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387〈三行詩〉

遅くなりました。


 ばよえ〜んは普通だった。

 何も変わらなかったので、普通に旅館で温泉や食事を楽しんで、チェックアウト。

 考えてみたら、ここは『リアじゅー』の中なのだ。

 元から、ばよえ〜んをシステムに組み込むことはできなかったのかもしれない。

 ただ、『リアじゅー』だしな。

 絶対はないと思わないと。


 ばよえ〜んは機嫌が良さそうだ。

 なにか玉井から変なことを言われなかったか、と聞いても、特にないと言われてしまう。

 まあ、その分、ばよえ〜んから俺への質問もなく。


「良く分からないけど、秘密の地下探検、楽しかったです」


 そう言われたので、俺もなにも言わずに済んだ。


 俺は、ばよえ〜んと別れてから、普通にログアウトした。




 数日後、おじいちゃん先生の病院地下にある秘密基地に、ばよえ〜んの姿があった。


「……どういうことだよ?」


 ばよえ〜んにジュースを振舞っているおじいちゃん先生に聞く。


「うむ、白せんべいから聞いたそうだ」


「グレンさんには何も言わずに来るように言われてたです」


「やろう……」


 白せんべいめ、見透かしたようなことをしやがって……。


「グレンさんたちが、どんなことをしていたかも、全部聞いたです。

 だから、わたしも手伝いたいと思ったです!」


「ばよえ〜んさんは、慎重さと大胆さで知られる有名プレイヤーだしな。

 ここを訪ねるまでの工程も聞いたが、お前よりよっぽど慎重な動きだった。

 まあ、深入りはさせんが、関わってしまった以上、こちらで動きを管理できた方が守りやすいからな」


 ぐうの音も出ない。

 玉井と白せんべいの掌の上で踊っている気分だ。

 ゲーム内なら、最悪、身体に影響はないはずと高を括っていたのかもしれない。

 まさか現実の『グレイキャンパス』に、ばよえ〜んが来てしまうとは、想定外だった。


 まあ、SIZUを師匠として慕っているから、いざという時はSIZUに説得させよう。


『せいぎをはいするもの、らくめいのききにあり

 どくがんなるえいちのかみ、さくならんとす

 みやこのやくじ、あめのはし、ごせいでんのはじまりのち』


 は?


 いきなり、ばよえ〜んの口から呪文のようなものが飛び出す。


「もしや今のが、白せんべいくんの?」


 おじいちゃん先生が俺を見る。


「え? は? いや、分からねえけど、なんて言ってた?」


「えっと……正義をはいするもの、らくめいのききにあり、どくがんなるえいちの神、さくならんとす……都のやくじ、あめのはし、ごせいでんの始まりのち、です」


 ばよえ〜んが紙に書いてくれた。

 漢字が色々ありそうな部分はわざと平仮名にしたらしい。

 ばよえ〜んの口から呪文みたいに出てきた時は、抑揚がなく、そこからの類推は難しい。

 どうも、ばよえ〜んも意識していた訳ではなく、勝手に口が動いて言葉が出てきたらしい。


 白せんべいからの通信、ということだろう。


「なるほど、情報の圧縮か……つまり、暗号めいたコレを解いて欲しいということか……」


 おじいちゃん先生は理解したらしい。

 白せんべいから直接、話を聞いた俺にはさっぱりなんだが……。


「らくめいは落命、正義をはいするものに落命の危機が迫っているということか。

 そして、どくがんはやはり、独眼竜の独眼だろう。独眼なる叡智の神……」


「だとすると、オーディン……つまり、五杯博士だろ」


 五杯博士は『オーディン』のガチャ魂所持者だ。

 何度も殺された俺は断言する。


「素直に受け取るなら、

 正義をはいするもの、落命の危機にあり

 独眼なる叡智の神、さくならんとす

 都のやくじ、雨の橋、御正殿の始まりの地

 といったところか。

 一行目が『誰が』で、二行目は『誰に』、三行目は『どこで』といった感じだな。

 ……だとすれば、二行目は策が成ろうとしている、策成らんとす、だな。

 一行目の人物に危機が迫っていて、それは五杯くんの罠によるもの。

 三行目は……御正殿の始まりの地?」


「都といったら、東京、京都……やくじってなんだ?」


「私がぱっと思いつくのは薬事法の薬事だが、焼く寺、もしくは薬の寺かもしれん……」


 俺たちは頭を悩ます。


「御正殿ってなんです?」


「たしか神社で主神を祀る本殿じゃなかったか?

 ん? だとすると寺なのか神社なのか……」


「まあ、同時にお祭りしている地も多いから、両立はできると思うが……」


 その時、秘密基地の扉が開いた。


「ねえ、ばよえ〜んちゃんが来てるって?」


 開口一番、SIZUはそう言った。


「わ、先生なのです!」


 まあ、二人には旧交を温めてもらうとして、俺とおじいちゃん先生は、この難問に引き続き挑戦だ。


 分からないことは文明の利器に頼ればいい。

 そう思って、一番古い神社を検索してみるが、これは諸説あって断定が難しいということが分かった。


「分からねえ……白せんべいめ……あれほどバカに分かるように話せって言ったのに……」


「まあ、そう言うな。神馬なら解けると思ってのことかも知れない……」


 俺とおじいちゃん先生は悩み過ぎて、集中力切れだ。


「ねえ、あの二人は何してるの?」


「実は……」


 SIZUとばよえ〜んがコソコソ話す雑音に、うるせえなと思いながらも、なんとか集中力を取り戻そうと、暗号の紙を眺める。


「ふむふむ……こういうことじゃないかな?」


 SIZUが一枚の紙を持って来る。


『正義を拝する者、落命の危機にあり

 独眼なる叡智の神、策成らんとす

 都の薬事、天の端、五星伝の始まりの地』


 見て、ピンと来た。


「おい、これって……尾上さんが例の俺たちが最初に『スターレジェンズ』を見た製薬会社のビルで罠に嵌められようとしているってことじゃないか?」


「うん、グレちゃんに分かりやすくって考えると、そういう感じかな、って」


「くそ、分かりづれーよ!」


 正義を拝する者、正義を拝む人、拝み、尾上……ダジャレか?

 雨の橋じゃなく、天の端、天の端に届きそうな高い建物で、都の薬関係で俺が覚えているのは『スターレジェンズ』が襲った、Bグループのカモフラージュ施設、製薬会社のビルだ。

 五人の星の伝説、五星伝が『スターレジェンズ』。たしかに『スターレジェンズ』を初めて見た場所だ。


 俺は考える間もなく飛び出していた。



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