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「神格を得てしまった以上、俺はそうして生きるしかなくなった。

 しかし、お前を責めるつもりはない」


 アダムは新しい雑草茶を注いで、俺の湯呑みにも足してくる。

 お互いに同時に熱くて苦い茶を啜る。


 それからアダムは、どうしようもないという風に笑った。


「元は俺がお前から盗んだものだ。

 だが、これのおかげで俺たちはネオという新しい生命として始まった。

 こうなれば、神格の命ずるままに生きて、お前に返そう」


 ネオの恩返し、という訳だ。


「それに、りばりばに倒れられては、他の同胞が人になる道が絶たれてしまうしな……」


 別にそうでもないとは思う。

 もし、『りばりば』が『マギクラウン』との『ラグナロクイベント』で負けても、まだ『ネオ』には他のレギオンに頼るという選択肢がある。

 また他レギオンと関係を作るところからになるかもしれないが、『ネオ』の戦力を欲しがるところや、その意志に賛同を示すレギオンは必ずいると思う。

 だから、アダムの言葉は協力を約束するための方便に過ぎない。


 それが分かるだけに、俺は何も言えない。

 おそらく、アダムも今さら俺からの言葉など欲していないのが分かる。


 なにしろアダムは、まともな【言語】スキル以外のほとんどが俺を元にしている。

 今、俺が『終わりとはじまり』という『フェンリル』の神格を得て、感じていることと、同じことをアダムも感じているからだ。


 俺は雑草茶を飲み干して、「ゐー!」とご馳走様をしてから、その場を後にした。


 『りばりば』基地に戻ってログアウトした。


 静乃に、俺とアダムが神格を得たこと、アダムの協力を取りつけたことを説明する。


 静乃は静乃で、『りばりば』が『マギクラウン』との『ラグナロクイベント』に入れるように道筋をきっちり用意してくれていた。

 また、同時に『ネオ』も『ラグナロクイベント』に参加できるような道筋も立てていた。


 本来、『ラグナロクイベント』に参加できるのは敵対するふたつの『レギオン』と『野良戦闘員』のみだったが、新文明『ネオ』が生まれたことで、仕様変更されていることを確かめたらしい。

 これにより『ネオ』も『ラグナロクイベント』に参戦できることが確実になった。


 準備は着々と整っている。


 この二日後には、会長がBグループから奪ったヒーロースーツ用の素材の買付けと加工ができる会社への発注を済ませて、どぶマウスは外国スパイに都合の良い情報を掴ませて、Bグループの各施設への攻撃を誘発した。


 何故、どぶマウスにそんなことができるのかというのは、ここに来てようやく判明した。

 外務省の特別調査課というスパイ組織がある。

 公には存在していない部署だ。

 彼女はそこの一員だった。

 助けた人たちを外国に逃がすだとか、外国のスパイに都合の良い情報を流すだとか、そういうことが得意な訳だ。


 聞いたら教えてくれた。


「信頼できる仲間には隠し事を無しにしておきたかったでっす!」


 というのが、彼女の弁だ。


 たぶん、どぶマウスも今度の作戦が命懸けになるという予感があるのかもしれない。


 そうして準備を進める中、俺たちは集まって会議を開いていた。


「さて、みんな理解していると思うけど、今度の作戦は、今まで以上に危険な作戦になります。

 たぶん、グレイキャンパス最後の作戦で、幾ら超能力があっても、命懸けの作戦……っていうのは、今まで何度も話し合いしたから、これ以上言いません!」


 そう、俺たちは慎重に慎重を重ねて、何度も議論の場を持った。

 おそらくBグループの超能力者との対決。

 命の奪い合いになる。

 生半可な気持ちで参加できる領域はとっくに超えてしまった。


 相手が持たない超能力で翻弄できた今までの作戦とは内容も心持ちも違うのだ。

 それでも、超能力を持たないおじいちゃん先生と後方を固めるというか、この作戦で死んだ場合に後を任せられる会長以外の全員が参加を決めた。

 なにしろ、未来が関わっている。


 だから、そういう話し合いの場ではないのだとSIZUが言った。


「今日は作戦名を決めます!

 なにか、カッチョよくて、燃える感じの作戦名を考えてください!」


 全員がその拍子抜け具合にずっこけた。


「ちょっとSIZU、わざわざ子供を預けて来てるんだけど……」


 主婦のまりもっこりが不満そうに言う。


「ボクも大学の授業休んでマスよー」


 エセ外人のアパパルパパも言う。

 だが、SIZUはそれに「しゃーらっぷ!」と大声で封殺した。


「作戦名は大事です!

 かっこいい名前ならやる気も出るし、なによりダサい作戦だと命を賭ける気になりません!」


「ラグナロク作戦ではいかんかね?」


 おじいちゃん先生が言うものの、SIZUは首を縦に振らない。

 そこで太ったイケメン響也が手を挙げる。


「俺たちは浮遊都市エデンに攻め込むんだ。

 失楽園(エデンズ・フォール)作戦というのは?」


「エデンのA.I.も運営だと思うと、それは微妙……」


 半ニート女子高生、山田が反論した。


「む、そうか……」


 響也はすぐに手を下げる。


「そうだな……明けの明星作戦オペレーション・ルシファーはどうだ?

 黄昏が来たら、夜が来る、しかし、いつか夜は明ける。

 その最初の知らせを持って来る星だ」


 俺は噛んで含めるように説明した。


「厨二くさっ!」


 まさかの会長からダメ出しが出た。


「二正面、撃破作戦が端的でいいでっす!」


 どぶマウスからも案が出る。


「ルーキス・オルトゥス……ラテン語で夜明けって意味よ」


 まりもっこりが難しいことを言い出した。


「それならば、意味は同じだが、あかつき作戦を推そう」


 響也がまた手を挙げる。


 喧々諤々。俺たちは白熱した議論を繰り広げた。

 何故がこういうのは考え始めるとキリがない。

 三時間ほど、喉がカラカラになるまで叫んだ結果。

 作戦名は『オペレーション・ラグナロク』に決まった。


 なんだろうな……不毛な会話ではあったが、それぞれが作戦名に込めた想いを聞くと、全員が未来を望んでいることが分かる。

 不毛だが、無駄じゃなかった。

 こうして、俺たちは最後の作戦に向けて動き出していた。



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