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車が止まる。
「隊長、傷が治ってます!」
「ちっ! やはりスキルの力か……。
各員、油断するなよ」
「足の腱くらい切っておきますか?」
「いや、もう一本、麻酔を……」
言うや否や、首筋に注射が打たれた。
ああ……また、意識が、微睡む……。
次に目覚めた時、俺は椅子らしきものに座らされていた。
『全状態異常耐性』はあくまでも確率だ。失敗する時は失敗する。
椅子は背もたれ、肘掛け、足置き付きの椅子で、金属製の固定具のようなもので全身を固定されていた。
ああ、頭がクラクラする。
くそ! この覆面が邪魔だ。いつのまにか猿轡は外されている。
「また、会えたね、グレンくん。それともフェンリルと呼ぶべきかな?
まあ、どちらでもいいか……」
声が聞こえた。近くではなく、スピーカーだろうか。
五杯博士か。
「色々と研究してね。君のスキルをどう防ごうか、色々考えたよ。
十八番を奪うようで申し訳ないが、視覚潰しは強力だ。
それから、瞬間移動系ね。手にした物や衣服が一緒に移動するみたいだから、床に固定した椅子に繋げてみたよ。
上手く防げてるといいんだけど、どうかな?」
「呪うものなり……〈ふざけるな、クソ野郎……〉」
「ああ、もう意識ははっきりしているみたいだね。じゃあ、始めようか。
これはね、研究で分かってることなんだけど、超能力は生命の危機を感じると、飛躍的に伸びるんだよ。
それから他人の悪意に曝された時。
これも研究成果から超能力の躍進に効果が出てる。
君の大事な人はいるかな?
まず最初は、大事な人を思い浮かべてごらん。
君が大事な人を思い浮かべるほど、情動操作の効果は大きくなる。
君の大事な人は僕たちにすり替わってしまう。
意外と怖いよね。
これが悪意だよ。
親、恋人、友達、命を賭けてもいいって人はいるかな?
執着が強ければ強いほどいい。
その執着がすり替わるからね。
じゃあ、楽しんで。またあとで様子を見に来るからね」
そう言ってスピーカーの声は途切れた。
さ
首筋に注射を打たれる。
途端に頭の中に絵が浮かぶ。
俺がここまでに出会って来た人たちの絵だ。
次第にそれが新しいものから古い記憶へと進んでいく。
俺に注射を打ったやつが、近くで動いている気配を感じる。
「まずは切り刻んでみるか……」
冷たい金属が腕に押し当てられ、スッとそれが引かれた。
切られた?
頭の中の絵が止まる。『全状態異常耐性』に成功したらしい。
「この程度は一瞬で治るのか……面白いな」
スッ、スッ、スッ、と三度、切りつけられる。
「声ひとつ上げないのか……それは面白くないな……」
ガンッ! と硬いハンマーのようなもので指先を殴られた。
「ぐっ……」
痛みに耐える。もう一発。
「ああ、反応があるな。痛みに強いんだな、あんた。じゃあ、潰した指をもう一回潰してやるよ。あんたにも見せてやりたいなぁ……せんべいみたいになっていく自分の指を見たら、絶対に喜んでくれるはずだけどな……」
嗜虐心に溢れる言葉で挑発してくる。
「ゐーんぐ!〈【バニッシュ・サンダー】〉」
範囲電撃攻撃を相手に撃てないのなら、自分に撃つしかない。
巻き込まれろ!
「ぎぃっ!」
拷問官が変な声を出した。
「じゃあ、どっちが耐えられるか、競走しようぜ!」
俺は言ってやって、もう一発、【バニッシュ・サンダー】を落とす。
「ぎぃっ!」
「おい、この程度で叫ぶなよ……お前は痛みに弱いタイプか?」
拷問官に言ってやる。
嫌がらせはできるが、さて、どうやって逃げ出そう……。
俺は考えはじめるのだった。




