403
静乃が虹色の髪飾りを持ってくる。
髪飾りの一部が取り外せて、情報端末になっていた。
「これね、墓さんがプログラミングした最凶のハッカーツールだって。
A.I.が勝手にハッキングしてくれる、私でも使える簡単プログラムなんだよ。
さすがに少し泣いたよ……」
「ふ……はははっ!
墓くんらしいね。ただ、その大きさにA.I.はさすがに無理がある気がするけど?」
会長が笑った。
「つまり、専用の通信端末ということでっす!
本体はおそらく、墓くんの家か、それなりの場所に置いてあると思うでっす!」
どぶマウスが虹色の髪飾りを手に説明する。
「まずはフリズスキャールヴの場所を探さないとね」
「つまり、五杯くんのワークステーションだな。
大学の研究室か軍施設内に移した可能性もあるが、自宅はないと思う。
家でまで仕事はしたくないタイプだからな」
おじいちゃん先生が口を開いた。
やはり、今のおじいちゃん先生の後輩、五杯博士には思うことがあるのだろう。
「大丈夫。コレなら痕跡を消しながら、どこでも入れる。
今まで入れなかった軍施設のコンピュータもスタンドアロンでない限りはね!」
静乃がまるで我がことのように胸を張った。
「オーゥ! ファンタスティックですねー!」
アパパルパパが手を叩く。
さっそく自分がと請け負ったアパパルパパが地下基地のコンピュータから、あちこちの施設へのハッキングを始める。
これは結果としては空振りに終わったが、逆に収穫もあった。
Bグループの派生研究として、ヒーロースーツ〈超耐久度を誇る新型の鎧だが、実際には『リアじゅー』のヒーローの鎧を現実レベルで再現したもの〉の研究資料や外国人スパイの内偵資料などが見つかった。
やはり、フリズスキャールヴはスタンドアロンなのかもしれない。
「さて、ひとつめの予言は、あとはアースガルズを見つけるだけとして、ふたつめの予言ね」
SIZUが中心になって、話は進んでいく。
「改めて確認すると
『終わりの巨狼、あるべき姿、理を得よ
神々の黄昏は始まる、ガイアの上、隻眼の城、ミズガルズの時、エデンの園
神々の宴は時と場所を選ばぬ故に、終わりもまた共にあるべし』
ということなんだけど、終わりの巨狼はグレちゃんのフェンリルに対応するとして、最初に気になるのは、理よね。
リアじゅーの設定からすると、理は、神を神たらしめるモノ。
そのユニークガチャ魂の性格だったり、本質を表現するものが多いわ。
グレちゃんはどう思う?」
「それなんだよな……例えば、お前のヘルはなんだと考えているとかあるか?」
「ん〜、死の女王、かな?」
ああ、そういうパターンもありそうな気はする。では、俺の見た夢は意味のない本当にただの夢だったのだろうか。
「ああ、例えばだな……『終わりの終わり』と聞いて何か思うことは……」
俺がそこまで言いかけた時、静乃は驚きに目を丸くして、それから涙を零す。
「あ、あれ? なんで涙が……」
この場の全員がSIZUの涙に驚く。
「なんで……グレちゃん……」
「夢を見た……たぶん、ガチャ魂が見せた夢……その中でヘルは『終わりの終わり』と自分を呼んでいた。
それからヨルムンガンドが『終わりのはじまり』だった。
でも、俺は……フェンリルは理に繋がりそうな言葉が見えない。
それが分からないんだ……」
「ふむ……SIZUの涙はしばらく収まりそうにないね。
ここからはこの会長がまとめようか。
一行目はひとまず置くとして、二行目を考えよう。
文言は、『神々の黄昏は始まる、ガイアの上、隻眼の城、ミズガルズの時、エデンの園』だね。
神々の黄昏は、『リアじゅー』ならラグナロクイベント、現実に即して考えるなら最終戦争といった意味合いかな。
ただ、そこから先がなんとも理解に苦しむね。
ガイアの上、隻眼の城……ガイアはギリシア神話だ。
さらに言うなら、ミズガルズは北欧神話でエデンの園は聖書だ。
これについて思うことは誰かあるかにゃ?」
「何がどれかは分からないけれど、ガイアとエデンは浮遊都市じゃないの?」
まりもっこりが首を捻る。
「言われてみれば、その通りだな。
出典にこだわるよりも、その方が理解できるな……」
響也も頷く。
「つまり、浮遊都市ガイアの上の隻眼の城と人間の住む地の時の浮遊都市エデンってことかにゃ〜?」
たしかにそう考えると見えてくるものがある。
「なあ、これって『リアじゅー』の旧シティエリアのオーディンの城、つまり、マギクラウンの本部のことじゃないか?
