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「くっ……血が止まらん!

 神馬、ここをしっかり押さえろ!」


 おじいちゃん先生に言われるまま、俺は矢崎の動脈を押さえる。

 俺はようやく『全状態異常耐性(フェンリル)』が働いて、内臓の出血が止まった。

 俺は死んだところで復活するんだ。

 おじいちゃん先生もそれを理解しているので、俺に忖度はしない。

 それは、ある意味、今まで診てきた上での信頼だ。


 移動する車内、自動運転で逃げながらの応急処置だ。


「死ぬなよ、矢崎くん!

 君が会いたい人が待ってるぞ!」


 くそ、なんで俺は他人を癒せるスキルを持っていないんだ。

 自分を超回復させる『狼人間(ワーウルフ)』と自身の死亡時、二十四時間後に完全再生する『金山羊』はあるのに、他人に対してはあまりにも無力だった。


 だが、おじいちゃん先生は引退間近と言えども現役の医者だ。

 テキパキと応急処置をしていく。


「今は血を止めるだけしかできん。

 道具もない設備もないでは、弾も取り出せない。

 なんとか保ってくれればいいが……」


「なんでだよ、おじいちゃん先生、医者だろ!

 なんとかできてるんじゃないのかよ!」


「メスもない、針と糸もない。

 こんな状態で弾の摘出なぞできるか!」


 なんだよ、おじいちゃん先生、医者ならいつでも道具くらい持ってるんじゃねえのかよ!

 くそ……何か、何かないか……。


「ゐーんぐっ!〈【ベアクロー】!〉

 これは使えるか?」


 俺はスキルの爪を見せる。


「バカを言うな! どれだけ鋭くても肉を抉るようなものが使えるか!」


 くっ……ダメか……。

 後は俺ができることと言えば、状態異常を掛けるくらいで……。


「はっ!?

 ゐーんぐっ!〈【満月蹴り(マナシュート)】〉」


 俺はMPを操って、打撃力を最小にしたエネルギー弾を足先に出して、こつん、と矢崎に当てる。

 『魔力酔い』と『もちもち』の状態異常を与える。


 それまで苦悶の表情を浮かべていた矢崎の表情が少し和らぐ。

 『魔力酔い』は感覚を鈍らせる効果がある。

 痛みは多少、和らいでいるはずだ。


「何をした? 急に肌の質感が……」


「魔力酔いと、もちもちの状態異常だ」


「もちもち……おい、ここも押さえておけ!」


 俺はパンツが破れるのも構わず、蠍尻尾を伸ばして、言われた場所を押さえる。

 もちもちだから、ぐにょ〜んと尻尾が沈み込む。


 おじいちゃん先生が傷口を、ぐにょ〜んと開いた。


「よし、取れるぞ!」


 おじいちゃん先生が俺を見る。


「おい、さっきの爪だ! それと炎の翼!」


「お、おう……」


 決して広くない車内で、翼を出すのは窮屈だが、言っている場合じゃない。

 俺は『ベアクロー』と『炎の翼』を出す。


「その爪を焼いて、消毒しろ!

 傷口を開くから、消毒した爪で弾を取れ!」


「マジか……」


「大マジだ……」


 思いのほか、本気の顔だ。


「言祝ぐものなり!」


 俺は【言霊】で成功を祈りながら、爪を焼く。

 不思議なもので、普段は背中から出ている『炎の翼』は燃えて見えるが肌を焼くようなことはないのに、意識すれば俺の爪は、ジジジッと音を出して赤熱する。

 『サーベルホワイトベア』の爪は、『雪の女王』によって作られた魔法生物らしく普通の爪ではない。

 その性質は『リアじゅー』内で扱う魔法金属に近いようだ。


 おじいちゃん先生に言われるままに、弾を摘んで抜く。


「よし、次だ!」


 全部で十二発。数発、危険なところに弾があって、絶対に動脈を傷つけるな! と注意されたりもしたが、どうにか弾を抜けた。

 縫うことはできないが、服を切り裂いた臨時の包帯で保護まではできた。


 敵が追ってくる気配もない。

 五杯博士があの状態で、指示が滞っているのかもしれない。


 骨振動の無線で会長と連絡を取って、車を何度か乗り換えて、こっそりと病院地下の秘密基地に俺たちは帰るのだった。



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