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出したつもりで、出せてなかった悲しみ……。
ごめんね。
ラグナロクイベントのイベントタイムが終了した後、俺と霧雨は『シティエリア』の一角で禁断の果実の受け渡しを行っていた。
【マナ操作】によってMP30回復の機能を持たせた体力回復アイテムだ。
「ゐー?〈調子はどうだ?〉」
最近の『シティエリア』は『ネオ』の台頭によって危険なので、核の持ち込みは避けるのが習慣化している。
「少し記憶が曖昧だ……おかしい……」
「ゐー!〈ラグナロクイベントは細かいことが思い出せなくなる仕様があったはず。何か思い出せることはあるか?〉」
「仕様……何らかの秘密が……」
「ゐー……〈分からん。大まかな概要くらいは思い出せるはずだが……〉」
「ああ……確か奇襲を掛けようとして……何故か上手くいかなかった。それで逆襲されて……戦隊が……レンジャーを名乗っていたと思う…… 」
『マギクラウン』に戦隊を名乗るなんとかレンジャーがいるらしい。
俺は少しホッとする。
『マギクラウン』も『リアじゅー』の世界観に少しずつ変わってきているのかもしれない。
たしかプライベートで遊んでいたやつらが入ったはずなので、その影響だろうか?
「ゐー!〈奴らならタンクレンジャーとか、銃剣戦隊とかいそうだけどな〉」
「すまない。そこまでは……」
「ゐー……〈ああ、大丈夫だ。そういう仕様だからな……〉」
俺もラグナロクイベントを静乃に説明するのは苦労した。どんな作戦をやったとか、押した、押されたくらいは覚えているが、細かい部分の記憶になると、急にモヤが掛かったようになり、記憶がハッキリしない。
「核は小さきモノばかりだった気はする。怪人も大量投入したはずだったが……結果として逆襲を受ける形になった。
我らが食の神殿が被害を受け、体力回復が覚束なくなった」
「ゐー!〈そうか。なら、俺と契約していて良かったな〉」
俺は大量の禁断の果実を霧雨へと受け渡した。
「助力に感謝する……」
「ゐー!〈いや、勝って欲しいからな〉」
「ああ、いざとなればこの右眼の封印を解いてでも……」
霧雨の右眼? 何かあっただろうか?
いや、妄想か。
俺は霧雨と別れた。
少し、『郊外』に出て、普通の野菜も手に入れておくか。
そうして、久しぶりの『郊外』だ。
自分の畑で野菜たちの育成具合などを見ながら、雑草を取ったりしていく。
『農民』系スキルで、自ら手を入れれば収穫量や栄養価に違いが出るからな。
【マナ操作】はしない。他の畑に迷惑をかけそうだ。
そうして、仕事をしていると、にこぱんちがひょっこりと顔を見せる。
「ゐー!〈にこぱんち!〉」
「……誰だ?」
「ゐー……〈ああ、人間アバターを少し変えたからな……あ……〉」
そうだった。社会的に俺は死んだ身……。
「……お前、誰だ?」
「ゐー……〈あ、いや、失礼、人違いだ……〉」
「グレン、か?」
しくじった。にこぱんちは軍部の人間。
Bグループとも近しい。
俺は死んだことになっている以上、接触したらまずかった気がする……。
にこぱんちは、微動だにせず俺を眺めていた。
「グレン、だな」
俺は顔を背ける。
「死んだんじゃ……なかったのか……」
もう、無理だな。人間アバターを変えていても、ボロが出まくっている。
俺は、にこぱんちへと視線を向ける。
「ゐー!〈死んだことにされたが、生きている〉」
「……どういうことだ?」
にこぱんちは悪いやつじゃない。それは知っているが、軍人だ。
Bグループのやり方に反感を持っているのも知っている。だが、やはり軍人なのだ。
俺が消えた時、一人で俺を探し回ってくれた、友人と言ってもいい人物だが、俺のことを話す時、どうしてもBグループと超能力者に触れない訳にはいかない。
俺は、迷っていた。
現実でのにこぱんちは、BグループのライバルであるAグループの軍人で、ライバルではあるが、Bグループに協力して『情動操作』の情報を渡したり、遺伝子組み換え人間を大量に渡したりといったことをしている。
信用していいのか?
俺が現実で悪の組織『グレイキャンパス』にいると知った場合、もしかしたら俺だけは助けてくれようとするかもしれない。
それくらいの信頼はしている。
だが、他のメンバーは?
俺だけは助けるが、そのために他のメンバーを切り捨てるくらいのことはしかねない。
にこぱんちはそういう冷徹な判断が取れるタイプの人間だ。
「なあ、お前が行方不明になったと聞いて、俺はずっとお前を探していた……。
そうしたら、お前の死亡届にいき当たった。
何故、お前が死んだのか、理由が分からず調べたが、それは俺の権限でも見られない機密になっていた。
お前の従妹にまともな説明もできないまま、途方に暮れて土いじりをしていると、ひょっこりお前が顔を出すんじゃないかなんて、そんな気がして……そうしたら、それが現実になった……これはどういうことなんだ?」
俺は畑の端に座って、考えながら言った。
「ゐー……〈少し話そうか……〉」
言いながら、俺の考えはちっともまとまってなどいなかった。
手にしたトマトを服の裾で軽く磨いて、齧りとる。
瑞々しいトマトに、少し酸味を強く感じていた。
特務戦隊、レンジャー部隊。
小さな核で変身する迷彩柄の鎧を着けたヒーローたち。
森林カモ、都市迷彩、デジタルカモ、砂漠迷彩、タイガーストライプなどで構成されている。
普通にレンジャー部隊員たちなので、強い。
ただし、状況に合わないやつは、非常に目立つ。




