343〈ネオ〉
『フレイムキグナス』が地面に空いた穴に落ちた直後、そこからは『ガイガイネン』のケージが顔を覗かせる。
『フレイムキグナス』は身体半分がケージの口の中だ。
「うわっ! おい、ガイガイネンイベントは終わったはずだろ!」
極太なカニ爪が『フレイムキグナス』に迫り、『フレイムキグナス』を口の中へと送り込もうとする。
「俺たちはネオだ。この世界に適応することになった以上、外概念と呼ばれるのは遺憾だな。
それから、俺はミブロレギオンのアダム。
以後、見知りおいてくれ」
アダムは淡々と言った。
「ちょ……おい、ピーチフラワー!
助けてくれ!」
「子供を叩いたってホント?」
「いや、今、それどころ、じゃねえ……」
グイグイと押し込むカニ爪とそれをなんとか防ごうとする『フレイムキグナス』が力比べをしているが、次第に押し込まれていくのが分かる。
「はあ……助けたげるけどね……怪人の言ってることが本当だったら、軽蔑するからね!」
『ピーチフラワー』がスキル武器『タンゴ・ロッド』で俺たちをまとめて吹き飛ばすと、大きく跳んだ。
倒すことより動くことを選んだヒーローに俺たち戦闘員がどうにかできる訳もなく、あっさりと『ピーチフラワー』は戦闘員の壁を突破した。
だが、目の前に立ちはだかったのは俺の遥か上空から急降下したアダムだ。
くそ、ボスクラスの奴が参加するのかよ!
『フレイムキグナス』のすぐ近くまで来ていた『ピーチフラワー』に雷撃が当たる。
『ピーチフラワー』のダメージは180点程度で、ダメージよりも『ショック状態』がキツそうだ。
おや?
『シュリンプマン〈模倣人格〉』だとしたら、今の一撃で『ピーチフラワー』が死んでいてもおかしくないが……。
「……ふむ。この程度になるのか。
肉体を維持するためとはいえ、なんとも心許ない存在になったな……」
アダムは手を、わきわきさせつつ自分自身を確認するようにしていて、動きを止めた。
「お、おい、ピーチ……」
すでに胸丈くらいまで食われている『フレイムキグナス』が情けない声をあげる。
「くっ……あっぶないじゃない!」
時間にして数秒、本来なら致命的な行動不能だが、俺たちは一連の出来事に動けずにいた。
アダムの急降下から、敵も味方も全員が成り行きを見てしまっていた。
唯一、『ピーチフラワー』だけが『ショック状態』の解除と共に動き出す。
「こんのぉー!」
『タンゴ・ロッド』がアダムを襲う。
「げほぁっ!」
アダムが呻きながら吹き飛んだ。
普通の怪人と同程度のダメージ。
おや? これも予想外だ。
「い、痛つ……」
アダムが殴られた左腕を擦りながら、立ち上がる。
そして、あろうことか、上空の俺を指さした。
「おい、オリジナル! お前、弱くないか!
めちゃくちゃ痛いぞ!」
文句を言われた。
知らんがな。
アダムの元になっているのは俺だ。
だが、『ネオ』と化してから、アダムは、本人の言葉によれば肉体の維持のために本来の『シュリンプマン〈模倣人格〉』の時の強さを捨てた。
だが、捨てたと言っても、おそらく俺の怪人変身後よりも強いが、ヒーローの肉体系能力値と同等かそれくらいまでの強さらしい。
しかも、もしかして感覚設定︰リアルなのかもしれない。
「ゐー……?〈お前、アホなのか……?〉」
「お前、それは自分に跳ね返るのを知ってて言っているのか?」
はっ? もしかして、知能レベルも俺基準……なの、か。
「オリジナル? もしかして、あんた肩パッドから生まれたシュリンプマンなの?」
『ピーチフラワー』が気を抜かれたように言った。
「ネオだ。俺をシュリンプマンと呼ぶな!
それにアレは確かに俺のオリジナルの中核だが、俺はアレ以外にも取り込んでいる、言わばハイブリッドだ!
言語スキルすらまともに持たないアレ扱いはやめろ!」
「ゐーっ!〈いつまでも人様を指さすんじゃねえよ! 【炎の鷹】!〉」
俺の翼から炎の鷹が生まれてアダムへと飛ぶ。
悪いが、俺は人様を指さすのが失礼なことだということくらいは知ってるぞ。
そんな怒りを込めて、炎の鷹は飛んだ。
「【氷の梟】!」
アダムが氷の翼から放った氷の梟は、俺の炎の鷹を飲み込んで、俺に直撃した。
冷たいと思う間もなく、その物理的ダメージで俺は腹を食い破られて死んだ。
───死亡───
俺は復活石から現れる。ファミレス屋上だ。
くそ!
属性的打ち消しをやられた。
「ピーチ! おい、ピー……」
「うるさいわね。今、それどころじゃないのよ!」
ケージの口の中に顔まで埋まった『フレイムキグナス』の手に『タンゴ・ロッド』を握らせ、『ピーチフラワー』がそれを一気に引き上げようとする。
「それはダメだ! 【バニッシュ・サンダー】!」
「うっ……」
『ピーチフラワー』はまたも『ショック状態』で止まる。
「ちょっと、ソイツは私たちの獲物だンター!
【引き寄せる手】」
ようやく我に返った『セイレーンプリンター』が相手を自分の目の前まで引き寄せるスキルを使った。
『フレイムキグナス』が『セイレーンプリンター』の目の前に現れる。しかも、『行動不能』の状態異常付きだ。
「あ、くそ! ならば!」
アダムが軽く手を振る。同時にケージが跳んだ。
どすん! と地面に現れたケージは『ピーチフラワー』の居た場所に降りた。
ケージの背中に人影が見えた。
「「「ピーチフラワー!!!」」」
『ヴィーナスシップ』の戦闘員たちが叫んだ。
一瞬の出来事だったのだ。
『ピーチフラワー』はケージに飲み込まれてしまった。
「助けるのよ!」
『ヴィーナスシップ』の誰かが叫んで、次々と『ビームチャクラム』がケージに飛んだ。
「やらせらるか!」
ケージが来た時に空けた穴に向かい、アダムが身体を張ってそれを守った。
「イテッ! イテッ! イテッ! くそ! 痛てぇんだよ! 急げ!」
アダムに1点ダメージが集中する。
ケージは穴に飛び込んだ。
「だぁあああっ! くそ! 戦力が整ったら覚えてろよ!」
アダムはケージを追うように穴へと飛び込む。
「待て!」「待ちなさい!」「逃がさない!」
『ヴィーナスシップ』の戦闘員たちは、『ピーチフラワー』を助けるべく、次々に穴へと消えていった。
一瞬の間ができたものの、俺たち『りばりば』は思い出したように『フレイムキグナス』に殺到した。
「リズム打ちンター!
私は肩パッドと戦闘員を減らすンター!」
『セイレーンプリンター』が叫ぶ。
俺たちは、こうして『フレイムキグナス』を倒すことに成功した。
結果的に俺は最後まで残れず死んだ。
残った『りばりば』戦闘員たちは『セイレーンプリンター』を逃がすために、最後まで戦い、『セイレーンプリンター』は見事に死なずに隠れることに成功。
その後、基地に戻って来たのだった。
新たなる敵『ネオ』の登場。
後には、その問題が大きく立ちはだかることになった。




