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 『ダゴン』に関して、貴重な情報を持ち帰ったことで、ようやく討伐の目処が立った。

 自動攻撃系スキル持ちによる目視に頼らない討伐だ。


 『ヴィーナスシップ』の『ロータスフラワー』のように、腕を四本増やして、その増やした腕は本人の意思と関係なく敵を攻撃するようなスキルを持つやつらが広く求められた。


 見てはいけないのなら、見ないで戦おうということだ。

 勝手に戦う剣、自動で敵を襲う蛇、見当違いの方向に撃っても自動補正されたり、跳弾が当たる銃などのスキル持ちが集まる。

 唯一、『ダゴン』の状態異常に対抗できるスキル持ちということで、俺も参加が認められた。


 俺は戦闘要員というより、記録要員という意味合いが強い。

 未だ完全にスキルの全てを暴いた訳ではない以上、不測の事態は起こりうる。

 『ダゴン』が何をしたのか、その時に観測するのが俺の使命だったりする。

 まあ、戦うなとも言われていないので、唯一直視して戦える人員として、精々頑張らせてもらうつもりだ。


 木曜日はマッピング部隊が何度も潜って、マップの共通性を探った。

 もしかしたら、何種類かのマップを使い回しているのではないかという疑惑を何人かが訴えたからだ。

 そうだとしたら、パターンが読めれば攻略速度が上げられる。

 これが大当たりで、マップパターンが四種類だということが判明した。

 四種類のマップがランダムで変化、しかも、必ず変化するので、前の一時間に使われたマップは次の一時間は使われない。

 これによって、マップが三種類に絞られた。


 金曜日。

 大規模レギオンによるマッピング部隊と雑魚敵殲滅部隊。

 レギオン関係なく組まれた『ダゴン』討伐部隊が用意され、俺たちの決戦が始まった。


「よし、マップ変更が開始された。可能性は一番、三番、四番のマップだ。

 一度の潜行でマップを特定、すぐに殲滅部隊を入れるぞ!」


 ジョーがマッピング部隊を率いていく。


 時間にして二十分。

 『ダゴン』討伐部隊が投入された。

 迷うことなく、雑魚敵が排除されたマップなど、軽い駆け足で進めば十分もかからない。

 選ばれた自動攻撃系スキル持ちたちが、地面だけを見て突入する。


「さあ、もうこれで終わりよ、シュリンプマン!

