406〈日常〉
俺たちは、ある意味で日常を取り戻していた。
もちろん『リアじゅー』での話だ。
現実での俺は、戸籍が抹消されているので、地下基地のヌシみたいな顔をした居候として、地下基地の掃除などを頑張っている。
会長からお小遣いを貰って生きる、ヒモ生活と言えばマシだろうか?
いや、より酷くなっている気がするな。
まあ、それは置いておいて『リアじゅー』の話だ。
つい最近まで、魔法文明側大手レギオンと科学文明側中小レギオンで戦争イベント、ラグナロクイベントが相次いであったため、プレイヤーはイベントを食傷気味だ。
必然的に『作戦行動』は小規模なものが多く、ある種、初期のゲームに近くなっている。
魔法文明はやられて当たり前、科学文明は勝って当たり前という世界だ。
気をつけるべきは、『ネオ』の乱入くらいのもので、それが緊張感を生む良い刺激にもなっている。
ただ、『シティエリア』に新・新新エリアができて、科学文明がパトロールする範囲が拡がりすぎて手が足りなくなると、新規プレイヤーが一気に科学文明側に流れてしまった。
これにより科学文明側に流れが来たのも今の状況を決定づけることになっていた。
俺は久しぶりの『りばりば』の『作戦行動』に参加した。
怪人『グースマイク』による『声変わり? 風邪ひいた? ちょっと何言ってるかわかんないです大作戦』だ。
『グースマイク』のスキル範囲内の声が全て、ガラガラのダミ声になってしまい、お互いの意思疎通を妨害して、イライラさせるという作戦だ。
ただ、この作戦は結果的に『ムーンチャイルド』にバレた。
「べんじんっ!」
有機溶剤のような掛け声〈ダミ声〉と共に変身したのは『ミカヅキのシン』というヒーローだった。
変身前は中学生くらいの男の子だった。
変身後はメタリックブルーに黄色のミカヅキ意匠の入った、流線形のヘルメットを付けた鎧姿で、いかにも素早さ重視といったヒーローだ。
「ゆるざないぞ、がいじんめっ!」
国粋主義な訳ではないだろうが、外人に怒っているのは分かる。
「は? 今、なんて言ったマイク?」
「だいじな、づうじんで、もんだいがおぎだら、どうずるづもりだ!」
「すいません、ちょっと何言ってるかわかんないマイク?」
怪人『グースマイク』は首を捻って聞き返す。
「ごのっ!」
『ミカヅキのシン』のパンチが『グースマイク』の顔面を捉える。
「痛いマイク……ぬぬぬ……こうなれば……」
『グースマイク』が魔石入りの袋を取り出す。
「よし、場所は通信塔屋上、敵戦闘員と直接揉み合いになる可能性が高い。
屋上から突き落としてでも、グースマイクを守るんだ!
俺たちの文明を守るためにっ!」
普段はレオナがやっている人員の取りまとめだが、今日はオオミがやっている。
少し珍しい。
なにか気合いを入れないといけない案件だったりするんだろうか?
幹部会の中でも、こういう華やかな役回りはレオナ、もしくは糸の仕事だが、オオミは普段、別の仕事をやっている。
たぶん、全『りばりば』戦闘員の中で一番の古参がロッカー番号003、オオミだ。
「行ってこい!」
「「「イーッ!〈ゐーっ!〉」」」
普段と違う、父親のような命令口調でオオミが俺たちを送り出した。
まあ、こういうのも悪くない。
俺たちは一斉にワープポータルに走り出すのだった。




