39〈はじめての戦争イベント〉
本日も二話更新!
こちらは二話目です。
光が奴を包む。
収まればそこには『マギミスリル』によく似たシルエットのヒーローが立っていた。
「赤き血潮、大地流る。地球に秘めし、黄金の脈動! 想いこそが力! 願いこそが叡智!
マギハルコン、降臨! 」
「マ、マ、マ、マギハルコンですー……。
くふ、くふふ……まさか、会えるとは……。
ブラクロの怨嗟、ここで晴らしてやるですよー! 」
サクヤがそう言ってキレた。
残っていた敵戦闘員を始末した煮込みが、頭を抱えた。
「まさか、『ブラクロ』陥落の立役者、『マギハルコン』がいるとは思わなかったシザ…… 」
「ゐーっ? 〈サクヤと因縁アリなのか? 〉」
「ふん、ブラッククロニクルの残党か……。
いいだろう。ここで分からせてやる! 」
『マギハルコン』は戦闘とは関係なさそうな、ただカッコイイポーズを取った。
「ゐーっ…… 〈それもお約束ってやつなのかね…… 〉」
俺は悪いが、きっちり構えさせてもらう。
『マギハルコン』は待ちの態勢、俺たちは動けずにいた。
この場合ってどうなるんだ?
サクヤが俺の横に来て、小さく呟く。
「すいませんが、私はここまでですー。
私が動いたら、まずは逃げて、味方と合流を目指してくださいですー」
俺が何か言う前にサクヤは動いた。
「チェストー! 」
それは自殺行為だ。なんの策もなく、ガムシャラに突っ込んでいく。
「ハッ! 」
『マギハルコン』の手刀が、サクヤの心臓を貫いた。
『リアル』設定は視覚的にグロい。
赤いモノが『マギハルコン』の指先から、ポタポタと垂れる。
「すぐ戻るですよ…… 」
凄惨な笑みを残して、サクヤは死亡した。
「グレン、ムック、逃げるシザっ!
数を揃えなきゃ、ヒーローは止められないシザ。
無駄死には意味ないシザっ! 」
そう言いながらも煮込みは俺の前に出た。
「ゐーっ! 〈いや、煮込み一人残っても無駄だろうが! 〉」
「いや、そんなことないシザ……。
なんで語尾にコア語がついてると思うシザ? 」
「ふん。怪人側戦闘員でコアを持って来るとは、こういう展開も予想済みか? 」
『マギハルコン』がポーズを外して、顎を撫でた。
「まあ、可能性は考えてたシザ……。
ウチらを舐めてるヒーローたちなら、アイテム整理もろくにしない奴がいるかもしれないと、シザっ! 」
煮込みの手には『コア・ハサミ』が握られていた。
「変身、シザマンティス、シザっ! 」
煮込みの手に『コア・ハサミ』が吸い込まれるようにして、煮込みは変身した。
───レイド戦を開始します───
───『リヴァース・リバース』と『マギスター』間でレイド戦が同時多発しました。───
───これより2レギオンを戦争状態とします───
「シザ、シザっ! 味方が来るまで、持ち堪えてみせるシザっ! 」
俺は、ハッとする。
そうか、サクヤはおそらく味方を呼びに行ったのだ。
リスポーンしなければ、そのまま『大部屋』に行くはず。
そのまま、復活石を持ってシティエリアまで来れば、援軍を連れて来られる!
おそらくそういうことだろう。
「ゐーっ! 〈時間を稼げばいいんだな〉」
「グレン程度じゃ、犬死にするのがオチシザっ! 」
煮込みに怒られるが、俺がその程度に怯む訳もない。
ただ、気になるのは戦争状態というアナウンスか。
気にはなるが、今すぐどうこうなる話でもないだろうと頭から追いやる。
今は時間稼ぎをすることだ。
「イーッ! 」
最初に動いたのはムックだった。
ムックの『ショックバトン』を『マギハルコン』が見切って躱す。無駄のない動きだ。
だが、ムックは途中で『ショックバトン』を捨てて、裏拳を放つ。
その裏拳が光を放っているのは、何かのスキルだろう。
虚をつかれた『マギハルコン』はムックの裏拳を食らう。
ダメージはやはり1点だが、状態異常が起こった。
「ちっ! 確定時間の『鈍重』か、考えたな! 」
『マギハルコン』の動きが少しだけ鈍くなる。
「十秒間、付き合ってもらうよ! 」
「ふんっ! 」
『マギハルコン』のキックが一撃でムックの命を奪った。
わざわざ『ショックバトン』を捨ててまで使ったスキルだ。
おそらく、実際には刹那の差かもしれないが、『マギハルコン』自身、微妙に動きにくそうにしている。
十秒間か。そういうスキルならアリだな。
それならば俺もウザいと思って貰おう。
「ゐーっ! 〈【夜の帳】〉」
打ち消せない闇の靄と遊んで貰おう。
「遅いな…… 」
『マギハルコン』が闇の靄を手刀で斬る。
だが、斬れない。
「何っ!? 」
『マギハルコン』が慌てて回避運動に入る。
「今シザっ! 【両断鋏! 】」
『鈍重』と闇の靄に追われている状態で、『シザマンティス』の飛ぶ斬撃が二発、飛ぶ。
『マギハルコン』は俺の【夜の帳】を受けることにしたようだ。
代わりに斬撃の一発を避ける。
一発、250点ギリギリくらいか。
ついでに『暗闇』も入ったな。
「……!? 」
「追撃行くシザっ! 」
『シザマンティス』の両手のハサミが、一発、二発と命中する度、50前後のダメージが蓄積していく、
三発目が命中した段階で、俺の『闇の帳』が外れる。
体感だと二秒半くらいか。
悪くない。
「くっ……いい気になるなっ! 」
『マギハルコン』の手が『シザマンティス 』のハサミを抑え、反対の手でパンチを打つ。
「ぐはっ、シザっ! 」
一度掴まれてしまうと、膂力の差か、離れられずに連続パンチを食らう。
俺は背後に回って『ショックバトン』を振るうが、背面蹴り一発で屋上看板に衝突した。
───死亡───
復活と同時に駆け出す。
階段を上がり、『マギハルコン』が見えたと同時にまずはウザい【夜の帳】。
まだムックが残っていた。
入れ替わりで死にまくると、連携を取るどころじゃなくなると思っていたが、残っているならありがたい。
それからひとつ分かったことがある。
一撃死は意外と平気だ。痛みやら死の恐怖を感じる間がないので、『リアル』でも辛くない。
だが、ここからは痛みを覚悟しなければならないだろう。
「ゐーっ! 〈【血涙弾】! 〉」
俺の命が、目から噴出する。
『マギハルコン』に俺の目から出た血が、バシャバシャと掛かる。
「うげっ! 気持ち悪っ! 」
俺は、貧血状態になって、フラフラだ。
『マギハルコン』は頻りに目を擦っている。
「くそっ! また視覚封じか! 」
さらに黒い靄が『マギハルコン』の目を覆う。
「じゃあ、こっちも、そらっ! 」
近づいたムックの『鈍重』パンチ。
代償が重いスキルやアーツでも、戦闘員は死ねばリセット。
これは怪人側戦闘員の利点だ。
───『ヴィーナス・シップ』がレイド戦に参戦しました───
は!? 他のヒーローが参戦? マジか!?




