの矢が俺の身体を貫いた。
「ゐー……〈あ……〉」
貨物輸送用の空中ドローンに乗った『ムーンチャイルド』戦闘員が、俺に向けてビーム連弩を放っていた。
全身に痛みを感じて、オーバーキルだな、と思いながら、俺は死んだ。