 食らいなさい!」


 目隠ししたままの『ロータスフラワー』が見当違いな方向を指さして宣言するのを、俺は肩を掴んで調整する。


「くっ……今だけなんだからね、肩パッド……いい気にならないでよ……」


「ゐーんぐ……〈はいはい……〉」


 相変わらず嫌われているな俺。


「ルーララー。我を讃えよ」


「その手に乗るか!」「もうネタバレしてんだよ!」「行け、我が子たちサボン!」


 俺は時おり反応する【全状態異常耐性(フェンリル)】でなんとか自我を保ちながら、『ダゴン』を観察する。

 全員が壁際に立って、『ダゴン』からの距離を同一に保っていた。


 遠距離で通じるスキルが『ダゴン』に集中する。


「ル……不遜なり。【パンの管理者(グラトニー)】!」


 波打つ衝撃波が赤いラインで表示される。

 これはタイミングを合わせてジャンプで避けられることが分かっている。


「ゐーんぐっ!〈今だ、ジャンプ!〉」


 俺の合図で全員がジャンプする。

 何人か失敗して瀕死になるやつもいたが、概ね成功だ。

 『ダゴン』は少し身体の大きさが縮んだ。

 どうもあのスキルを使うと、巨体が縮んでいくらしい。


「打ち止めだ」「俺ももう無理」「そろそろ近接を!」


 自動攻撃系スキルは回数制限だったり、大量のリソースが必要だったりというパターンが多いようで、遠距離攻撃組の攻撃が弱まる。


「近接、いくわよ!」


 近距離組が中心に向けて進み、攻撃を試みる。


 見ないで戦うのはかなり辛そうだ。


 『ダゴン』が動き出す。しかし、動きは遅い。強力なスキルほど代償が大きくなるものだが、『ダゴン』の動きの遅さはスキルの代償のような気がした。

 それにしても近距離組はみごとな動きだ。

 たまに味方同士で動きを阻害してしまうこともあるが、気配だけで『ダゴン』の動きについていっている。


 俺は本当に観察だけになりそうだ。


 『ダゴン』が【パンの管理者(グラトニー)】を放った。


「ゐ……ゐーんぐっ!〈い……今だ、跳べ!〉」


 くそっ! 近距離戦では全員が避けられるタイミングなんて見極められるわけがない。

 一瞬で近距離組がバタバタと倒れた。

 また、俺が中途半端な発声をしたせいで遠距離組もバタバタと倒れた。


「ルーララー! ひれ伏せ、我が血肉と成してやろう!」


「ひっ……くそ、離せ!」


 近距離組の倒れた一人の怪人が捕まって、『ダゴン』の鋭い爪で心臓をくり抜かれる。

 その血を浴びて、『ダゴン』は少しだけ膨らんだ。


 ぼとり、と落とされた怪人が粒子化していく。


 どうやら【パンの管理者(グラトニー)】のリソース補充に使われているようだ。


「肩パッドーーー!」


 俺を呼ぶ声がした。

 『サボンスパイダー』。『りばりば』の怪人だ。古参の一人で、再生怪人として頑張っていたが、最近になって同じサボン(コア)を見つけて、怪人に戻るという数奇な運命の人物。

 直接の知り合いではないが、目立つ嫌われ者という印象の人だ。


「俺はもうダメだ……お前は食ったら強くなれる……そういうスキルだ……俺を食え……食ってくれ……アイツのシャワーになりたくねえ!」


「ゐーんぐ……〈クモじゃんお前……〉」


 『ダゴン』が次の獲物に手を掛けた。


「うわっ、うわ……やめろ、はなせっ! へぶっ……」


 ぱたたた、と地面に赤い点が散った。

 自動で『ダゴン』を攻撃していた剣が持ち主と共に粒子化して消えた。


「そ、うだ……肩パッド……あんたなら……」


 『ロータスフラワー』が俺を見ていた。

 目隠しは衝撃で落ちてしまったらしい。


 もう俺のスキルは隠しようがないほどバレているから、今さら【神喰らい(オオカミ)】に言及されても驚きはしないが……そのためのリソースに手を挙げられるとは思っていなかったので、俺は少々固まった。

 変な緊張感がある。


「ルーララー! 我が贄となれる喜びを与える」


 『ダゴン』の手が倒れている『ロータスフラワー』に伸びる。

 その影に覆われたからか、『ロータスフラワー』は気力を振り絞って叫んだ。


「肩パッド! お願いっ!」


 何かが弾けた。

 俺は低空を【飛行】して、今にも捕まれそうな『ロータスフラワー』を【神喰らい(オオカミ)】で襲った。


 柔らかい肉。美味い。


「肩、パッドォォォ……」


 硬い外皮。溢れる体液。面白い。


「俺も食えぇぇ……」「俺ももうダメだ……」「どうせダメなら僕も……」


 毛皮の奥。滴る血肉。鎧の中の美味い肉。鱗のパリパリ。アレもコレも、お前らの怒りをスパイスに、俺は一時の享楽に溺れた。


 振り向く。


 デカい魚。美味かった。


 俺は……。


 周囲を大型『ガイガイネン』に囲まれていた。逃げ場などない。

 座標爆破。座標爆破。座標爆破。座標……。


 叫んだ。


 遠く弟妹たちに届けとばかりに。


「ウオオオォォォーーーン! ウオオオォォォーーーン!」


───存在値400がリヴァース・リバースに加算されます───



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― 新着の感想 ―
[一言] フルブーストされたからダゴンも瞬殺か……最後、何やらちょっと不思議な数値が加算されましたねぇ?
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