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 三ヶ月。

 一般的な社会人にとって、三ヶ月は重い。

 会社はクビになる。家賃は溜まる。

 親類縁者に迷惑が掛かる。

 それと、やはり俺は死んだことになっていた。


 これが社会的な死というやつだ。

 色々な死を体験したが、これが一番キツいかもしれない。

 帰るところがない。


 俺はおじいちゃん先生の病院地下に作られた『グレイキャンパス』秘密基地の仮眠室から出て、茫然と視線をさ迷わせた。


「ほら、朝食だ。病院食だから薄味だが、栄養価は完璧なバランスだぞ」


 おじいちゃん先生が持って来てくれた朝食をいただく。


「全部、失ったと思うと、なかなかに堪えるもんだ……」


「馬鹿言うな。今まで助けて来たBグループ被害者は、全員そうだ。

 静乃くんに、仲間たち、『リアじゅー』のフレンド。お前は他の被害者に比べたら、アホほど恵まれとるわ!」


 確かにそうだ。

 仕事や現実世界での人間関係など、失ったものは多いが、俺には残ったものもたくさんあった。


 呆けている場合じゃなかった。


 SIZUたちに助けられた直後、SIZUにギャン泣きされて、全てを失った事実を理解して、茫然自失となったが、俺は他の被害者に比べたら、まさしく恵まれていた。


 秘密基地の扉が開く。


「やあやあ、昨日ぶり、その後、体調どうかにゃー?

 問題なさそう?

 なさそうだね。良かった、良かった!

 じゃあ、グレンにはこれをあげよう!」


 会長が顔見せと同時に、俺の身体をぺたぺたと触りまくる。

 医者じゃないのに、何が分かるのかと思うが、心配してくれている相手がいるということが嬉しくて、しばらくされるがままになっていると、会長は背負っていたバックパックからVR機器を取り出した。

 妙に見覚えのある傷のついたVR機器。


「これは……」


「そう、しばらく暇かなぁと思って、君の家から持って来たよ。

 凄いでしょ。偉くなーい?」


「大丈夫なのか……」


 俺が逃げ出したと知ったBグループは、俺の家なんかを見張っている可能性がある。


「ああ、面倒はごめんだから、アパート丸ごと買い取って、新大家として店子の家を回って来たついでの戦利品。

 ついでに家賃問題なんかも片付けて来たから、心配しなくていいだなも。

 ほら、会長、有能っしょ!」


「え、あ、ああ、その……俺のために済まない。助かるよ」


「いいの、いいの。

 仲間じゃなイカ! 立地はいいから、その内、建て替えて高機能アパートとして売り出せば、また儲かっちゃう予定だしね!」


 そういうものだろうか?

 まあ、会長なら上手くやって儲けそうな気もする。


 それから、朝から夕方まで、おじいちゃん先生の精密検査が続く。


「パッと見て分かる範囲では正常だな。

 残りは検査結果が出ないと、なんとも言えないがな」


「良かった〜。

 向こうにいる時はどういう扱いだったの?」


 学校が終わって、すっ飛んで来た静乃が熱心に、おじいちゃん先生の話を聞いて、胸を撫で下ろす。


「うん? ああ、まあ、実験体だよ。あまりに反抗的過ぎて、四六時中眠らされてたけどな……」


「ふーん……それで本当は?」


 俺の言い訳を見抜いて許さない静乃だった。

 この頃には、来られる奴が全員集まって、それとなく俺のフォローをしてくれていた。

 ありがたいことだ。


「えーとだな……ほとんど本当の話だぞ。

 ただ、そうだな……眠らされたというか、リスキル状態というか……」


「え……?」


「まあ、ほら、『金山羊』のスキルで二十四時間後に生き返るものだから、その都度、殺して組織サンプルとか取られてたらしいが、その時は意識も何もない状態だから、実際は何をされていたのか、いまいち良く分からないんだ……」


「ま、ま、待ってクダサーイ!

 リスキルってゲームじゃないですよ!」


 アパパルパパが、後半驚いて普通に喋っていた。


「ひとつ、朗報があるでっす!

 それでいくと、グレンさんは例の『情動操作』はされていないということになるでっす!」


 どぶマウスが指を一本立てていた。


「ああ、薬物は入れられてたが、俺の場合、それは『状態異常』として弾いてくれるパッシブスキルがあるから……」


「は?」


 どぶマウスが目を丸くする。


「今、グレンさんの持ってるスキルの中で、使えないのってあるの?」


 山田が聞く。


 まあ、大まかにお互いにできることは知っているが、最近と言っても三ヶ月前の時点では全てを把握しあうまではいっていなかったからな。


「使ったことのないガチャ魂は、正直、未知数だが、普段、レギュラーで使っているものは全て使えるな。パッシブ含めて。

 言語スキルがないせいか分からないが、言語〈古代〉で発声しないと上手く操れないのが難だが……あ、あとは変身による能力値上昇は無理だな。スキル変化は勝手に起きたみたいだ」


 それから、俺は皆にMP操作と泡沫の夢の話をする。


「ちょ……グレちゃん、初耳な話がてんこ盛りなんだけど……」


「だから、今、話してる。正直、MP操作は感覚の話で、説明が難しいんだ。

 こう……自分の身体を流れている血流を把握するようにMPの循環を理解するというか……グルングルンするMPを意識の壁で集中させたり、形を変えたりする感覚なんだが……。

 それと、泡沫の夢ってのは生き返る一瞬で見る、ガチャ魂の記憶みたいなもので、走馬灯感覚で流れる物語というか……それが分かるとシステムサポートから外れたスキル運用ができて……」


「……分からない」「ノォー、ワカリマセーン!」「日本語でおけ?」


 それぞれに否定される。


「神馬……なんとなくでいい。今の話をまとめて、レポートしてくれ」


 まさかのおじいちゃん先生から宿題が出された。


 せっかく会長にVR機器を持って来てもらったが、今日のところは『リアじゅー』はおあずけになりそうだ。

 俺は基地に備え付けのリンクボードを使って、三ヶ月ぶりのレポート作成に頭を悩ますのだった。



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