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「どうした? もう来ないのか?」


 俺の『自分諸共、範囲攻撃作戦』は功を奏した。

 一般人に比べれば、相手も痛み慣れしているだろうが、俺は多種多様な死ぬ程の痛みを何度も食らっているからな。

 なんとなくだが死線(デッドライン)が分かる。

 さらにいえば、俺は『自動回復』する。

 もちろん、MPを使うが、MPは時間回復する。

 『自分諸共、範囲攻撃作戦』の後は挑発して時間を稼ぐ。


「ぐっ……き、き、貴様……」


 俺は気配を探る。声は遠い。

 がちゃがちゃと拘束具が外れないか試すが、簡単ではなさそうだ。

 俺は思念でガチャ魂を入れ替える。

 なるほど、こうして視覚を封じられると、よりイメージを固めやすいというか、まるで目の前に自分用のスクリーンがあるように感じる。


 今、必要なのは翼ではなく、こちらだろう。


 体内のMPに意識を向ける。まだ八割方残っている。


「どうせ、近付けないから銃でも、使うんだろ?

 それで情動操作の注射はどうする?

 痛みで追い込むと超能力が強くなるんだったか?

 でも、それは情動操作とセットにしておかないと、俺が強くなるばかりだよなあ!

 近付けなけりゃ、意味ないだろ。

 ほら、近付いてみろよ!」


 例えは違うかもしれないが、虐める側というのは、虐められることに敏感だ。

 優位性を保つこと。

 これができないと、途端に自制がきかなくなる。

 つまり、立場が逆転した時、簡単に心が折れる。

 または逆上して、優位性を保とうと必死になる。

 ある種、心が弱い人間の常套手段だ。


 俺は銃を使うのは弱い証だと、言葉で『縛り』を入れる。

 銃を使ったら、優位性は保てなくなる、この拷問官は必死に考えるだろう。

 自身の立場と俺への優位性、どちらを重視するべきなのかということだ。


 その考える隙を使って、俺は冷静にMPを循環させる。

 腰を少し浮かす。

 『自在尻尾』。蠍の尻尾を生やす。長く、長く。

 尻尾の毒針に引っ掛けて、覆面を外す。


 ようやく、視界が手に入った。

 周囲を確認する。

 白いタイル張りの部屋だ。カメラが何台か仕掛けられている。

 俺が座らされているのは、手術台に変形しそうな椅子で、特別誂えという感じだ。

 部屋はそれなりに広いが、端には棚があって、拷問具が並べられている。

 出入口はひとつ。そこには火傷を負った拷問官が、悔しそうから反転、焦ったような顔をして、俺を見ている。

 部屋の隅には、おそらく外と繋がる受話器が置かれている。

 まあ、拷問官からしたら、逃げた方が早い位置だ、問題はないはず。

 ここまでやって、すぐに応援が来ないのなら、今はこちらをチェックしている奴はいないのだろう。


 腕の拘束具は留め金で留めてある。

 簡易な作りだ。


 Bグループは今や、俺たち含め、様々な奴らに狙われている。

 いざと言う時に、捕えた超能力者を移送しやすくしてあるのだろう。


 見えていれば簡単だ。

 俺はまたもや毒針を留め金に引っ掛けて、引き抜く。

 自由になった手と毒針で、他の拘束具を外していく。


「くっ……」


 拷問官は結果として、逆上する道を選んだようだ。

 腰にある銃を抜いた。


 見えているなら問題ない。


「ゐーんぐ!〈【地獄の河(ヘルズフレイム)】!〉」


 『自在尻尾』の毒針から貫通する毒熱線を放つ。

 狙いは拳銃そのものだ。


「なっ!?」


 両断された拳銃が転がる。


「次は当てるぞ!」


 俺は油断なく蠍尻尾を拷問官に向けて、足の拘束具を外す。

 その一瞬の隙をついて、拷問官は逃げ出した。

 一瞬の迷いが生じる。

 いざとなれば、手を汚す覚悟はしているが、変身時の(コア):ウイングと結びついた【地獄の河(ヘルズフレイム)】は、人に当たれば、確実に命を奪う毒がある。


 ん?

 ここで気付いてしまった。

 変身時でないと出ないはずの、(コア)と結びついた、いわばスペシャルスキルが出ている。

 現実では、変身できないはず……。

 もしかして、変身しているのか?

 能力値的な変異の実感はないが、スキルは確実に変異している。

 何かの箍が外れた、いや、緩んだような気がする。

 もしかして、俺が『見た』からか。

 『リアじゅー』が百年後のこの世界だと気付いた。

 要するに『リアじゅー』世界と現実が地続きだと理解したから、変身できなかったはずの(コア)効果が漏れだしているのではないか、そんなような気がする。


 俺が自身の変化に戸惑っていると、兵士たちが入り口に並んだ。


「ゐーんぐ!〈【サーベルバンパー】!〉」


 今、俺の顔は狼なのか熊なのか分からないが、獣顔から牙が伸びる。


 兵士たちがアサルトライフルの銃火を浴びせてくる。

 正面からの攻撃は【サーベルバンパー】が肩代わりしてくれる。

 俺は手足に爪を伸ばして、【熊突進(アドバンスベア)】で兵士たちを吹き飛ばした。


 気付けば、俺は水色の手術着のようなものを着せられていた。


 くそ! 人の一張羅を!

 しかも、携帯デバイスも取り上げられているので、連絡もできない。


 とりあえず、俺はこの建物から出るべく、走り出したのだった。



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