374〈霧雨の話〉
───グレン、リアじゅー世界から永遠の闇に堕ちたと聞いたが?───
『ガイア帝国』幹部、厨二病発症中の十七才、霧雨だ。
───仕事でしばらくログインできなかっただけだよ───
───それで、獄炎の裁定者たる俺に用とは?───
ああ、今は戦闘後だし、霧雨も興奮しているのだろう。
完全に厨二病モードみたいだ。
俺はひとつ息を吸って、そちらに自分のチャンネルを合わせる。
───ああ、その獄炎の裁定に華を添えたいと思ってな。それも先の戦いで大いに役立った禁断の果実を分けてやろうかとな───
───ほう……それは重畳……それでグレンは代わりに何を得る?───
───幾ばくかの礎たる力と欲に塗れた好奇心、だな───
───よかろう……といってもグレンの好奇心を満たす話か……そうだな、光の勇者を名乗る鎧の騎士たちについてはどうだ?───
霧雨が言ってくる。
俺としては願ってもない話だ。
それがいいと、続きを促す。
───無秩序と無法の王冠を被るやつらには、数多の鎧を揃えるだけの充分な核がある。
だが、そうは言っても、その核は数に比して有象無象がそのほとんどなのだ。
科学文明側の核の有り様についての知識は?───
核についてか。
確か、魔法文明側の核は、核:ハサミや核:バズーカのように、物体そのものが核として存在しているのが普通だ。
これらには倍率というのが設定されていて、物によって、能力値がどこまで伸びるかが変わる。そして、核を持つと語尾に変化が現れる。
一方、科学文明側の核というのは、丸いエネルギー体として見つかるらしい。
基本的には極大、大、中、小の四種類だ。
これを鎧にエネルギー源として組み込むことで能力値アップの変身ができる。
要はデカいエネルギー体の方が、能力値アップの倍率が高いということだ。
その程度の知識は俺にもある。
霧雨の話によると、「有象無象」、すなわち『マギクラウン』のヒーローは、能力値アップが五倍程度のそこまでじゃないヒーローがほとんどだと言うことだ。
たしか、科学文明側の『遺跡発掘調査』でごく稀に拾える核の中でも、希少性は大きさに比例しているはずで、『マギクラウン』がケンカをふっかけた中小レギオンはたくさんあるが、基本的にレギオンが保有していたのは小さな核ばかりだったということなのだろう。
───知識はある。しかし、帝国の質にも量にも勝る働きをしていると聞いている。やはり、連携か?───
───一部、啓蒙深き者には、視える世界もあるとは聞くが、それだけではない。
二人、鬼神の如き者がいる───
これは初耳情報だな。ただでさえ『マギクラウン』は表に出て来ないので、ヒーロー情報が少ない。
中でも、『ガイア帝国』幹部が鬼神の如きと評するほどのヒーローが二人もいるらしい。
───ひとりは、先の大戦の古兵、マギシルバー……───
───マギシルバー……───
あいつ、『リアじゅー』に帰って来たのか……。
なんだよ……こっちの世界でも洗脳されたままかよ。
なんだか、哀れに思えてくる。
───もうひとりは、古代鮫の戦士、メガロスペード。
奴は魔法文明世界の裏切り者だ。俺たちのことに精通し、ガイアの古き英雄を良く知る男……───
は?
魔法文明世界の鮫と言われると、俺に思い当たるのは、たった一人だ。
だが、その名を聞いて、俺は色々なことが繋がるのを実感した。
奴がガチャ魂酔いを発症しているとは思わなかったが、ベータテスターで、親に勘当され、近親者が少なく、奴が超能力に目覚めたとすると、Bグループに狙われるのも良く分かる。
何より、俺のリアルを知る男……鮫島。
まさか、俺が三ヶ月、現実で殺されたことの裏には、アイツがいるのか……?
そうだ、考えてみれば、現実で五杯博士と面識を得た時、俺と『りばりば』のグレンがつながったとして、リアルがバレるにしても、やけに早かった気がする。
だが、もしアイツが関わっているとするなら、納得できることが多い。
確かめなくては。
俺は霧雨との商談もそこそこに、慌ててログアウトするのだった。




