368〈side︰グレン〉
『ぷろめす』の生配信は俺も観させてもらったが、まさかあんな展開になるとは思わなかった。
実際に会長が払ったのは十五、六万だろうと思うが、下手に興信所に依頼することを考えると、費用は三分の一で、時間は十分の一、いや、もっとだろうか。
何より、あのひと晩で『スターレジェンズ』の黄色ヒーローに辿り着いてしまうのが脅威だ。
矢崎 真吾 〈二十六歳〉
コンピュータプログラマー。
所在地は都内、某所。独身。
SNSでの発信は『リアじゅー』関係がほとんどで、彼女がいるような言動アリだが、その相手は分からない。
「さて、どう接触しようかね……」
会長が腕を組んで考え込む。
昨日の今日で、また会長が来てくれている。
報告だけならメールでもいいんだが、わざわざ来てくれたのは、やはり、今後の動きを相談したかったからなのだろう。
時間が真っ昼間なので、俺とおじいちゃん先生と会長しかいないんだがな。
「私が会ってみようか」
おじいちゃん先生が手を挙げる。
「先生が!? 危なくないか?」
俺は驚く。
「助けた人たちの中に、彼らが求める人がいるかもしれない。
もし、そうであれば知らせてやりたいし、それほど危険があるとは思えんな」
「テロリストとして、どんどん過激になっているんだぞ?」
「我々は気をつけているだけだ。
本質的には彼らと何も変わらんよ。
法を犯し、暴力を厭わない。何が違う?」
「……なら、せめて俺も一緒に行く 」
「ふふっ、ボディガードか?
よせよせ、ケンカに行く訳じゃない。
相手を怖がらせても、頑なになるだけだ」
「じゃあ、リアじゅーの中で会えばいいんじゃないかにゃ?
伝手を引いていけば、連絡はつくよん」
会長が提案するが、おじいちゃん先生はそれを否定する。
「いや、直接会うべきだろうな。
相手もリアじゅー内だと、危機感が伝わらない。
信用してもらうためには、安全なところでは意味がないよ。
まあ、この件は任せてくれないか」
おじいちゃん先生が立ち上がる。
俺も会長も、おじいちゃん先生の突っぱねるような言動を驚きと共に受け入れるしかなかった。
おじいちゃん先生が去った後、会長が困惑した顔を見せる。
「なんだろうにゃー?
先生は何をそんなに焦ってるんかな?」
「昔からそうなんだよ。おじいちゃん先生は。
若者が無茶をして傷つく姿を自分のことのように憤るんだ……昔から説教されまくった俺が言うんだから、間違いない……」
それは、おじいちゃん先生の息子さんが闘病生活で闘う姿を見た上でのことかもしれないし、元々の性分なのかもしれない。
それから、会長と少し話をして、俺は『リアじゅー』へとログインするのだった。




