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332〈模倣人格〉


 嫌な予感ひとつめ。

 そいつは『りばりば』の戦闘員だと分かる格好をしていた。

 ふたつめ。

 しょぼくれた背中でラーメンを啜っていた。

 みっつめ。

 倒壊を免れたアパートのある方角が良くなかった。

 方角でいえば西。そう、俺のアパートがある方角で、近づくにつれソレははっきりする。

 俺のアパートだ。


 いつだ? いつ食われた?

 いや、心当たりがありすぎてまったく見当がつかない。


 建物の色味やデザインは違うものの、位置関係を類推するに、俺のアパートだ。


 レオナ、俺、案内してくれた小規模レギオンの代表の三人はアパートの扉を叩く。

 部屋番号を見た瞬間、崩れ落ちそうになる膝をなんとか堪える。


 ガチャリ。


 扉から顔を覗かせたのは、俺を二回りくらい筋肉ムキムキにしたおっさん『りばりば』戦闘員風の『シュリンプマン〈模倣人格〉』だった。


「あ〜、いらっしゃい……う……マジか……」


 流暢な言語。おや? と思う。

 『シュリンプマン〈模倣人格〉』は頭を抱えて難しい表情〈目出し帽越しでもそれくらいは分かる〉をしたかと思うと、なんとか立ち直ったのか、扉を開けた。


「立ち話もなんだ……お茶くらい出すから、入ってくれ……」


 そう言って、『シュリンプマン〈模倣人格〉』は部屋に引っ込む。


「罠ですかね?」


 小規模レギオンの代表がレオナに言う。


「今は分からない。行くしかないわね……」


 レオナは意を決したように、動き出す。


 部屋の中は、いかにもな男の一人暮らしという雰囲気だった。


 卓袱台に座布団が人数分。敷きっぱなしのせんべい布団。料理機ホームメイダーからピコンと音が鳴ってヤカンに入ったお湯が出てくる。

 手馴れた感じでヤカンに直接、何かの葉っぱを入れて蒸らす『シュリンプマン〈模倣人格〉』。


「すまないな。何もかも自給自足なもんで、まともな茶葉は手に入らないんだ。

 ああ、適当に座ってくれ。

 色々試したんだが、これはイケる。

 まあ、自家焙煎雑草茶ってとこだ」


 雑草茶かよ。

 心の中で突っ込みを入れつつ、俺は普通に座った。

 レオナたちは警戒していたようだが、俺の行動を見て、同じく座ることにしたようだ。


 セットではない湯呑みがよっつ。

 机に並べられる。

 デカい図体の『シュリンプマン〈模倣人格〉』が、ちょこんと卓袱台の一角に座って、雑草茶をひと口啜る。


「ふぅ……美味い。

 ああ、楽にしてくれ。ケンカする気はないんだ」


 なんとも暢気な奴だ。

 だが、その弛緩した雰囲気に流されて、俺も雑草茶に手を伸ばす。

 え? という顔でレオナがこちらを見てくるが、話し合いの場だ。

 相手のなけなしっぽいおもてなしを受けておかないと、円滑に回らないからな。


 ずずっ……。啜る。なるほど。炒ってあるからか、少しの苦味と立ち昇る香気は悪くない。


「ゐーんぐ……〈ふぅ……美味い〉」


「ゐー!〈やはり、分かるか!〉」


「ゐーんぐ?〈やはり……つまりお前は?〉」


「ゐー……〈ああ、お前がオリジナルの一人、というと自分を否定するみたいで微妙なんだがな……〉」


「あの……何を?」


 代表の男が俺たちを交互に眺めている。


「ど、どういうことですか?」


 レオナも俺たちを交互に見ていた。


「そうだな……お前たちが言うところのシュリンプマン……その最初の一人が俺だ。

 苦労したよ。

 なにしろせっかく新しい星を見つけて、住もうと思ったら、ここは人種のるつぼみたいになっている。

 しかも、俺たちがこの星に適合するのに結構掛かってしまったからな……。

 ここは随分と複雑なコミュニケーションの方法があるもんだと、ある意味感心してしまった……」


 両手を胡座をかいた膝の上に載せて、深くため息を吐く『シュリンプマン〈模倣人格〉』。

 俺たちが何も言えないでいると、そのまま続ける。


「ああ……敵意があるのは理解したんだ。

 俺たちがこの星に住むには、それなりの変化を起こさないといけないからな。

 それに対する反発があるのは理解した。

 だが、ここまで変化を受け入れる土壌があるなら、俺たちも受け入れる余地があるんじゃないかと思うんだが……どうだろう?

 いや、お前たちの一存で決められないだろうことは理解しているんだが、高次元でのやりとりは受け入れてもらえないようだからな……」


「ゐーんぐ……〈すまないが、言っている意味が理解できない……〉」


「ああ、そうか。ええと……そうだな……。

 お前たちが言うところの、この星の今を形作るもの。

 神という法則の中に入りたいんだが、俺たちの理解がまだそこまで及んでいないんだ。

 その理解を深めるべく、色々と調べたりしているんだが、その時点でお前たちから反発が起きたんだ。

 ケンカを売られたというか……。

 最初は、理解できなくてな……それがコミュニケーションなのかと模倣してみたが、お互いの理解が進む内に、これが反発心だと理解したんだ。

 だが、俺たちとしてもこの星に住めないとなると、行くところがなくてな……。

 そこで俺たちなりに理解を深めるべく、この星の法則に介入しようと試みているわけだ。

 分かるだろうか?」


「……理解、ですか?

 我々を食べて、殺すことが?」


 レオナが苛立って聞いた。


「まあ、手近なところから理解を進めたら結果的にそうなったというしかないな。

 俺が生まれたことで、ようやく少し理解が進んだんだが、どうすれば反発されずに法則に介入できるか分からなくてな。

 それに、俺もまだこの星の知的生命体を完全に理解しているとは言い難い。

 そこで、新たなコミュニケーションとして、言語という手段を取ることにしたんだが……もしかして、これも反発心だったりするのか?」


 なにやら根本からして違う存在だと言う気がしてくる。

 俺は静かに雑草茶をもうひと口、啜るのだった。



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