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時折、爆発音やレーザー照射の音がする中、俺たちは静かに走る。
『マギスター』戦闘員の攻撃は散発的で、前に比べれば、かなり圧力は減じているように思う。
大型スーパーが見えてきた。
屋上駐車場にチラホラと人影が見える。
よし! 攻撃前に間に合った!
俺たちは顔を見合わせて、急ぐ。
大型スーパーの外にある屋上に向かう車道。
駆け上がる途中で、ライフルの発射音が響き始める。
「イーッ! 〈急ぎますよー! 〉」
サクヤがなりふり構わずに走り出す。
つられるように、俺たちも全力で走り出す。
と、屋上から一台の車が降りて来る。
「ゐーっ! 〈サクヤっ! 〉」
一瞬、俺の脳裏には、トラックに轢かれて包帯だらけの従妹の姿がサクヤと重なった。
ドンッ! キキッ!
俺は空を飛んでいた。『マギアタック』の運転席にいた戦闘員が、思いの外に驚いていた。
サクヤはギリギリ、壁にぶつかって難を逃れていた。
煮込みとムックがすごい表情で俺を見ていた。
まさに交通事故。
まさか、あんな猛スピードで駐車場を車が降りてくるとは思わないよな、普通。
あ、ポキポキポッキー、お前か! この野郎……!
俺の怒りは束の間、坂道の壁を越えて駐車場の床が見えてくる。
や、ヤバ……。
───死亡───
俺は、ハッとする。
心臓が早鐘を打つと言うが、まさにソレだ。
目の前でカウントダウンが進むも、一瞬、意味が分からなかった。
痛……くはない。自覚する前に意識がシャットダウンされたのだろう。
……5
……4
……3
俺は慌ててYESを思念で選ぶ。
煮込みの手にある復活石から、俺が再構築される。
心臓は痛いくらいに、ドッ、ドッ、と鳴っていた。
「敵襲ーーーっ!! 」
クラクションが鳴らされる。
───全属性耐性発動───
誰よりも早くそれに反応したのは、俺だ。
「ゐーっ! 〈ポキポキにしてやんよー! 〉」
俺は飛び込んだ。
ポキポキポッキーが慌てて座席に戻ってドアを閉じようとする。
ドンッ!
寸前で俺の『ショックバトン』が扉と車体の間、伸ばされた腕に当たる。
すかさずボタンを押して、電撃を走らせる。
「あばばばば…… 」
黄色い文字で「112」ダメージが出る。
力はポイントを振っていないので、初期の頃とほぼ変わらないダメージだ。
しかし、ポキポキポッキーは死んでいなかった。
「ちくしょ…… 」
『マギアタック』のタイヤが空転したかと思うと、突如、地面を噛んで走り出す。
そのまま、『マギアタック』は民家に突っ込んで爆発を起こした。
危ねぇ……巻き込まれたら、また死亡するところだった。
靴音が響く。
煮込みは咄嗟に復活石を物陰に投げ捨てた。
キュンキュン、キュンキュン……。
俺、煮込み、ムック、サクヤ、四人は仲良く蜂の巣になった。
───死亡───
俺たちは大型スーパー入口付近で復活する。
煮込みは復活石を持つと、スーパー店内に走った。
なるほど、上手い!
敵がリスキルを狙うなら、店内に踏み込まなければならない。そうなると、当然『マギミスリル』の援護はできなくなる。
ならば、俺たちは陽動だ。
屋上駐車場に向かう坂道を反復横跳びしながら走る。
「性懲りも無く! 」
敵戦闘員のライフルが地面を穿つ。
「イーッ! 」
サクヤのスキル攻撃『王水弾』が放たれる。
「ちぃっ! また来てるぞ! 」
敵戦闘員はそれを避けながら仲間に警告。
ムックは一瞬で坂道を登りきって、敵戦闘員に体当たりを仕掛けた。
「イーッ! 〈今の内に! 〉」
俺とサクヤも急いで上がる。
八人だ。敵戦闘員は八人居る。
乱戦。
この状態ならライフルはただの鈍器だった。
対する俺たちが持つ『ショックバトン』は対ヒーロー装備。
ダメージが違う。
「なんで戦闘員同士なんだよっ! 」「イーッ! 」
敵戦闘員が粒子になって消えていく。
「ふざけんな! 」
一人の敵戦闘員がライフルを投げ出して、手にしたのは短銃だ。
パンッ! パンッ! と乾いた音がして、俺は、どうと倒れた。
身体が熱い。力が入らない。
「ぬああああっ! 」
ライフルの銃床で頭を殴られ、俺は事切れた。
───死亡───
痛いような気がする。死亡メッセージが出ているから、痛みはもうないはずだが、『リアル』でやっているからだろうか、少しずつ痛みの残滓のようなものが溜まっている気がする。
錯覚かもしれない。
俺が復活すると、そこはエレベーター前だ。
横には階段も設置されている。
煮込みめ、勝負に出やがった。
バレたらリスキル放題だが、一回なら奇襲に使える。
お、エレベーターが登っているってことは、煮込みだな。
俺は階段で行くか。
階段を登り切ると屋上出口から敵戦闘員が見える。
「イーッシザ! イーッシザ! 」
敵戦闘員が残り三、こちらは煮込みと今、到着した俺の二。
ムックとサクヤはリスポーン中か。
「ゐーっ! 」
俺は声を張り上げて、敵の注意を惹きながら突撃する。
「くそっ! 本部! 本部! 使用許可を! 」
敵戦闘員の一人が叫ぶ。
少し動きがいいのは高レベルプレイヤーっぽいな。
何の使用許可だか知らないが、そんな隙を晒してやる義理はない。
「ゐーっ! 〈往生せいやーっ! 〉」
俺は『ショックバトン』を振りかぶる。
「このままじゃ負けるぞ! いいのか! 」
俺の『ショックバトン』が高レベルプレイヤーのミラーシェードに掠って、それを飛ばした。
奴に睨まれる。
猛禽類を思わせる攻撃的な目付きが特徴で、アバター年齢は俺と同じ四十代ってとこか。
奴と俺の睨み合いになる。
何やら自信のようなものが奴を覆っていて、迂闊に手が出せない。
「お前ら特撮もんのお約束も理解しとらんようじゃのぅ…… 」
「ゐーっ! 〈お約束? そんな老害みたいなこと言ってんのかよ! 〉」
通じてないんだろうが、奴のプレッシャーに負けないように、こちらも声を張る。
「お前らがそう来るんなら、いいじゃろう……。
戦争、じゃー!! 」
叫ぶ奴の手には、いつの間にか短仗が握られていた。
「マギワンド、タクティカル、フラッシュ…… 」
静かに奴が呟いたのは、俺たちへの警句だった。
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