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本日、二話目です。
巨大ポータルから跳べば、そこはヒーロー『マギミスリル』VS怪人『ドリルクスシー』の決戦場、歯科医院、駐車場だ。
俺は周囲を確認しつつ煮込みに指示する。
「ゐーっ! 〈煮込み、復活石、確保! 〉」
「イーッシザ! 〈OKシザ! 〉」
俺とムック、サクヤの三人で煮込みを囲むようにして守る。
「イーッ! 〈マンション2、大型スーパー1〉」
ムックが指差し確認で敵戦闘員が陣取りそうな場所を示す。
一番近いのは、大型スーパーか。
俺は仲間に大型スーパーを指差す。
全員が頷いて、周囲を警戒しながら走り出す。
ちら、と『マギミスリル』を見る。
相変わらずの無双だ。
黒タイツの『りばりば』戦闘員が殴られ、蹴られ、次々と倒れていく。
途中、『ドリルクスシー』は右手に持った薬剤を左手のドリルに振りかけ、殴り掛かる。
「調剤スキルからの〜!
くらえ! 毒ドリルドリー! 」
『マギミスリル』はそのドリルパンチを蹴りで防御、ドリルパンチは不発に終わってしまう。
だが、戦闘員の一人が放った氷系スキルがヒット、水色の文字が「1」と表示される。
他の戦闘員たちが歓喜の叫びを上げる。
「「「イーッ! 」」」
よし、畳み掛けろ! と心の中で応援を送るものの、次の瞬間に『マギミスリル』を中心に大爆発が起きる。
今の一瞬で十人近い黒タイツが巻き込まれた。
『マギミスリル』が天空高く親指を突き出す。サムズアップ。
その方向を見れば、マンションの一棟だ。
「ゐーっ! 〈もう来たのか! 〉」
レギオン『マギスター』戦闘員たちだ。
俺たちは慌てて転進、マンションへと向かう。
「イーッ! 〈民家を盾に! 〉」
ムックが叫んだ意味は分からなかったが、壁に張り付く姿に全員で倣う。
壁沿いに少しの遠回りをしつつ、マンションへと近付く。
マンションの屋上から、ビームバズーカ〈のようなもの〉と、レーザーライフル〈のようなもの〉が撃たれている。
俺がマンションのエントランスに突入しようとしたところでサクヤに引き留められた。
サクヤが指で「見ろ」と示す。
見れば『マギスター』の専用車両『マギアタッカー』がエントランス前に横付けされる。
戦闘員が車から降りて、後部ハッチから武器を取り出している。
「三班と四班は大型スーパーだ。今回は損な役回りで申し訳ないが、三、四班が現着するまでなんとか頼む」
「ポキポキポッキーさん、そんな畏まらなくて大丈夫ですよ」
「そうそう。超遠距離武器の使用なんてこんな時でもないとできないですから」
「あ、俺、バズーカいってイイすか? 」
「トゥルっち、使えんの? 」
「装備重量なら任して! 」
「今回の装備は範囲がデカいのが多い。
なるべくなら周辺被害は抑え目で頼むぞ」
「「「うぃーっす! 」」」
運転手、ポキポキポッキーとか言うのが、『マギアタック』に乗って去っていく。
残された四人はデカい武器を各々が持って、エントランスへと入っていく。
「……イッ! 〈待ってて〉」
ひと言残して、ムックが走る。
手には『ショックバトン』。
走りはまるで忍者のようだ。
音を立てず、素早く、気配すらも殺して。
これは俺たちには難しい。待つしかない。
「イーーーッ! 」
「な、なん、がっ! 」
「トゥルっち!! 」
声だけが響いて来る。
これは優勢っぽい。俺は煮込みと顔を見合わせて、ニヤリと笑い合う。
直後、ドーンッ!! と爆発音と爆風がエントランスに吹き荒れる。
「ゐーっ!? 〈ど、どうした!? 〉」
俺が飛び出そうとするのを、煮込みに抑えられる。
「待つシザ! 今、出るのはまずいシザっ! 」
と、煮込みの持つ復活石が光る。
「いやー、失敗でした…… 」
ムックだった。ここから戻って来るってことは、1デス目だ。
「うまく武器落としがハマったんで、ついバズーカを拾ったんですね。
そしたら、消滅装置でどかーん、でした。
ははは…… 」
ムックは申し訳なさそうに苦笑した。
「まあ、普通はこんなことないから、つい手を延ばしちゃう気持ちは分かるシザ…… 」
煮込みも苦笑する。
「イーッ! イッ! イッ! 〈レイド戦中はお話、禁止! 〉」
サクヤが煮込みとムックを注意する。
「「イーッ〈シザ〉! 」」
確かにレイド戦中はまずいな。
レイド戦に参加しなかったプレイヤーが透明化して聞き耳を立てている場合だってある。
ヒーロー側は勝つのが当たり前になっているからなのか、普通にコミュニケーションを取っているようだが、あれだって実はかなりヤバいと思う。
例えば、ウチの暇な従妹みたいな奴が『ポキポキポッキー』の名前で検索かけまくって、うっかりその名前が引っ掛ろうものなら、『マギスター』の内情が筒抜けに、なんてことにもなりかねない。
勿論、俺は従妹に情報を流す。アイツ、そういうの得意だからな。
それにしても、今の爆発はまずいな。
上の戦闘員は気づいただろう。
俺は全員に大型スーパーに行こうと手で示して、そちらに向かうことにするのだった。




