389
俺は尾上さんに、ここまでの状況のほぼ全てを話した。
尾上さんは話を聞きながら青ざめたり落ち込んだり忙しそうだった。
また、同じことを繰り返しているな、と俺は思う。
それでも、俺は尾上さんに話をした。
こうして俺の知る真実を告げることは、尾上さんを苦しめることになるのだろう。
それは尾上さんの信じた組織の腐敗を告げるもので、信じた世界の全てを打ち壊すものだからだ。
Aグループの目的は第一に抑止力にあるのだと言った。
生活の向上や、人の新たなパートナーとしての『遺伝子組み換え人間』はあくまでも二義的なものだ。
だが、それが生まれたことは、尾上さんにとって有意義なこととして記憶されている。
しかし、尾上さんから見た『ガレキ場』は戦争の痕跡を色濃く残していたらしい。
つまり、抑止力としての『遺伝子組み換え人間』に意味はなかったということだ。
最後に「情報士官でありながら、ここまで知らないことだらけだと思うと自分を恥じるばかりです……」と沈んでいたが、「神馬さんたちのやり方を全面的に肯定はできません。やはり、正しいやり方はあると思うので……ですが、自分には神馬さんたちを止める資格がない。何も知らない者に正しいやり方を説かれても、聞いてもらえるとは思わない。だから、いつか……いつか分かって貰えるように、やりますよ! 待っていて下さい。神馬さん」
そう言って帰っていった。
それから数日後、『リアじゅー』世界に激震が走った。
『ガイア帝国』の崩壊である。
質、量共に勝る『ガイア帝国』だったが、『マギクラウン』の尽きることなく繰り出される核と連携力が『ガイア帝国』を打ち破ってしまった。
まるでそれに呼応するかのように、即日、各魔法文明レギオンはあちこちが戦争状態に入った。
もちろん、SIZUの仕込みだ。
中小規模の科学文明レギオンと大規模魔法文明レギオンの戦争があちこちで勃発した。
この動きは、誰かが裏で糸を引いているはずだと、あちらこちらで噂されたが、それがSIZUの仕業だとはバレなかった。
やったことは簡単だ。
各魔法文明レギオンに詳細な敵レギオン情報を同時期に流しただけだ。
『ガイア帝国』が劣勢に陥った時、他の魔法文明レギオンは焦りを感じた。
『ガイア帝国』は魔法文明レギオンの中でもレギオンレベル一位を誇る。
人数も『りばりば』に次いで二位だ。
その『ガイア帝国』が負けることは、魔法文明の各レギオンに『マギクラウン』に今のままでは勝てないと思わせるには充分な出来事だ。
弱いところを食らってでも、力をつける必要性があるのだと、生存戦略を考えねばならないのだと考えるのは、全ての魔法文明レギオンに火をつけた。
もちろん、『りばりば』も同じだ。
様式美も主役としての働きも無視して、怪人たちを大量投入することで、ヒーロー打倒のポイントを稼ぎに行く。
狙われた科学文明レギオンもそれでは話にならないので、ヒーローを大量投入する。
その結果が、各地で起きた戦争状態の群発だった。
解散した『ガイア帝国』の戦闘員たちは、各レギオンに吸収されるように散っていく。
そうして、少しずつ規模を増やしたレギオンが戦争に勝利するたびに、ラグナロクイベントへと飛び込んでいく。
こうして、刻一刻と最後の時は迫っていくのだった。




