375〈矢崎〉
ログアウト後、俺は慌てて政府広報の死亡者追悼欄を確認する。
いた。鮫島だ。
確か、警察に捕まった後、実刑ではなく観察処分になっていたはずだが、死亡扱いになっている。
下手したら親御さんである、鮫島物流の社長さんも気付いていない可能性がある。
ひとり立ちを促すために、当分の間は連絡を取らないことにしているとか、言っていたのを覚えている。
鮫島が素直に組織で誰かの言うことを聞いている姿も思い浮かばない。
そうなると、やはり情動操作だろうか。
俺を目の敵にする憎たらしいやつだが、だからこそ、鮫島が自我を奪われ、誰かの駒として使われる姿は哀れに感じる。
アイツは鮫島社長の親心を理解するまで、ちゃんと現実での荒波に揉まれるべきだ。
死亡扱いになったのは、二ヶ月前。
俺が捕まって、毎日殺されている頃だ。
鮫島社長は気付いたら悲しむだろうが、まだ、生きていることを伝える訳にもいかない。
下手に関わらせたら、今度は鮫島社長が危険な目に会う可能性がある。
俺がどうしたらいいのか分からずに、うんうん唸っていると、基地にメッセージが届いた。
おじいちゃん先生からだ。
───矢崎真吾が目を覚ましたと連絡があった。今、そちらに向かっている───
おじいちゃん先生はこっちに来るまで二時間くらい掛かるか。
俺が先に矢崎に状況説明しておくべきだろうな。
俺は秘密基地を出て、おじいちゃん先生に聞いた病室に向かう。
個室だ。
ナースステーションで面会許可を取り付けて、指定の病室のドアをノック。
返事はないが、そのまま入室する。
矢崎はベッドに横になったまま、ボンヤリとこちらに視線を向けた。
「……あんたは?」
「神馬という。おじいちゃん先生の知り合いだ」
「ああ、あの医者の……」
「リアじゅーネームはグレン。リヴァース・リバースのグレンだ」
「りばりば……え、グレンって肩パッド?」
「そっちの方が通りがいいなら、それでもいい。
あんたはドクターレスキュー? リニア303? それとも矢崎真吾? スターレジェンズの黄色?
なんて呼べばいい?」
矢崎が天井を眺める。
「……全部、調査済みか」
「もう一人、候補はいたんだがな。細かく見ると少し違うことが分かった」
「ああ、それは俺の師匠だろう、奴らに捕らわれ殺された『リアじゅー』の師匠……彼女は……俺の師匠で、俺の彼女だった……」
女性?
「モロコシヒーローとか呼ばれていたやつなんだが……」
「ああ、リターンジュピターってレギオンでやってた……」
そうか。助けた人たちは皆、意気消沈していて、おじいちゃん先生任せだった。
全員が『リアじゅー』をやっていた訳ではなく、やっていたとしても個人のプライベートとして細かい話を聞いたりすることはない。
盲点だったな。
「なあ、あんたらは何なんだ……」
「俺たちは……悪の組織だよ。
国の暗部と密かに戦い、『リアじゅー』の影響を最小限に抑えるために戦っている」
こうして、『スターレジェンズ』の黄色ヒーローこと矢崎との話し合いが始まった。
矢崎は病み上がりだ。
休憩を挟みながら少しずつお互いのことを話していった。
矢崎が求めていた『優子』はやはり俺たちが助けた中に居て、おじいちゃん先生が連れて来てくれた。
一日目は感動の再開で終わり。
二日、三日と話し合いは続き、俺たち『グレイキャンパス』と『スターレジェンズ』は代表同士で話し合うことになった。
だが、矢崎が軍に狙われてしまう可能性があるため、保護しなくてはならなかったのが裏目に出て、『スターレジェンズ』側には不信感を持たれてしまう。
「もう身体は動く。悪いが一度戻らせてくれ」
矢崎は『スターレジェンズ』の仲間たちを説得するため、直接出向く必要があると訴えた。
それも、矢崎一人でだ。
俺たちは止めたが、矢崎は本気だった。
「俺にだって超能力はある。それにあんたたちに聞いた『リアじゅー』との関わりは簡単に信じられる話じゃない。
俺が直接、この口で説明する必要がある」
俺たちは見送るしかなかった。
本来なら、おじいちゃん先生の時のようにGPSと陰ながら付いていくくらいしたかったが、それも釘を刺されてしまった。
ただでさえ、矢崎を人質にしたままでは話し合いに応じられない。
まずは矢崎を帰せ、と言われてしまっていて、小細工がバレたら余計に不信感を募らせるだけなのは、もっともな話だったからだ。
こうして、矢崎は一人、都内へと戻っていくのだった。




