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338〈ご免罪符ストレス逸らし作戦〉


 新しい『作戦行動』が決まった。

 『ご免罪符ストレス逸らし作戦』と大画面に書かれている。

 簡単に言えば、子供たちに『ご免罪符』という瞬間的に『忘却』の状態異常を起こすシールを配ることで、子供は叱られそうになったら『ご免罪符』を使い逃走、大人はそれによって怒りの振り下ろし場所がなくなりストレスが溜まる。そのストレスを感情エネルギーとしてごっそり頂こうという作戦だ。

 今回の怪人はセイレーンプリンターという歌姫妖精と(コア)︰プリンターの組み合わせ怪人だ。


 『ご免罪符』を使うと「ごーめんなーさい〜♪ ご〜めんなーさいー♪」という学校のチャイムのような歌が流れる。

 この曲の間はシールを貼られた対象が『忘却』の状態異常になるという仕組みらしい。


 今日は平日だが、久しぶりの『作戦行動』ということもあって、参加者が多い。

 俺も参加したかったが、残念ながら抽選に漏れてしまった。

 ならば、ボランティアだけでもと思ったが、子供たちに『ご免罪符』の使い方を説明する必要があるため、『言語』スキルなしではボランティアも無理だった。


 むう……新フィールド『交錯する光闇の宮』に行くか、『作戦行動』を見守るか、悩むところだな。


「グレンさんは『作戦行動』を主催する気はないんですか?」


 ボランティア募集の受付をしている糸が聞いてくる。


「ゐーんぐ……〈俺のスキルで効率的な作戦が思いつかないのと、ヒーローとサシで勝負になった時、勝てる未来が浮かばないからな……〉」


 普通に戦ったら、普通に負ける。

 例えば、ヒーローの動きを止めて、部位破損狙いに行くとして、ヒーローを止めている間に敵戦闘員から撃たれたら、俺は死ねる。

 怪人化したところで俺のHPはたいして増えないからな。


 乱戦の中で虚をついて喰らうか、敵が一人なら俺が敵を止めている間に仲間に倒してもらうのが俺の生きる道だ。


 負ける前提で戦うのはどうもな……。


 勝てる戦いをしろと教えてくれたのは、誰だったか。

 まあ、たいして教えを守った記憶はないが。




 迷った末に、俺は『作戦行動』を見守ることにする。

 新フィールドは逃げないが、『作戦行動』は今しかないからな。

 また、昨日から各レギオンの『作戦行動』が今までの鬱憤晴らしかのように各所で頻発している。

 あまりに頻発するのでヒーローの手が回らず、それなりの成果を上げたレギオンもある。

 平日でもゴールデンタイムの今の時間なら、ヒーローにバレずにそれなりの成果が出せるかもと思うと、やはり見逃せない気がする。


 新フィールドが解放されたばかりだが、この調子なら、また更に新フィールドが解放される日も遠くないかもしれない。


 大画面が切り替わって、ボランティア参加者たちの活躍が映し出される。




 例えば公園で、大道芸を披露して子供たちを集めて、芸人に扮した戦闘員が『ご免罪符』を配っている。

 時には学校のカウンセリングルームで、カウンセラーと入れ替わった戦闘員が『ご免罪符』を配っている。気絶させたカウンセラーの白衣が掃除用具入れからハミ出しているのに、ハラハラさせられる。

 子供イベントと銘打って、お寺の境内を借りて、テント内で人形劇をやっている戦闘員もいる。


 『ご免罪符』は順調に子供たちに浸透しているようだ。


 あちらの家庭、こちらの公園、そちらの学校で『ご免罪符』のチャイムが聞こえる。


 おもちゃを片付けずに出掛けようとした子供を親が叱ろうと仁王立ちすると、子供は『ご免罪符』をぺたり。

 『ごーめんなーさい〜♪』のチャイムが鳴る間に子供は友達と出掛けてしまう。

 親は「あら? あ〜もう!」と言いながら渋々片付けを始める。

 帰って来たらお説教してやる、と思っているようだが、子供たちは新しい『ご免罪符』を貰いに行っているのだ。


 これは、ストレスが溜まりそうだな。


 人形劇のテントの奥では、怪人『セイレーンプリンター』が歌いながら右腕に配置されたボタンを押すと、腹の部分に設置された排出口から『ご免罪符』がプリントされて出てくる。

 胸と腹が大きめの家庭用プリンターで手足と顔は青から水色のグラデーションになっている怪物女という姿で、大きく尖った耳、裂けた口、うねりながら長く伸びた髪などが特徴的だ。

 胴体部分がプリンターな寸胴体型になっているがそこから伸びる足は大きくスリットの入った青いドレスに包まれ、やけに艶かしい。

 あまりじっくり観ていると、頭がバグって逆にエロく見えてくるようなデザインだ。

 また、歌声はハスキーボイスで、これまたエロスを感じさせる。


 エログロというやつか。

 プリンターも微妙な曲線が肉感的に見えなくもない。


 これ、ヒーロー側は映像に残すのを躊躇いそうだな。

 いや、逆にバズる可能性もあるか。


 だが、今のところ順調に進んでいる。

 事件が起きているのが、家庭内や学校という閉鎖空間だから、パトロールしているヒーロー側戦闘員に気付かれにくいのだろう。


 また大人たちのストレスを感情エネルギーとして吸い取ると、大人たちは何で怒っていたのかを忘れてしまう。

 いい作戦かもしれない。


 俺は感心しながら大画面を眺めていた。



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