382〈光明〉
『スターレジェンズ』に集まっていたのは、『リアじゅー』経験者で超能力が発現した者のみだった。
つまり、『マギクラウン』からしたら『情動操作』さえ施せばすぐに使える即戦力という訳だ。
『情動操作』は施すまでの個人差が大きいようで、俺が受けた時は薬で朦朧状態にさせて記憶の原風景のようなものを語ることから始まったような気がする。
すぐに弾いてしまったので、俺には効かなかったが、何種類かの薬が用意されていたので、いくつかの段階を経て完成するものらしい。
幾らかの時間は残されているだろうが、それでも囚われた人たちにとっては時間が無いに等しい。
俺たちは必死に囚われた人たちの痕跡を探す。
白せんべいのようにネット内のどこにでも瞬時に入れる技術がある訳ではなく、時間を掛け、白せんべいの残した遺産を使ってどうにかというレベルだ。
過去に助け出した人たちが囚われていた場所や軍施設、白せんべいが残した資料にあった軍のカモフラージュ施設などを徹底的に洗い出していく。
だが、それらは全て空振りに終わってしまった。
失意に陥る俺たちに一筋の光が差し込んだのは『リアじゅー』の中だった。
進まない調査の中、『リアじゅー』は俺たちにとって、超能力の訓練であり、気晴らしになっている。
新しいフィールドにも何回か挑んでみたりしたが、最近はそれほど長い時間のログインをしていないので俺の攻略は進んでいない。
最近、新フィールドの素材を使った新作防具が出回るようになったので、使ってみるかと装備部へ向かった。
プレイヤーメイドは強力だが値段が高い。
だが、俺にとって、マジカで買える範囲のものは、既に安いという感覚になりつつある。
もちろん、無駄遣いは言語道断だが、俺の力で装備できて、防御力が高いものがあるのなら、使わないという選択肢はない。
「いらっしゃ……グ、グレンか」
「ゐーんぐっ!〈おじい……じゃなくて、じいじさん、今日は店番か〉」
おじいちゃん先生がじいじとして『りばりば』で活動しているのを知ったのは、意外と最近だったりする。
どこかで見たことあるような気がしていたが、実はラグナロクイベント時に絡んでいたらしい。
正直、あまり記憶には残っていなかった。
申し訳ない。
おじいちゃん先生は孫と遊ぶために『リアじゅー』をやっている。
しかも、現実での超能力は持っていない。
俺や静乃とは、根本的に遊ぶ時間や遊び方が違うため、あまり接点がない。
ただ、最近になってお孫さんが生産に興味を持ち始めたとかで、たまに装備部にいるそうだ。
まあ、そもそもの原因がおじいちゃん先生が『情動操作』の解除の研究をVRに持ち込んだのが原因だったらしいが、あまりその辺の話は詳しく話したことはなかった。
そして、今日はそんなたまたまが重なった日だったようだ。
「じいちゃん、見て見て!
これが緑になったら、お水と一緒なんだよね!」
「お、おお……ロミオ!
まさか、本当に……おい、グレンさ、ゴホンッ! グレン、見てみろ!」
「ゐーんぐっ?〈何か凄いことでもあったのか?〉」
「あのね、これが緑になるとお水と一緒で、どくそ? それが中和されて助かる人がいっぱいいるんだ!」
おじいちゃん先生の孫、だよな。
目をキラキラと輝かせてドヤ顔をしている。
ちょっとおもしろかわいい。
「ゐーんぐっ?〈ん? そういえば、俺の言葉って通じてるのか?〉」
「うん! グレン教団の司祭クラスは必修だもん!」
グレン教団!? なんだその俺の名前みたいな教団は。
「ゐーんぐっ?〈俺の名前はグレンって言うんだ。知ってたか?〉」
「うん、知ってるよ! でも、グレンって呼べって! 僕、ちゃんと守ってるよ!」
「ゐーんぐ……〈お、おう……なあ、じいじ。せめて、『さん』くらい付けるように教えといてくれ……〉」
「ふん……お前はそんな大層な人柄か?」
「ゐーんぐっ!〈まあ、そりゃそうだけどな……。でも、お孫さんの教育のためだろ!〉」
「そんなことより、今はこっちだ!」
孫が持っている緑の水を取って、おじいちゃん先生が矯めつ眇めつ、ソレを眺める。
「ロミオ、どうやったか覚えてるか?」
「うん! ちゃんと書き留めてあるよ!」
「ほぉ、さすがロミオ! 偉いぞ!」
「でしょ! えへへ……」
そんなこと……いや、お孫さんの教育は重要じゃないのかよ。
正直、何が凄いのか俺にはさっぱりだ。
そう思っていたら、顔に出ていたのだろう。
お孫さんが俺に説明をはじめる。
「あのね、じょうどうそうさって言う特殊な状態異常のひとつを、これで中和できるんだよ!」
は? 『情動操作』の中和?
待て待て、それって凄いことじゃないのか?
「ゐーんぐっ……〈おい、おじいちゃん先生!
このお孫さん、いや、お孫様がやったことって……〉」
「うむ。まだ一部だけだがな。こちらで再現した情動操作に使う薬の一部を中和することに成功した。組成式がある以上、現実でも再現できる」
おじいちゃん先生もドヤ顔だった。
それはそうだろう。
まだ小学生くらいの男の子がゲーム感覚で、今まで掛かっても解けなかった問題を解いてしまったということなのだから。
それが一部だけなのだとしても、これが大きな前進のための一歩なのは間違いない。
今、おじいちゃん先生が診ている『マギクリスタ』の回復、これに光明が見えた瞬間だった。
今後、お孫様に足を向けて寝られないな。
俺は思わず、お孫様に向けて手を合わせるのだった。
「わ、凄くない! じゃあ、僕も……」
面白がってお孫様も俺に手を合わせる。
なんだろな、この構図……。




