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『シュリンプマン〈模倣人格・ダゴン〉』は倒したが、奴によって統制されていた大型『ガイガイネン』が一斉にそこから外れて、ダンジョンの崩壊と共に中心にいた俺は無限座標爆破に巻き込まれて逃げ場をなくして死んだ。
あの瞬間、自分が一匹の狼になっていたことを覚えている。
ガチャ魂の暴走だったのだろう。
色々なものが自分の中に流れ込んで来たのを理解した。
自分ではあまり意識していなかったが、俺はガチャ魂酔いをしていたらしい。
今までと何か違いがあるかと問われれば、食への関心が高まったことくらいだろうか。
だが、それくらいだ。
それとも、自覚のない部分で俺という人間は変質しているのだろうか。
正直、分からない。
分からない以上、問題などないのかもしれない。
ただ、暴走したにも関わらず、俺は死んだ。
数こそパワーとは良く言ったものだ。
大型『ガイガイネン』が放つ座標爆破で俺は縛られたように動けなくなり、HPを削りきられて死んだ。
あの時俺は、弟妹たちに向けて叫んでいた。
たぶん、ヨルムンガンドとヘルに向けて蔑まれる時は終わりだとか、今から助けに行くだとか、そんなことを叫んでいた気がする。
ガチャ魂にはやはりストーリーが仕込まれていた。
フィールド『寒冷なる氷雪の都』で手に入るガチャ魂にストーリーが仕込まれていたように、『フェンリル☆☆☆☆☆』はそのガチャ魂ひとつに長い長いストーリーが仕込まれていた。
断片的にしか覚えてないが、それは冷たい怒りの物語だった。
妙に共感したのは覚えている。
だからだろうか?
ガチャ魂が暴走したにも関わらず、俺は納得していた。
『サボンスパイダー』や『ロータスフラワー』たちの声に押され、冷徹に勝利を計算しつつ、同時に怒りを感じていた。
それは讃えよと言いながら、讃える者たちを生贄として使う『ダゴン』にであり、足掻くのを諦めた仲間たちにでもあった。
今、思えば、仲間たちのその声こそ、最後の足掻きだったのかもしれないが、その時の俺にはソレを受け入れるだけの余裕がなかったのだろう。
そんな狭量な弱さも、ガチャ魂への共感に繋がっているような気がした。
このことは、静乃へのレポートには書けなかった。
従妹に向かって、弱音を吐くようで辛かったのだ。
年上としての威厳を保ちたいと考えている辺りも俺の弱さかもしれない。
長かった『ガイガイネン』イベントもあとひと息だ。
巨大樹に陣取る『シュリンプマン〈模倣人格・ニーズヘッグ〉』を倒し、残りの『ガイガイネン』を一掃するだけというところまで迫ったのだ。
だが、俺は翌日、思わぬニュースを聞いて驚く。
小規模レギオンの一部から流れてきたそのニュースは『シュリンプマン〈模倣人格〉』がもう一体いるということだった。
そして、そいつからはある提案をされたというのだ。
「不躾な願いなのは分かっている。
ただ、一度、考えてみてくれないか。
俺たちとの『共存』という道を……」
そう言われたということだった。
その『シュリンプマン〈模倣人格〉』は倒壊を免れたアパートの一室で、しょぼくれた背中を晒しながらラーメンを啜っていたらしい。
なんだそいつ?
見た目からして『りばりば』発祥の『シュリンプマン〈模倣人格〉』だと分かったので、俺たちに最初に連絡をくれたらしい。
レオナはとにかく見てみないと分からないからと、少人数でそいつに会いに行くことを決めた。
俺は護衛を頼まれたので、快く同行することにしたのだった。




