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 夜の繁華街。かなりお高いお姉ちゃんの居る店で、俺はハッスルしていた。


「ねぇねぇ、くみくみ、フルーツ盛り食べたぁーい!」


「ゐー!」


「や〜ん、イーさん、太っ腹〜!」


「はっはっはっ! お姉ちゃんら、この人、大農園の経営者やで!

 フルーツ盛りなんて、せこい、せこい!

 天然ワインのヴィンテージくらい持って来んか〜い!」


「「「きゃーっ!」」」


「ゐー……〈悪いな、ナゴヤさん。盛り上げ役なんて頼んじまって……〉」


「何言ってんの、ちょっと通訳しただけで、遊び放題とか、もう最高ですよって、こんな美味しい役なら、いつでもドンと来いですよ!」


 ボーイが銀の盆に載せて、天然ワインを持ってくる。

 百五十万ゴールド、マジカ換算で一万五千マジカである。

 初期のフィールドマップを今のレベルで金策のために走り回って三周くらいだろうか?


 隣のお姉ちゃんがこれでもかというくらいに、たわわなたわわを押し付けてくる。

 悪い気分ではないが、悪いことをしている気にはなる。

 今、現実じゃプー太郎だしな。


「イーさん、ミクね、今日、誕生日なの……一番、喜ばせてくれた人と今晩、一緒に居たいなって……」


「ゐー!〈シャンパンタワーの限界に挑戦すればいいんじゃないか!〉」


「おーい、ボーイさん、シャンパンタワーの限界に挑戦やで!

 積み上げちゃって! 天井まで届くやつをやな!」


「最高ー!」「ミク、嘘はやめなさいよ!」「嘘じゃないもん! 今日は私の月誕生日だもん!」


 月誕生日って何? 月命日くらいしか知らないんだが?

 あと、毎月、誕生日あったら一瞬で俺の年齢超えそうだな。


「ゐー……〈ナゴヤさん、そろそろ……〉」


「あ〜、はいはい。そういえば、ちょっと前にここらでブイブイ言わせてた、こーんな厳ついスーツに、こーんな厳ついグラサンの上客がおったとか聞いたんやけど、お姉ちゃんら何か知らん?」


「えー、誰だろ?」「サメちゃんかな〜?」「ああ、サメちゃんかも」


「へぇ、そのサメちゃん言うのは、最近来てへんの?」


「レイちゃん、お店移っちゃったから、そっち行ったって話は聞いたけど?」


「そのレイちゃんってのはどこに?」


「『三代目ゼロ豪気』って店。超高級店だよ!

