351〈アダム頑張れよ!〉
「あの〜グレンさん、マンジの人と揉めてたりしてますかねー?」
ある日の『りばりば』基地でサクヤから急にこんなことを聞かれた。
「ゐーんぐ?〈いいや。揉めた記憶はないが……マンジってマンジクロイツェルだろ。また、なんで?〉」
「昨日、フィールドに出てたらマンジのアマカスって人にいきなり話し掛けられて、グレンさんのことを色々聞かれたもので。
もちろん、何も話してないですけど、なんだかちょっと嫌な聞かれ方だったので、もしかしてフィールドでぶつかって何かあったのかと思いまして……」
「ゐーんぐ?〈アマカス? 聞いたことない名前だな……それと最近はそもそもフィールドに出てないぞ。主に遊んでいるのはハウジングだしな〉」
イベントやって、現実でも戦って、少し疲れた俺は、最近、もっぱらハウジングで遊んでいた。
農場と牧場でゲーム内通貨がアホみたいに入ってくるので、還元の意味も込めて、屋敷を改造しまくっている。
ひとつの部屋をジャングル風とか宇宙空間風とか、コンセプトを決めて調度品を買い揃えたりすると、面白い。
装備部の職人たちのデザインとNPCドールの職人たちのデザインが、偶然にもかっちりハマったりすると、自己満足度が高い。
「ああ、そうなんですねー。
てっきりグレンさんがフィールドで難癖つけられて返り討ちにして、恨まれているとかそういう話かと思ってましたねー。
でも、そういうのじゃなさそうで安心ですねー」
「ゐーんぐ?〈マンジとは揉める要素がないはずだけどな?
嫌な聞かれ方ってのは?〉」
逆に、にこぱんちとは上手くやっている。
事がリアルも関わってくることだけに、あまり大っぴらにはしていないことだが。
「ん〜探るような感じと言いましょうか……リアルは知っているかとか、何してるやつなんだとか、興味本位という感じではなかったですねー」
何かまずいことでもしただろうか?
「あ、グレン、居たミザ!」
どこかのフィールド帰りだろう煮込みが、俺を見つけて寄ってくる。
「ゐーんぐ?〈おう、煮込み! フィールド帰りか?〉」
「新フィールド行ってきたミザ!」
「ゐーんぐ……〈そういえば、新フィールドはまだ行ってなかったな……〉」
「じゃあ、今度、みんなで行くミザ!
……っと、それはそれとして、グレンは磯ロックってプレイヤーは知ってるミザ?」
「ゐーんぐ?〈磯ロック? いや、知らないな〉」
「小規模レギオンの戦闘員で、グレンの大ファンだって言ってたミザ。
私にしつこくグレンのこと聞いてくるから、なんだか変だと思ったミザ」
「あら、煮込みんもですかー……」
「も? サクヤもミザ?」
「ええ、私の場合はグレンさんを恨んでいそうな方でしたねー」
「これはやっぱり、『ネオ』のアダム効果による知名度アップが原因かミザ……?」
「ああ、道端の草を食べるっていう、あのアダムですねー」
雑草茶な。
確かに、アレの元ネタが俺だというのがバレてから、俺の知名度はさらに上がった気がする。
もしかして、アダムのせいで俺が恨まれるという流れだろうか?
「ゐーんぐ……〈迷惑な話だ……〉」
あまり気にするな、と二人から慰められて、その話はそこで終わったと思ったのだが、その後、フィールドに出て帰ってきた俺のフレンドたちが、次から次に俺のことを聞かれたが知り合いなのか、と俺に聞いてくることになった。
アダムの野郎……派手にやってるようじゃないか……ちくしょう……。
何か教えてくれたら、必ず礼はするからと、フレンド申請を投げつけてくるらしく、全員が訝しみながら、とりあえず名前だけチェックして断ったと伝えて来る。
何故かあちこちのレギオン員が、俺に興味を持っているらしい。
人によっては、手付けとして魔石を渡されたりもするらしい。
結構、貴重品だぞ。
なんだか嫌な予感がするが、俺のフレンドたちはさすがに弁えているらしく、それで俺の情報を売るやつがいないのは、有難かった。
しかも、律儀に全員がわざわざ俺に忠告しに寄ってくれるのだ。
───ねえ、グレちゃん。またゲーム内で何かやった?───
静乃からチャットが来た。
珍しいな。静乃が『リアじゅー』でチャットを飛ばして来るのは稀だ。
現実で話せば基本的に事足りるから、緊急の用でもないと、チャットすることなどほとんど無いんだが。
───いや、今日もハウジングで遊んでただけだが?───
───なんか、野良フィールドでグレちゃんのこと嗅ぎ回ってる人たちがいるみたいなんだけど?───
───は? そっちもか? なんだか今日は俺のフレンドたちが次々に、俺のこと何か知らないかって聞かれたって話をしてくるんだが……───
───なにそれ?───
───いや、最近はネオのアダムが暴れ回ってるだろ。おそらくそのせいかと思うんだが……───
───アダムはたぶん、そんなに暴れてないよ。イブの方は恨み買いまくってるけど、アダムはちょいちょい負けて逃げ帰ってるから、問題視されてないはずだけど……───
なんだってー!
あの野郎……俺が元ネタだって吹聴しまくったあげく、負けて逃げ帰ってるのかよ。
くそ! 勘弁してくれ……。スキル回し下手か!
───お、おう……そうなのか……───
───どうも『ネオ』はすっかり『リアじゅー』世界のプレイヤーと同じような扱いらしくて、アダムは何度か撃破報告も上がってるよ───
俺がハウジングに夢中になっている間に、そんなことになってたのかよ。
───なんだろうな、このモヤっとする感じ……───
───そんなことより、何か嫌な予感がする……気をつけてね。特に『狼人間』と『金山羊』はグレちゃんの生命線なんだから、間違っても絶対奪われたらダメだよ───
『リアじゅー』内では『狼人間』しか使わないが、現実でそのふたつは、まさしく生命線だ。
特に気をつけなくちゃな。
───ああ、忠告ありがとうな。まあ、もうしばらくはハウジングで遊ぶから問題ないが、外に出る時は充分、注意するよ───
そう答えて、チャットを閉じる。
なんだろうか、この時は肝心なことをすっかり忘れていたのだった。




