397〈side︰グレン〉
最初の五人。ネオ人たちが人間世界で生きるためのテストケースは、ネオ人たちを『スラム街』へと導いて、ひと段落した。
付きっきりで手を貸すのはここまでだ。
経過観察は必要だろうが、アダムとの約束は果たした。
また、アダムたちも約束を果たした。
戦争イベントに介入してのヒーローの間引きである。
『ネオ』が『作戦行動』に介入して、ヒーローや怪人を攫うのは、最近ではよくあることだ。
ただ、俺たち『りばりば』の『作戦行動』の時は、たまたまヒーローが攫われる率が異常に高いということだ。
特に戦争イベントでは、ヒーローも怪人も複数人が出動していることが多い。
本来なら、ギリギリで均衡を保っている時などに『ネオ』の介入が行われると、どちらが襲われるかで一気に均衡が崩れるというのはよくある話だ。
おかげで『りばりば』は戦争イベントに勝利した。
敵レギオンは解散したくなかったのか、降参を選んだ。
まあ、散々、運悪く『ネオ』の標的にされ続けて負けたとなれば、本来ならば『ラグナロクイベント』まで進んでもおかしくなかった。
敵レギオンが、『ネオ』の妨害がなければ俺たちに勝てると考えてもおかしくなかったのだ。
ただ、ケチがつきすぎて、やる気が消えた可能性もある。
だが、『りばりば』からすれば、最上の結果だ。
ウチに敵わないと苦手意識を持つ集団が、賠償金の支払いをしながらヒーロー側に残るのだ。
ウチの『作戦行動』を見つけても、おいそれと手は出せないだろうし、同じ科学文明のレギオンに長くウチの強さを広めてくれるだろう。
『りばりば』では『ネオ』の次の五人を受け入れることを決めた。
一度目の記録から、学習システムのノウハウを元にハウトゥーが作れるし、今後を考えれば『ネオ』との共闘は悪くない。
現状ではまだ、大っぴらにはできないが、今回のことで『りばりば』内では『ネオ』に好意的とは言わないまでも、その存在を受け入れる下地ができている。
プレイヤー感情を和らげつつ、『ネオ』との共存まで繋げられれば、『りばりば』は多大な影響力を持つことになりそうだ。
このまま魔法文明側の大願『魔法文明復興』に弾みがつきそうだ。
SIZUに戦争イベント勝利のレポートを送る。
今、続々と魔法文明レギオンの勝利の声がSIZUの元に集まっているはずである。
これで『ガイア帝国』崩壊の影響を抑えられればいいが、どうだろうか。
───グレちゃん、おめでとう!
今のところ順調に現実への影響は抑えられそうだよ。このまま大番狂わせが起きなければ、大きな変化はないはず。明日の朝は世界的なニュースじゃなくて、芸能人の結婚話とか、季節の時事ネタニュースが観られそうだね───
───お前、芸能人の結婚とか興味あったか?───
───ないよ! ないからそういうニュースがいいんじゃん───
なるほど。そういう考え方もあるか。
───ようやく少し平和になるかもな───
───うん。次は反体制側の小さな勝利を積み重ねて、平和的に魔法文明を浸透させたいね───
ああ、確かに。元々は静乃も反体制側、『魔法文明』の勝利のため動いているんだったな。
本来ならば『科学文明』と『魔法文明』が程よくミックスされた『魔法科学文明』と言うべき世界がこの地球のあるべき姿のはずだ。
まあ、それがどういう世界なのかは、具体的に想像がつかないが、どちらかが突出している未来はディストピアにしかならない。
どうせなら、未来は明るい方がいい。
そう考えながら、俺は眠りにつくのだった。
まさか、『マギクラウン』が胎動していただけなどと、考えもしていなかった。