 その点、ウチの店なら同じ値段で倍以上、遊べちゃうからね!」


「ゐー!〈よし、ナゴヤさん、店変えよう!〉」


「ふへぇ! まだ飲めんのですか!?」


 飲めるというか、『全状態異常耐性(フェンリル)』のせいで酔わないだけだけどな。


「いやぁ、イーさん、行かないで!」


「すまんね、姉ちゃん。また来るさかい!」


「ホントに? 絶対だからね! 絶対来てね!」


 相当、酔っているようだ。腰に縋りつかれると、ちょっと変な気になるから、やめてくれ……俺は素面しらふなんだ……。

 なんとか、くみだかミクだかを引き離して、俺とナゴヤさんは『サメちゃん』を探しに行く。

 鮫島が情動操作されていると、繁華街に来ない可能性もあるが、それならそれで確かめておきたい。


 俺とナゴヤさんは『三代目ゼロ豪気』という、お高い中でもひとつ飛び出た高さを誇る店に入る。

 色々な名目でお金を取られて、確かに高級店だ。

 その分、サービスは過剰で、店の女の子も煌びやかで、どの子も自信に満ち溢れている。


「ご指名はありますか?」


「レイって子はいる?」


「かしこまりました。ご指名入ります!」


 席に座るだけで、ふたりで四十万ゴールドだ。

 まあ、ウチの身代を潰すほどではないから問題ない。


 レイはクールビューティーという雰囲気で、気さくに話すという感じではない。

 少し素朴な雰囲気もあって、夜の女という感じが薄い。


 こういう店に入り慣れてない俺としては、かなり気後れしてしまうが、レイのあまり話さないが素朴な雰囲気というのが、高級店のオアシスのように感じてしまう。


「……どうも、レイです」


「うわ、べっぴんさんやね……ささ、こっち座って」


「失礼します。お飲み物のお好みはありますか?」


 簡単に水割りなど作っているように見えるが、所作が洗練されていて、こちらのことを良く見ている。

 ナゴヤには濃いめ。俺には薄め。

 実際、合成の酒は薄めで俺にはちょうどいい。食い物の味を邪魔しない方が重要だ。

 この辺りを判断できるのが売れっ子という感じがする。


 ナゴヤさんにはパーッと遊んでもらう。

 上客に見せないと、レイは売れっ子のようなので、すぐ離席されてしまいそうだからな。

 しばらく豪遊して、ようやく本題に入る。


「鮫島さんですか? 週に二度ほどは来て下さいますよ」


 来る? 来るのか……鮫島の立ち位置が良く分からなくなってくる。

 Bグループに使われている訳じゃないのか?

 そこから鮫島のことを根掘り葉掘り聞いていると、レイはあからさまに不機嫌になる。


「なんだか私じゃあまりご満足頂けてないみたい……」


「いやいや、ちゃうちゃう! そのサメちゃんいうのが恋のライバルになりそうやから、気にしてはるんよ、イーさんは!」


「ふーん……なら、私とシてみます?」


「ゐー!?」


 ぶばっ! と俺は口に含んでいた酒を吹き出した。


「ほら、あんまり興味ないでしょ……」


 いや、おい、それはその、だな……。


 俺は店を出た。男として敗北した気分だ。

 見透かされたとでも言おうか。

 それなりの金額を払って、敗北感を背負って帰る。


「まあまあ、グレンさん、あれは仕方ないですよ……。

 いや、最高級な店の女の子は、やっぱりレベルが高いですな……ちょっと通いたくなりましたよ……」


 ナゴヤさんと二人、本部基地に移動する。

 移動してから、何故か二人で農場の片隅で飲み直すことになった。

 ここなら、俺も素直に酔えるものが飲める。


 きゅうりの浅漬けを、ボリボリと齧り、ちょっと悪い酒を飲んだ。


「ゐー!〈あんな俺の半分くらいの小娘にやり込められるなんて……俺は……俺は……〉」


「うんうん。普段、行きつけてない店ですしね……」


「ゐー!〈そうだよ、どうせ俺の給料じゃあんな店、無理なんだよ! 普段は天然のイワシが食えるかどうかで一喜一憂してる身なんだ、こっちは!〉」


「あ、分かる〜、分かりますよ〜」


「ゐー!〈分かってくれるかナゴヤさん!〉」


「ええ、ええ、分かりますよ。

 まあ、こういうことも何事も経験ですからねぇ。

 次の機会にガツンと決めてやりゃいいんですよ!」


「ゐー!〈おう、次はリベンジだ! 次、言われたら、その場で腕を取って連れ去るくらいの男気をだな!〉」


「誰の腕を取るんですか?」


 いつのまにか、そこにはレオナが来ていて、あら、ナゴヤさんとなんて珍しいですね、などと言いながら、するりと俺の横に座って来る。


「ゐー……?〈あ、いや、その……組み手?〉」


「訓練ですか?」


 ナゴヤ用に出してやった酒を自分のコップに、トクトクと注いで、レオナが美味そうにひと口呷る。


「あぁー、そうそう、組み手ですね、こう、くんずほぐれつ的な……」


「まあ、グレンさんは元々スキル頼りですからね。普通の武道じゃなくていいと思いますけど?」


「ですよねぇ。私もそう言おうと思ってたんですよ!」


「ゐー……〈お、おう……〉」


「あ、今度、私とやってみます?」


「ゐーっ!〈や、やるって! な、何を……〉」


「えっ? 組み手ですけど……ボクササイズで鍛えてますから、それなりにやれるんですよ、これでも」


「ゐー……〈あ、組み手ね……そう、組み手だよな……〉」


「あ、もしかして寝技ありですか?

 そしたら逆にグレンさんをえっちな気分にさせて、その隙を突いたらいいかも、なんて!」


 ぶばっ! 本日、俺の二敗目が確定した瞬間だった。童貞か、俺は……。



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