347〈声〉
「新エリアだよな……」
太ったイケメン響也が声を詰まらせた。
「どういうことだ……でも、たしかに位置関係からすると、『リアじゅー』のマップと酷似してる……」
自称スーパーハッカー、白せんべいも息を飲む。
俺たちの繋がりは『リアじゅー』が元になっている。
この場にいる全員が、ソレに思い当たり、言葉を失っていた。
表面の外観が整って来ている『ユミル』は、あちらが『観光区』、こっちは『飛行場』と、既に観ただけで理解できる形をしている。
「もしかして、『ガイア』は……」
「今は後にするでっす!
そろそろポイントに着くでっす」
どぶマウスが騒ぎを収めるように、押し殺した声で告げた。
俺たちは『ユミル』の地上に降り立った。
ここは『飛行場』の一画だ。見覚えがある。
頭の中で『シティエリア』と『ユミル』の地図を重ねるように参照する。
「オゥ……隠れマショウ!」
エセ外人アパパルパパがいち早く見張りに気付いて、俺たちは完成した建物の陰に隠れる。
「わふっ!」「わんっ!」
ドーベルマン顔の遺伝子組み換え人間が二匹歩いて来る。
と、動きを止めて、しきりに匂いを嗅ぎ始めた。
「う……もしかして匂い……?」
主婦のまりもっこりが袖の匂いを嗅ごうとして、自身がフルフェイスのヘルメットをしていることに気付く。
「ヤバ……」
山田がスキルで眠らせようとするのを制止して、俺はヘルメットを外した。
顔にMPを集めていく。
『狼人間』が起動して、俺の顔は狼に変化していく。
山田の眠り刺スキルと違って、俺は顔を変化させるのにMPは消費しないからな。動かすだけだ。
喉の奥から威嚇の唸り声を小さく響かせる。
ビクンッ! とドーベルマンたちがこちらを向く。
───何も見てないよな?───
「キャンッ……」「クゥーン……」
二匹はどちらがやべぇのかを理解したようだ。
分かりましたと言わんばかりに首を縦に振って、去っていく。
「グレちゃん、友達?」
「んなわけあるか……」
SIZUがふざけて言うのに、俺は憮然と答えた。
「この先じゃない?」
山田が指し示した場所は飛行船発着場の片隅だ。
『ガイガイネン』イベント時、俺は『りばりば』の一員として、ここで戦ったのを思い出す。
飛行船発着場の片隅にある下向きの鉄の扉。
あの時は、地面の照明装置のメンテナンスボックスでも埋まっているのかと思っていたが……『ユミル』の地図と照らし合わせれば分かる。
地下通路への入口だ。
何故、気づかないのか。
とにかく、俺たちはそこに向かう。
開けた場所で、かなり目立つはずだが、ドーベルマンたちは別の場所に行っているので、俺たちは無事、そこに辿り着くことができたのだった。
白せんべいお手製のハンズフリーキーを翳すと、間もなく扉が開く。
俺たちは侵入に成功した。
───助けて……───
侵入と同時に脳内アナウンスの声が響く。
「玉井?」
「どうした、グレン?」
響也が心配そうに声を掛けてくる。
「今、助けてって……」
「は? ここまでテレパシーが飛ばせる超能力者がいるのか」
白せんべいにも聞こえたらしい。
「いや、これはたぶん、前に来た時、助けられなかった玉井の声だ」
「玉井ちゃん? 誰が聞こえたの?」
俺の説明にSIZUが反応した。
聞こえたのは俺と白せんべいだけらしい。
「そっか……じゃあグレちゃんと墓さんは中心部に向かって!
救出は私たちでやる」
「つまり俺と白せんべいで玉井を助けるんだな」
やはり玉井は生きていた。
どういうスキルかは分からないが、生き延びていたのだ。
助けてやると言いながら、随分と間が空いたが、どうにか約束を果たせそうでホッとする。
正直、玉井はもう無理だと半ば諦めていたのもあって、俺はやる気に満ちていた。
「よし、白せんべい行こう。
今度こそ、玉井を助け出す!」
「あ、グレちゃん……」
中心部へと向かおうとする俺をSIZUが呼び止める。
「あの……無理しないでね……」
「ああ、任せろ!」
「グレン、待ってよ!」
「墓さんも、無理はダメだからね!」
「僕? 僕は無理なんてしないよ。悪いけど……」
「うん。ダメなら逃げていいから!」
「もちろん」
そんなことを言って、白せんべいが俺に続くのだった。