そう考えるなら、ミズガルズの時は対比で、『リアじゅー』ではなく現代を指しているとか?」
「オーウ! エデンの研究ブロックにBグループの軍施設が入る予定みたいデース!」
軍施設にハッキングしまくっているアパパルパパが叫んだ。
「パズルのピースがハマるみたいでっす!」
「つまり、ふたつの場所、マギクラウン本部と新しい軍施設の研究所を指している?」
会長が首を捻る。
「そうなると、最後の三行目、神々の宴は時と場所を選ばぬ故に、終わりもまた共にあるべしってのは?」
まりもっこりは既に三行目に取り組んでいた。
全員で首を捻る。どうもピンと来ない。
俺たちが話している間に顔を洗いに行っていたSIZUが、多少なりとも、さっぱりした顔で戻ってくる。
「……みんな、ごめんね。ようやく気持ちが落ち着いてきた。何か分かったことある?」
聞くSIZUに会長がここまでの経緯を話す。
「うん。たぶん、だけど……いわゆる、同時撃破が必要なんじゃないかな?」
「おいおい、そんなゲームじゃあるまいし……」
俺が言うと、SIZUはニンマリ笑った。
「リアじゅーはゲームだよ」
おっと、そうだった。
「リアじゅーと現代は鏡映しのように連動しているでしょ。
Bグループとマギクラウン。このふたつを同時に潰さないと、私たちの闘争は終わらない。
そして、必要なピースはもうひとつ。
『終わり』の理……」
「どちらも今の五杯くんの居場所ということか……」
おじいちゃん先生が悲しそうに呟いた。
「SIZU、『終わり』の理とはどういう意味でっすか?」
「うん。私と『りばりば』のシシャモくん。それからグレちゃん。もしかすると『ネオ』のアダムか、他に『終わり』の理を持つプレイヤーが必要かもだけど……『終わり』は共にあるべし、最初の一行目は、終わりの巨狼が理に目覚める必要を指しているから、もしかしたらグレちゃんだけ……ううん……それなら終わりの巨狼は片方にしか存在できない……たぶん、アダムが生まれた意味はコレなのかも……」
みんなに説明しようとして、途中からSIZUは一人で考え込んでしまう。
かと思うと、いきなり顔を上げて、SIZUは俺を見た。
「ねぇ、グレちゃん。『りばりば』でアダムを動かすことは可能?」
やはり、少ないヒントでSIZUは『りばりば』の動きを把握してしまっているようだ。
「ああ、たぶんな」
「うん? なぜ『ネオ』が『りばりば』の頼みで動く?」
おじいちゃん先生が疑問を呈する。
おじいちゃん先生は基本が『リアじゅー』内ではエンジョイ勢だからな。
この辺りの動きは、おじいちゃん先生が所属する青部隊には知らされていない情報でもある。
そこでSIZUが説明をはじめる。
「今、『りばりば』は『ネオ』と密約を交わして、共闘状態にあるんです。
つい最近の戦争イベントでも、『りばりば』と戦った体制側レギオンのヒーローだけが『ネオ』に狙われて、『りばりば』はそのおかげで楽に勝ちを拾ってますよね?」
「おお、それは……。
なに、じゃあ、あれは偶然ではなく……」
「ああ、『ネオ』の大願、人間化への協力の対価として、『ネオ』は『りばりば』を襲わない。
基本的に『りばりば』内でも秘密の動きだから、SIZUにもほとんど説明はしなかったんだけどな……」
俺は補足する。
「なるほど、幹部会と一部メンバーが新しいイベントを用意していると噂になっていたが、それを隠すための隠れ蓑だったか……うーむ……ロミオになんと説明したものか……レギオン発のイベントを楽しみにしとったのに……」
「そんな噂になってたのかよ!
ああ……そうだな……レオナに何かないか相談しておくよ……」
「うむ、頼むぞ、グレン。
頼んだからな!」
「お、おう……」
圧強めに言われてしまった。
「とにかく、グレちゃんはアダムと一緒に理を考えるのがいいかも。
終わりの巨狼がふたりいれば、予言の内容を満たせるかもだしね」
なるほど、アダムと考えるか……それは盲点だったかもしれない。
「上手く行けば、Bグループとマギクラウン、ふたつの動きを止められるかもしれないしね!」
『終わりの巨狼、あるべき姿、理を得よ
神々の黄昏は始まる、ガイアの上、隻眼の城、ミズガルズの時、エデンの園
神々の宴は時と場所を選ばぬ故に、終わりもまた共にあるべし』
未だ分からない謎は残っているものの、神々の黄昏のはじまりはもうすぐそこまで迫っているようだった。
遅くなりましたm(_ _)m




